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プロレスラーやタレントとして知られる、スーパー・ササダンゴ・マシンさん(以下、ササダンゴさん)。じつは、もう一つの顔があるのをご存じでしょうか? それは、創業70年以上も続く新潟の金型メーカー「坂井精機」の三代目社長です。2010年に家業の坂井精機へ入社したのち、2020年に代表取締役社長に就任。以降、会社の代表として「金型」と日々向き合われています。
樹脂などを流し込み、部品を量産するための金型。その加工には金型職人の高度な知見や、精密な技術が求められます。そんな金型づくりのノウハウを活かし、2023年には会社初の自社製品「ササプラモ(※スーパー・ササダンゴ・マシンのプラモデル)」も開発。プロレスラー、タレント、実業家などに加えて、ついには「プラモデル原型師」という肩書きも名乗るように……。
そんな世界で唯一といっていい、金型や素材に精通したプロレスラーに、金型づくりの奥深さをはじめ、プラモデル開発の先に見据える「プロレスラーとしての夢」などをうかがいました。
取材・執筆:榎並紀行 写真:タケシタトモヒロ 編集:吉田真也(CINRA)
「なにに使われるのか、わからない部品」も。謎多き金型製造の世界
MOLpチーム(以下、MOLp):現役のプロレスラーのササダンゴさんが社長を務める坂井精機ですが、まずは簡単に事業内容を教えてください。
スーパー・ササダンゴ・マシン(以下、ササダンゴ):一言でいえば、うちは「金型」の製造業です。自動車やデジカメ、パソコンなどに使われる部品を量産するための金型をつくるメーカーですね。製造業界の裏方として頑張っています。
MOLp:具体的に、どんな部品の金型をつくっているのですか?
ササダンゴ:本当にいろいろな金型をつくっているんですが、残念ながらお客さまに対する守秘義務があって、具体的な製品名を明かせないんですよね……。たとえば、とある有名な医療用器具の部品は、ほぼすべての金型をうちでつくっていたりします。
あとは、なにに使われる部品なのかもわからず、お客さまの要望のどおりにつくることもあります。「とにかく硬くて丸い、筒状のものをつくってほしい」みたいな。そういうものに限って、とんでもなく高い精度が求められたりするんです。いったいなにに使うんでしょうね……。
MOLp:それだけ精度が求められるということは、きっと重要な部品なんでしょうね。坂井精機の技術的な特徴は、どんな点が挙げられるでしょうか?
ササダンゴ:私たちの工場では、主に「精密プラスチック金型」と「粉末冶金(やきん)金型」というものを取り扱っています。精密プラスチック金型は、凹凸のついた金型に樹脂などを射出して部品を量産するもの。プラスチックだけでなく、金属やセラミックのインジェクション・モールド(射出成形)を行なうための金型もつくっています。
一方の粉末冶金金型は、粉末状の金属を金型で圧縮した後に、高温で焼結して成形するというものです。焼結合金なんていう呼ばれ方もしますね。粉末の素材は無駄なく使えて、エネルギー効率がいい成形方法です。
金型づくりは超大変。「クセのある素材」を流し込む難しさ
MOLp:その2つの技術が、坂井精機の武器なんですね。
ササダンゴ:武器といっても、同じような技術を持っている工場は日本にいくらでもありますからね。ただ、あえて弊社の強みを挙げるなら、「ちょっとクセのある素材」が流し込める金型を数多くつくってきたことですね。
たとえば、自動車のエンジンやモーターの奥底に入っている小さな部品っていうのは、だいたい細かくてクセのある特殊な素材が使われることも多い。だから、金型をつくるのが超大変なんです。部品が揃って製品にしていくのはなんら支障がないものも、そもそもの部品自体の金型をつくるのがめっちゃ大変っていうケースは結構あります。
MOLp:「クセのある特殊な素材」というのは、どんな素材でしょうか?
ササダンゴ:わかりやすい例としては、車のモーターのギアとかシャフトですね。あれって、つねに高速回転の摩擦熱が起こったり、油を染み込ませたりするものなので、過酷な状況にも耐えられる特殊な素材が使われています。エンジニアリングプラスチックやスーパーエンプラと総称される素材なのですが、これって普段はカチカチに硬くて。硬いから何千個、何万個と量産すると金型もボロボロになってしまうんです。
そのため、耐摩耗性が高い金型でなければいけないし、なおかつ工業製品のコアな部分に使われる部品なので、相当な精度が求められる。おまけにメンテナンスもしやすくないといけなかったりで……。
MOLp:とにかく難題が多い素材だと。ちなみに金型の耐摩耗性って、どうやって高めるのでしょうか?
ササダンゴ:とにかく金型を硬く、強くするということですね。硬い金属を何度も焼き入れし、めちゃくちゃ硬くしたものを使って金型をつくります。当然、そこまで硬い金属を加工するには、それよりも硬いドリルを高速で回転させる必要がある。普通のドリルでは折れてしまいますから。
そうなると工具や機械も高額になるし、通常の切削加工だけではなく、いろんな加工方法の研究もしなくちゃいけない。削ったあとに磨いて仕上げるのも、組み上げるのも、なにもかも大変ですね。でも、うちはそういうものを山ほどやってきたから、硬い金属を加工するための設備やノウハウはあるほうだと思います。
超ベテランの職人も、毎日苦戦している仕事。だからこそ、やりがいがある
MOLp:金型製造の面白さは、どんなところにあると感じますか?
ササダンゴ:うちは70年以上続く会社で、キャリアが50年を超えるようなベテランの職人もいるんです。そういうベテランが、毎日のように四苦八苦しながら金型と向き合っている。つまり、金型ってそれくらいすごく奥深いものなんですよ。
たとえば、みかん1個分の大きさの部品を製造する金型でも、全部で200くらいの金属のパーツで構成されていたりするわけです。職人はそれらすべてを一つずつ加工して、寄木細工のように組み上げていく。そこは大変でもあるし、面白い部分でもある。また、技術者ではない私からすると、そういうものをつくれる職人はすごくカッコいいなと思います。
MOLp:特に、先ほどの「クセあり素材」を整形する金型をつくる仕事などは、まさに職人の腕の見せどころですよね。
ササダンゴ:そうですね。じつは、大手の自動車メーカーや家電メーカーなどであれば、自社で金型製造チームを持っているケースもあります。でも、そこではうまくつくれない金型というのがどうしてもあって、それをうちのような専業の金型工場にご依頼いただくんです。つまり、お客さまの手に追えないような難題が、こちらに回ってくることが多い。実際、うちの職人が簡単そうに仕事しているのを見たことは、一度たりともありません。
MOLp:簡単ではないからこそ、面白味ややりがいもありそうですね。
ササダンゴ:だと思います。実際、うちの工場は金型一つひとつを試行錯誤しながらつくっているから、ものすごく生産性が低いんですよ。でも、職人からすれば、それがやりがいや挑戦しがいにつながっているんだろうなと。楽しいことって、だいたい生産性が低かったりしますからね。プロレスしたり、プラモデルを組み立てたりとか。