そざいんたびゅー

盗撮からアスリートを守る新素材。
ミズノのユニホームがパリ五輪で日本代表を支える

  • Social

outline

総合スポーツメーカーのミズノは『パリ2024オリンピック(パリ五輪)』に出場する日本代表選手のために、アスリートを盗撮から守るための赤外線防透け生地「ドライ エアロフロー ラピッド」を開発。パリ五輪の14競技でユニホームや練習着として採用されています。この新素材のニュースは瞬く間に世界中で話題となりました。

今回お話をうかがうのは、開発を担当したミズノの田島和弥さん。赤外線カメラによるアスリートの盗撮被害は、近年、世界的にも問題となっています。ウエアとしての機能性を向上させながら、悪質な盗撮からアスリートを守り、競技に集中できる環境の提供を目指したという開発秘話と、その背後にある熱い思いをインタビューしました。

取材・執筆:宇治田エリ 写真:原祥子 編集:川谷恭平(CINRA)

取材を行なったミズノの大阪本社

パリ五輪の14種目に採用された「赤外線防透け生地」

MOLpチーム(以下、MOLp):ミズノが開発した赤外線による盗撮を防ぐ生地「ドライ エアロフロー ラピッド」は、パリ五輪に出場する日本代表のユニホームや練習着にも採用され話題となっています。実物を手に取ると、柔らかな質感で、薄くて軽い感触ですね。

田島和弥(以下、田島):そうですね。触った感触はいわゆるスポーツウエアで、これまで私たちがアスリートに提供してきた生地と比べても、質感に違いはほとんどないといえるかもしれません。

赤外線を防ぐ生地の開発は数年前から行なわれていたのですが、基本的なスポーツウエアとしての機能性が損なわれてしまうという課題がありました。従来の対策では、透けないように生地を厚くしたり、金属を吹きつけたりする手法が一般的で、そうすると生地が硬くなり、伸びが悪くなったり、汗が乾きづらくなったりしていたのです。

一方で今回私たちが開発した生地「ドライ エアロフロー ラピッド」は、赤外線を防ぎながらも汗処理の機能性も向上できたという点が魅力となっています。

「ドライ エアロフロー ラピッド」を使ったウエアは、パリ五輪の女子バレー、女子卓球、女子ホッケーなど14競技で使用されている
ミズノ グローバルアパレルプロダクト本部 コンペティションスポーツ企画・ソーシング統括部 材料開発課で技師を担当する田島和弥さん

MOLp:これまでのウエアと比べて具体的にどういった機能性が向上したのでしょうか。

田島:生地が濡れた状態でも通気性を保つという機能性に加え、生地が吸収した汗を早く蒸散することを可能にし、さらに赤外線カメラで撮影した際の下着の透けを防げるようになっています。

実際にアスリートの方にも使用していただきましたが、着心地も問題なく、パフォーマンスに集中することができたという評価を受けました。

パフォーマンス向上を追求しようとすればするほど高まる盗撮のリスク

MOLp:アスリートの盗撮被害についてうかがいたいのですが、赤外線カメラによる性的な撮影が問題視されていると思います。近年は条例で盗撮を「性暴力」として定めたり(※)、競技場内のセキュリティ強化を行なったりするなど、環境面で対策も進んでいますが、ミズノではこの社会課題をいつから認識されていたのでしょうか?

田島:社会課題としての認識はかなり昔からあったと思います。たとえば陸上競技の場合、スポーツメーカーは選手のパフォーマンスを最大化するために、関節の動きを邪魔しないように被服面積を少なくし、生地を薄くしたり、軽くしたりするなど、ユニホームの機能性を高めるために努力してきました。

しかし、アスリートの運動パフォーマンス向上を追求しようとすればするほど、盗撮されるリスクは上がってしまい、結果的に選手のパフォーマンス低下につながってしまいます。

ミズノでは、これらを念頭に置いたうえで、長年ものづくりを行なってきました。さらに、赤外線盗撮に関しても20年以上前から課題として認識し、盗撮対策の一端を担ってきたのです。

※2024年3月22日、福岡県議会はスポーツ施設などにおいて、性的な意図で同意なく撮影する行為について「性暴力」であると定義する県性暴力根絶条例の改正案を賛成多数で可決

赤外線カメラを使った性能テスト

赤外線カメラを防ぐ、素材に隠された原理

MOLp:今回開発した「ドライ エアロフロー ラピッド」の素材としての特徴を教えていただけますでしょうか?

田島:「ドライ エアロフロー ラピッド」は、弊社が2019年に発表した「ドライ エアロフロー」という独自素材をさらに進化させたものです。この素材は、「空隙(くうげき)」という通気性を保つための通気孔ができるように編まれています。それによって汗の膜が生まれにくく、大量の汗で生地が濡れても通気性を保つことができます。

https://www.youtube.com/watch?v=Mw7gsqwpgdE
MIZUNO TRAININGのYouTubeより

田島:この技術を土台にした「ドライ エアロフロー ラピッド」は、近赤外線領域の吸収に優れた鉱物を糸に使用しています。赤外線カメラに対応できる、赤外線防透けの機能を付与しながら、熱を吸収し、汗を早く蒸発させる速乾性を向上させているのです。

NEXT

世界中から巻き起こった反響。
「安心して、集中してプレーできるのがうれしい」とアスリート

  • 1
  • 2