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素材や化学にまつわる素朴な疑問をひも解く連載「カガクのギモン」。今回は、「なぜ消しゴムで字を消せるの?」という疑問にカガクに詳しい「モルおじさん」が答えます。
※本記事は、2018年春号として発刊された三井化学の社内報『MCIねっと』内の記事を、ウェブ向けに再編集して掲載しています。
イラスト:ヘロシナキャメラ 編集:吉田真也(CINRA)
字が消えるたびに、消しカスが出る理由。消しゴムの原理とは
普段、何気なく使っている消しゴム。でも、鉛筆で書いた文字や絵がなぜ消しゴムで消えるのかご存知ですか? 今回は、当たり前過ぎて見逃しがちな消しゴムの秘密について、カガクに詳しい「モルおじさん」が詳しく解説します。
鉛筆で書いた文字をルーペや顕微鏡で見てみると、紙のところに鉛筆の芯(黒鉛)の粒が並んでいることがわかります。鉛筆で文字を書くというのは、紙の表面に黒鉛の粒をくっつけているのです。したがってその黒鉛の粒を紙の表面から吸い取れば、文字が消えます。その役目をするのが消しゴムです。
消しゴムで紙の上の黒鉛の粒をこすると、紙に付着した黒鉛が消しゴムの表面に付着します。そして、またこすることで、この黒鉛が付着した表面が削られ、それが消し力スになります。すると消しゴムに真新しい面が現れて、ここに再び黒鉛の粒が吸いつきます。それをくり返すことで文字が消えるわけです。
そもそも消しゴムの素材は? 含まれているのは「影の主役」的な成分
じつは消しゴムには「ゴム製」以外に、「プラスチック製」があります。しかも現在は、より字をきれいに消すことができる後者のほうが主流です。
プラスチック製の消しゴムの主成分は「塩化ビニール樹脂」、通称「塩ビ」といいます。消しゴムできれいに文字を消すためには、消しゴムを適度な力でこすりつける動作が必要になりますが、塩ビ素材そのものは硬いため、柔らかくしなければなりません。そこで、プラスチック素材を柔らかくしてくれる「可塑剤(主にフタル酸系可塑剤)」を混ぜて、弾力性を調整します。
この可塑剤は黒鉛と分子構造が似ているため、分子間力の相互作用が働いて引かれ合い、消しゴムに黒鉛が付着するのを助けます。ゴム製よりもプラスチック製消しゴムがよく消える要因のひとつがここにあります。ですから、可塑剤は消しゴムの影の主役と言っても良いのかもしれません。
モルおじさんのひとこと
今回はカガクの力で文字を「消す」働きについてお話ししましたが、ほかにもいろんなものを「消す」ことができます。
三井化学では、素材と音の関係についても研究しています。たとえば、クルマの音。これまでエンジンで動いていましたが、最近は電気自動車も多くなっていますよね。電気自動車になると全体的に静かになりますが、これまでと不快に感じる音の波長が変わってきます。より快適なクルマの車内を実現するために、素材と音の研究をしています。
またMOLpでは、オンライン会議が盛んになった今、モルおじさんの友人の声がオーバーノイズだという気づきから、オーバーノイズに感じるおじさん声の波長を特定し、その波長を特定的にカットする素材を組み合せて会議ブースやパネルをつくりました。ブースのインテリアは、思わずそこに入って過ごしたくなるような心地よいファーストクラスのスペースになっていますので、ついつい長居してしまいます。