PROJECT DIARY

触れたらとろける魔法の素材HUMOFIT®とは?quantumとの共創秘話

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取材・執筆:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太 編集:吉田真也(CINRA)

正直、ゴアテックスがうらやましい? ずっと根底にあった憧れのブランディング化

MOLp:そもそも「素材をブランディングする」というのは、珍しい気がします。

西川:たしかに、製品ではなく素材そのものをブランディングするのは、三井化学でも前例が少ないですし、一般的にも珍しいかもしれません。ただ、ブランディングで成功している素材もいくつかありますよね。代表的な例でいえば、他社の素材ですが「GORE-TEX(以下、ゴアテックス)」とか。もはや、素材自体がブランド化していますし、洋服でもアウトドア用品でも、ゴアテックスが使われていることが大きな価値として認識されているわけです。

じつは正直にいうと、ゴアテックスに対してうらやましいなと思う部分もありまして……(笑)。チャンスがあれば、素材をブランディングしてみたいと、ずっと前から思っていたんです。やっぱり素材をつくっている者としては、素材自体が注目されると嬉しいですから。「信頼できる素材だから買いたい」と思ってもらえるのは、まさにブランディングの賜物ですし、それを三井化学でも実現してみたかったんです。

MOLp:なるほど。昔からの憧れもあり、今回の素材ならブランディングできるチャンスかもしれないと思ったのですね。

西川:はい。とはいえ、今回の素材も、当初はブランディングまでやるつもりはありませんでした。弊社が手がける素材のほとんどは、メーカーなどに提供するBtoB向けのものなので、そこまで広く周知する必要はありませんからね。

しかし、展示会で多くの人が興味を持ってくれる様子を見ていくうちに、この素材はBtoC向けにも訴求できるかもしれないと感じました。それこそゴアテックスのようにファンをつくれる素材として、さまざまな商品に使われる可能性があるなと。そんなタイミングでquantumさんと出会えたのも、いまとなっては不思議な縁を感じますね。

意識したのは「B to B to Cブランディング」。消費者まで見据えた、魅力の伝え方

MOLp:そこから協業して、素材のブランディングに取り組まれたのですね。門田さんにうかがいますが、どのようにHUMOFITのコンセプトをつくり上げていったのでしょうか?

門田:ブランドというのは、外部のぼくらが勝手に価値を定義して決められるものではありません。まずは、この素材に対する三井化学さん自身の思いが何より重要です。そこで、最初にワークショップを開き、西川さんや素材開発に携わっているみなさんの声を集めました。この素材にどんなイメージを抱いているか、世の中にどう発信していきたいか。それらを集約して、ブランディングの方向性を定めることにしたんです。

MOLp:ワークショップでは、どんなイメージが浮かび上がりましたか?

門田:浮かび上がったキーワードは「高級感」「革新性」「人肌」「温度」「安心」「信頼感」などです。伸縮性やフレキシビリティーといった斬新かつ高機能な部分がありつつ、やさしく包み込むような触り心地や温かみもアピールしたいという訴求ポイントが明確になりました。

ですから、「形状記憶シート」として機能売りするのではなく、上質で革新的な価値を持つ「人肌で変化する素材」として打ち出す方向性が良いかなと。それらの要素を集約して、「やさしくヒトに寄り添う新素材」というHUMOFITのコンセプトに行き着きました。

MOLp:先ほど西川さんもおっしゃっていましたが、通常の素材はBtoB向けに提供するものですが、今回のHUMOFITはBtoCへのコミュニケーションも視野に入れたブランディングだったと思います。同じブランディングでも企業向けと一般消費者向けとでは、アプローチの仕方が変わってくるのでしょうか?

門田:変わりますね。BtoBに向けたブランディングの場合は、やはり機能性やスペックを数値でしっかりと打ち出していく必要があります。一方、BtoC向けの場合はそれだけでなく、付加価値や生活を豊かにしてくれるようなイメージづくりも重要になります。

ですから、今回のHUMOFITの場合は少し特殊で、「B to B to Cブランディング」という意識のもとブランドづくりをしました。まずはBtoB向けにしっかりスペックの高さをアピールして多様なプロダクト化につなげる。そして、その先の生活者に対してはグラフや数値では伝わらない肌触り、心地よさなどを直感的に伝えて、素材自体のブランド価値を高めたいと考えました。

MOLp:それらを実現するために、具体的にはどんな施策を行ったのでしょうか?

門田:最初は、実際に触っていただく機会をBtoB向けに設けようと考えていました。ですが、コロナ禍のご時世ですので、展示会などを開催するのは難しかった。そこで、HUMOFITの感触が直感的に伝わるようなムービーを制作し、ウェブサイトのアイキャッチに載せました。インパクトがあり、なおかつ一般的な人にもわかりやすい情緒的な表現によって、まずは「面白そう」「触ってみたい」と感じてもらうのが狙いです。

HUMOFITサイトのトップページにも掲載されている紹介動画

MOLp:コロナ収束後はさらなる仕掛けも考えていますか?

門田:はい。触れることで感動が生まれる素材ですし、一般消費者にまで認知を広げてファンづくりをしていくとなれば、インターネット上のコミュニケーションだけでは限界があります。やはり、いずれは実際に触っていただける場を設けたいと考えています。まだアイデアレベルですが、たとえばHUMOFITで小屋をつくり、そこに寝転んでもらうなど、素材の感触を全身で感じてもらえるようなイベントを仕掛けたいですね。

HUMOFITの「タグ」が付加価値に。素材を通じて、人々の生活に貢献したい

MOLp:最終的にHUMOFITをどんなブランドにしていきたいですか?

門田:理想としては、この素材が世の中のさまざまな商品に使われ、さらにはHUMOFITのタグがついていることで商品の価値を上げられるようなブランドに育ってほしいと思いますね。そんな未来も見越して、ロゴもあえてニュートラルな、既存の商品のノイズにならないデザインにしています。

試作品のソファーについているタグ。タグの素材までHUMOFITを使用

MOLp:西川さんは、HUMOFITが広まることで社会にどんな価値が生まれると思いますか?

西川:いま、われわれが着ているもの、触っているものの多くは既製品ですよね。オーダーメイドとは違い、あらかじめ形状や大きさが決められているわけです。でも、人間の身体は千差万別ですし、同じ人でも右手と左手でかたちが違ったり、時間によって顔や足がむくんだりもします。結果、身体にフィットせず、疲労や痛み、ストレスを感じてしまう。

それを解消するのがHUMOFITです。人がものに合わせるのではなく、もののほうから身体に寄り添ってくれる。この素材を広めることで、そんな価値観を浸透させていきたいですね。それも、素材を通じて社会に貢献するかたちのひとつだと思います。

※HUMOFIT、ヒューモフィットは三井化学の登録商標です。

PROFILE

門田 慎太郎SHINTARO MONDEN

国内デザインファームおよび外資系PCメーカーで、一点モノの家具から、世界で数万台を売り上げるラップトップPCまで、幅広い分野の製品デザインを担当したのち、スタートアップスタジオquantumに参画。執行役員としてquantumのデザイン部門を統括し、プロダクト、グラフィック、UI/UXデザインなどの境域から幅広い分野の新規事業開発を牽引。デザインリサーチ、コンセプト開発、実証実験、量産設計支援まで一連の製品開発を一気通貫に行うことを強みとしている。
手掛けたプロダクトはドイツPinakothek der Moderneのパーマネントコレクションに選定されたほか、Good Design,iF Design,RedDot design,D&AD,Cannes Design Lions Goldほか、アワード受賞歴も多数。

PROFILE

西川 茂雄SHIGEO NISHIKAWA

1992年に京都工芸繊維大学大学院卒業後、現在の三井化学に入社。発泡シート製造技術開発、各種樹脂加工製品の研究開発に従事。機能性ポリマー、機能性フィルムの営業・マーケティングを経て、圧電フィルム等、さまざまな新製品開発プロジェクトを推進。現在は、フード&パッケージング事業本部企画管理部にて、HUMOFITをはじめとした新製品開発を推進している。

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