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2015年に社員の有志活動としてスタートした「MOLp」。そこからさまざまなプロダクトを発信し続けて10年目に突入した今年、10月29日(火)から11月3日(日)に3回目の素材フェス『MOLpCafé2024』(以下、『MOLpCafé』)をライトボックススタジオ青山にて開催します。
社内外での認知度も高まってきた近年では、入社前からMOLpの取り組みに惹かれ、参加を熱望するメンバーも増えています。今回はそんな若手メンバーたちと、MOLpの立ち上げからクリエイティブパートナーとして参加する田子學さんの座談会を実施。10年目となるMOLpの活動で起きてきた変化や魅力、そして今回の『MOLpCafé』の見どころを語ってもらいました。
取材・執筆:榎並紀行(やじろべえ) 写真:タケシタトモヒロ 編集:吉田真也(CINRA)
10年目のMOLpは何が大きく変わった?設立当初と比較する、研究者たちの意識
MOLpは今年で10年目になりますね。立ち上げからクリエイティブパートナーとして参加されている田子さんは、これまでの成果をどのように見られていますか?
田子學(以下、田子):最初にお声がけいただいた際、当時の研究開発部門のトップの方からこう言われました。「研究者の頭のなかを引っかき回してほしい」と。私はその言葉を「いままでにない研究者の発想力を呼び起こす」ことだととらえたのですが、それはMOLpのこれまでの活動を通じて、ある程度は達成できたのかなと感じています。
田子:実際、研究者の方々と会話していても、昔と現在では一人ひとりの研究に対する姿勢や内容がかなり変化していますから。一般的な化学メーカーの場合、自分の専門性の範囲内でしか物事を見られない、語れない研究者が多く、以前の三井化学もそうした傾向があったと思います。
しかし、いまの三井化学は、それぞれが専門性を持ちつつも、いろんなことに興味を抱き、そのなかで何か面白いことをできないかと考えている人が多く集まっている会社なんですよ。MOLpは、そんな研究者たちが自分の専門性をベースにしながら、ときにはその枠を大きく超えて、自由な発想で素材を開発する場になってきたのではないかと思います。
実際、MOLpからはたくさんのユニークな素材やプロダクトが生まれています。こうした成果によって、MOLpという活動自体の存在も広く知られるようになっていますよね。
田子:社内はもちろん、最近は社外からも注目されていると感じますね。たとえば、数年前からは就活中の学生や転職活動中の方がMOLpの活動に関心を抱き、入社と同時に参加したいと言ってくれるケースも増えました。
じつは、ここにいる奈木さん、瀬田さん、泉谷さんも、まさにそうした経緯でMOLpに入ってくれたメンバーなんです。始めた当初は、そこまで影響力を持つ活動になるとは想像していませんでした。競合の化学メーカーの方も「いわば『部活動』のような団体で、ここまでインパクトのある実績を築かれているのは、正直うらやましい」とおっしゃっていますよ。
「化学メーカーってこんなこともしているんだ」。若手メンバーがMOLpに参加した理由
では、あらためて奈木さん、瀬田さん、泉谷さんがMOLpに参加した動機と経緯を教えてください。
奈木沙織(以下、奈木):私は2021年にキャリア採用で入社したのですが、転職活動中にMOLpの存在を知りました。前職では「素材が製品として形になるプロセス」を経験したのですが、もともと素材についてもっと勉強したいという想いがあって、化学メーカーへの転職を考えていたんです。
一方で、前職での経験を活かせないのももったいないなという想いがあり、悩んでいました。そんなときにMOLpを知り、「ここなら化学メーカーにいながら、素材をプロダクトに落とし込んで、世に届ける経験ができそう」と感じ、入社前の2021年10月に開催された『MOLpCafé 2021』にも足を運びました。
そこでいろんなプロダクトを見て、研究者の皆さんに話を聞いて周りました。化学メーカーの展示会とは思えない驚きやワクワクを覚えましたね。その場でメンバーの方に「私が三井化学に入社したら、ぜひMOLpに参加させてください」とお願いしました。
瀬田蒼(以下、瀬田):私も奈木さんと同じ2021年に新卒で入社しました。就職活動中に化学メーカーのことを調べていたらMOLpの記事が出てきて、すごく面白そうな活動だなと。そこから田子さんの著書も読んで、「こんなに情熱を持って活動されているメンバーの方々に、直接会って話してみたい!」と、さらに興味が湧きました。
ただ、入社したはいいものの、どうすればMOLpに参加できるのかわからなくて。社員なのに、MOLpのTwitter(現在:X)の公式アカウントに「MOLpに入りたいです!」とDMを送ってみたんです。そこでメンバーの方とつながり、無事に入れてもらうことができました(笑)。
泉谷留美(以下、泉谷):そんな入り方あるんですね(笑)。私は2023年に新卒で入社したのですが、MOLpを知ったきっかけはInstagramでフォローしていたモデルさんの投稿でした。その方が2021年の『MOLpCafé』に行かれた様子をアップしていたんです。
そのときは「化学メーカーってこんなこともしているんだ」くらいにしか思わなかったんですけど、就職活動中にいろんな企業について調べているなかで、あらためてMOLpの活動を知って「三井化学って、ひときわ面白いことをやっている会社だな」と思って。
そこから興味が湧いて、入社初日のオリエンテーションの直後に「MOLpって知ってますか?私も入りたいんですけど」と周囲の人に言っていたら、メンバーとつながり参加することができました。
瀬田:のちのち知ったのですが、じつはMOLpって意図的にメンバー募集を社内のどこにも掲載していないんです。あえて簡単にはたどり着けないようになっているのですが、ちょっと勇気を出せば、すぐにメンバーにつながることができてメンバーに加われます。私のやり方は邪道だったかもしれませんが……(笑)。これから三井化学に入社する新入社員の方でMOLpに興味ある方がいたら、ぜひ一緒に活動したいですね。
「与えられた仕事だけをこなす人になりたくない」。有志のメンバーが集うMOLpの特徴
MOLpに参加して良かったことは何ですか?
奈木:MOLpの活動は、自由な発想でモノづくりができるので刺激があります。参加した当初は、ほかのメンバーの試作品を見ては「こんなものも、つくっちゃうんだ……!」と驚くことばかりでした。もちろん、業務ではないぶん主体性が求められますが、自分の頑張り次第でアイデアをプロダクト化できる場所があるというのは、すごく楽しいですね。
泉谷:私も同じく、プロダクト開発の考え方には驚きました。MOLpに参加する前は素材起点、つまり「三井化学にこんな素材や技術があるから、こういうプロダクトをつくろう」みたいな感じで、ものづくりを進めているのかなと想像していました。
でも、実際は真逆で、素材ありきではなく「課題起点」だったんです。社会全体の大きな問題から自分たちの身の回りで気になっている事象まで、おのおのが解決したいことを起点に話が始まります。そこから、ああでもないこうでもないとやっているうちに気づけば素材と課題がつながって、プロダクトとして表現されていくんです。
素材の知識に乏しい新人の私でも、どんどん会話に参加できてプロダクトづくりに関われるのが面白くて、毎月の定例会に顔を出すようになりました。
瀬田:たしかに、いい意味で社歴や経験値は関係なく、主体的に関われるのがMOLpの特徴ですよね。私は2021年の秋に開催された前回の『MOLpCafé2021』にメンバーとして参加しました。
『MOLpCafé』では、自分自身が携わっていないプロダクトも含めて、会場全体に展示されているプロダクトの概要やストーリーを来場者の方々に説明することが求められるんです。私は当時、まだ入社して半年でしたが、そんな新人が社内外の来場者に対して、自分の専門と異なるプロダクトを網羅的にかつ情熱的に説明する機会なんて、なかなかないですよね。そういった経験などを通じて、短期間で素材やプロダクト、三井化学の歴史などについて理解を深められたのは、MOLpに参加したからこそです。
また、MOLpにはさまざまな部署のメンバーがいます。自分が何かをつくりたいときに、必要な知識を持っている人にすぐアクセスできるのも大きなメリットですね。
ちなみに、参加した当初はメンバーのことを知らなくて、何気なく話していた人がじつは社内のえらい人だったなんてことがよくありました。新人や若手だと接する機会のない立場の人がフランクに話しかけてくれるのは、三井化学ならではだと思います。特にMOLpには「フランクな重鎮」がいっぱいいて、悩みを相談すると一緒に悩み抜いてくれて、優しく親切にやるべき方向性を指し示してくれることがしょっちゅうあります。
MOLpはあくまで有志による活動なので、それぞれ仕事との両立も大変そうに思います。MOLpで素材の研究やプロダクトづくりに取り組むモチベーションを教えてください。
奈木:まず、与えられた仕事だけをこなす人になりたくないというのが一つ。自分自身がやりたいこともやってみたい。それから、三井化学にはいろんな分野のプロフェッショナルがいて、たくさんの材料や設備があるので、これらを十分に活用しないのはもったいないと思うんです。
通常業務では扱わないような興味のある素材や、日頃は触ることのない装置を用いて試作・分析ができます。さらに、未経験のことも困ったらメンバーを通じて、詳しい方を紹介してもらい、頼ることもできます。そういった社内のリソースをフル活用してチャレンジできるのがMOLpです。知らない間に知見や人脈が広がりますし、私にとっては純粋な気持ちでモノづくりを楽しめる場所ですね。
瀬田:私は未来の世の中に、よりワクワクするものを届けたいという想いがモチベーションです。一方で、MOLpメンバーと一緒に何かを創りたいという気持ちも同じくらいモチベーションになっています。
MOLpのメンバーは一人ひとりが尖りきった個性をもっています。MOLpに参加する目的やつくりたいものはそれぞれ違いますが、対象が何であれ創造性を持っているところはみんな共通していると感じています。そんな人たちと一緒に何かをつくる過程は楽しいに決まっていますよね。
泉谷:私はどんな環境であれ、ずっと同じところにいると成長って止まってしまうのかなと思っていて。実際、いま所属している部署は私にとって居心地の良い場所ではありますが、ときには自分に負荷をかけたり、刺激を得たりすることも大切なのかなと。そういう意味でも、MOLpは私が成長するために欠かせない場所だと感じます。