まさに素材のお祭り!活気あふれる『MOLpCafé2024』の様子と、驚きの展示プロダクトとは
時代を問わず人々が求め続けてきた「心地よさ」。その本質を考え続けてきたMOLpは、1つの仮説を立てた。「心地よさとは、素材の魅力で人々を『元気』にすること」ではないか。そしてそれは「単なる娯楽」ではなく、人々の想いや願いに触れ、生きる喜びを分かち合い、社会とつながり、たくさんの人と想いを通わせ、元気がもらえる場である「お祭り」に近いのではないか、と。素材の祭りともいえる『MOLpCafé』と、10年目となるMOLp活動の祝いという共通点を見出したのだ。
そして今回、「マテリアル」と「祭り」をかけ合わせた「MATSURIAL」をテーマに掲げ、縁日のように楽しめるユニークな体験型のプロダクトが計14点展示された。それらのプロダクトの多くが、MOLpの活動に共感したさまざまな外部企業とのコラボレーションによって生み出されたという。
会期中には三井化学の関係者や化学系メーカーはもちろん、魅力的な新素材に出会いにきた企業の開発担当者、デザイナー、学生などが多数来場。連日盛況を呈し、最終的には約1,000人という過去最多レベルの来場者数を記録した。
1F入口 会場に入り受付を済ませると、木造の門が迎えてくれる。
両サイドに吊られている提灯には、「まてりある」「まつりある」という文字が力強く描かれ、お祭り気分を盛り上げてくれる。
1F 『CAGALIVI/不知火六本組木篝火』 門をくぐって最初に現れたのは、釘や接着剤を使わない日本古来の木組みの技術に、メガネレンズ材料に使用されているフォトクロミック(調光)技術を組み合わせ、六本組木でつくられた篝火。日本の伝統技術と三井化学の現代技術のコラボレーションは、太陽光が当たることで炎のように赤々と色づき、祭りの雰囲気を引き立てる。
CAGALIVI/不知火六本組木篝火
1F 『CONCON/三囲神社祈祷 不知火護符』 三井家の守り神としての神社でもある三囲神社で特別に祈祷された護符は、フォトクロミックレンズ材料製。たれ目が特徴のキツネ「三囲のコンコンさん」をあしらった越前織物の御守袋から護符を取り出し、太陽の光にかざすと祈祷された5つの“願い”が浮かび上がる。
CONCON/三囲神社祈祷不知火護符
1F 『HOVAL/謹製発泡大判焼』 大判焼きのような形がどこか懐かしいこの作品は、低反発・高反発・バイオマス由来の3種類の原料からなるポリウレタンをモールド発泡し、硬さをコントロールし、さまざまな触感を味わえるというもの。触り比べ、好きな触感の大判焼きを見つけて楽しめる。「これ、おいしそう」という素材を触るときに聞かないような歓声も上がる。
CHOVAL/謹製発泡大判焼
1F 『SEXY321/摩擦上等仏恥義理飛車レース』 1970から80年代に社会的に流行したスーパーカーブーム。当時の子どもたちのあいだではスーパーカー消しゴムとノック式ペンを使ったレースも人気を博した。子どもたちは消しゴムにニスを塗ったり、ホッチキスの芯をつけたりと魔改造にいそしんでいたが、MOLpでは三井化学がもつさまざまな摺動性やグリップ性といったプラスチック素材で、摩擦特性を理屈なしに体感することができる。
SEXY321/摩擦上等仏恥義理飛車レース
1F 『ORACLE BALL/弾性上等喝斗美玉』 昔ながらの温泉街などでも見かけるスマートボール。ボールには弾性感を持つポリウレタンエラストマーが使用されている。この素材は樹脂設計によって多様な反発弾性を持たせられるため、一見同じに見え、触った感触も同じボールでもまったく違う弾み方をする。体験した人たちは、ボールの行方を目で追いかけながら一様に驚きの声をあげていた。
ORACLE BALL/弾性上等喝斗美玉
2F 『MAGUMA GETTER/御当地駒下駄桜島火山』 三井化学が誇る「混ぜる」技術を、持続可能な循環型社会の実現と地域活性化に活かしていく「GoTouch®︎」。今回の展示では鹿児島県桜島の未利用資源である火山灰に着目し、樹脂とコンパウンド。3Dプリンター造形でありながら、重厚感のある下駄が生まれた。火山灰に含まれる金属成分のおかげで遠赤外線がでることがわかり、足をぽかぽかさせるかもしれない下駄が爆誕した。
MAGUMA GETTER/御当地駒下駄桜島火山
別館 『CAGELI/不知火花器』 三井化学のメガネレンズ材料「MR™️」の熱硬化性樹脂の特性を活かし、伝統的な曲げ加工を施した花器は、ゆらめくようなドレープ形状が魅力。また、フォトクロミック色素が配合されているため、窓辺に差し込む陽の当たり方によって器の色も移ろう。
CAGELI/不知火花器
別館 『AroMATELIUM/薫香六面体』 複数の食品メーカーが集うFood UP Island とコラボレーションし、食品ロスの課題解決に取り組んだ「企業版GoTouch®︎」の試みでは、食品のもつおいしそうな香りが閉じ込められた『AroMATERIUM』が登場。参加者の嗅覚を刺激し、ワクワクするような幸せなムードが会場にあふれた。これまでプラスチックの匂いを嗅ぎたくなった経験はなかったのに違いない。
AroMATELIUM/薫香六面体
「MOLpは手を動かした人が成長する」。現役メンバーが語る『MOLpCafé』での収穫と課題
今回の『MOLpCafé』では、自由見学に加え、MOLpメンバーによるプロダクトの解説ツアーも行なわれた。連日多くの来場者が参加し、担当者の想いを乗せた解説を通してMOLpの活動内容に惹き込まれていく。
このような熱量を生み出したのは、前回の『MOLpCafé2021』以降に高い志を持って加わった、新たなMOLpメンバーの存在も大きいだろう。『MOLp Café2024』の開催前に公開した記事 でも意気込みを語ってくれた新鋭たちを中心に、今回の『MOLpCafé』で実際に得られた成果や課題を聞いた。
最初に話を聞いたのは、『TAMADUSA/晴天白日玉梓』と『OLIOK/涼結折桶』を担当した奈木沙織さん。『TAMADUSA』は、見た人が思わず「きれい!」と声を漏らすほど。フォトクロミック技術の新たな表現方法を提示した。
『TAMADUSA』のメッセージカード
一方の『OLIOK』は、人の体温で柔らかくなり、冷やすと硬くなる「HUMOFIT™」という素材に風合い豊かな和紙を貼りあわせたシートを活用したワインクーラー。プラスチック特有のチープさを打破し、さらに折りたたむこともできれば、開いて一枚のシートにすることができるため、移動時も簡単に持ち運ぶことができ、機能性も高い。
一枚のシートから折りOLIOKをつくる奈木沙織さん
奈木: 『TAMADUSA』は、フォトクロミック技術でゆらぎのある柔らかな色の表現ができないかと、花びらを模した試作からはじめ、1年半くらいかけてメッセージカードやしおりという形に具現化していきました。
長い期間をかけて検討を進めてきたぶん、どうしても見慣れてきてしまって、展示するまではどんな反応をいただけるのか少し不安だったんです。けれど、実際に太陽光を当てて色が変わる様子を見せたとき、来場者の方々の驚いた表情や新鮮な反応を見ることができて、幾度となくトライ&エラーを繰り替えして創り上げたぶん、嬉しさもひとしおでした。
「OLIOK」は「HUMOFIT™」と異素材を貼り合わせたシートを試作したことがきっかけで、「これ、ワインクーラーがつくれるんじゃない?」という声が上がって開発が始まり、紆余曲折を経てこのような形にたどり着きました。MOLpにとっては、「HUMOFIT™」をワインクーラーにしようとする取り組みは4回目で、初めて一般にお披露目ができたプロダクトになりました。
来場者の方が、「普段使っているワインクーラーは嵩張ってね……」とご自身の体験を話してくださったり、和紙や折り紙といった日本的な技術を活用したりしたことで、「海外の方へのお土産に良さそう」「和菓子を包むのにも使えそう」といった意見が飛び交ったときは、形あるところに対話が生まれる、と実感した瞬間でした。
今回、担当したプロダクトのうち最終的に商品化までこぎつけることができたのは『TAMADUSA』のメッセージカードのみでしたが、自分が手を動かしたことにお金を払ってもらうという極めてシンプルで価値のある経験を、BtoBの会社にいながらできたことは、MOLpならではだと思います。
来場者の方々から「ワインクーラーも欲しかった」「しおりを使ってみたかった」など、予想以上に商品化を期待する声をいただいたので、量産化、商品化のハードルは決して低くはありませんが、多くの方に届けられるように尽力したいですね。
続いて『THE ZEN™/夜須礼乃坐』を担当した瀬田蒼さん。このプロダクトは、衣装ケースからクルマのバンパーに至るまで、多種多様な産業で使用されている素材であるポリプロピレンを用いて制作されたチェア。一工程柔らかな触感に成形する新技術が用いられている。
瀬田蒼さん
さらに、未活用資源である木粉や廃棄衣類などを使うことで、環境面に配慮しながらレザーのようなヴィンテージ感を引き出し、愛着を感じられる表情を実現できることを提示。本作はアイデアから形にするまで約10か月と急ピッチで進め、完成に至ったという。ものづくりを通して見えてきた、今後の道筋が語られた。
瀬田: 『THE ZEN™』で使用した新技術はもともと、面白いけど使い方が良くわからない技術だと言われていました。今回、その技術の使い方を素材メーカーであるわれわれがチェアという形で具体的に提案することで、『THE ZEN™』を体験した幅広い背景の方々が「こういうところにも使ってみたい」とおっしゃって下さったことがとても嬉しいです。
ある来場者の方からは、「ポリプロピレンは、軽量かつ丈夫でコストも安く産業を下支えしている素材だけれど、それに高級感を持たせることで『大切にするべきもの』という意識変革を起こすことできる。将棋でいえば『歩が"と金"に成る』ようなことをやってるんだね」と言っていただいたときは、しっくりきましたね。
ポリプロピレンをはじめとしてプラスチックは「長く愛される」という文脈ではなかなか語られてきませんでした。従来使われてきた素材・生産設備からあまり変えずに愛着のわく成形品を一発でつくり出す本技術は、世の中のプラスチックの在り方や見られ方を大きく変える可能性を秘めています。
瀬田: 今後の課題としては、家具・家電、クルマの部品など、さまざまな所に使ってみたいと言っていただけたからこそ、どのように展開するか、どのようにバリューチェーンを設計していくかまでビジョンを洗練させていく必要性を感じています。
『THE ZEN™』で可視化された価値をどのように世の中に実装し、われわれの生業としていくかというところまで突き詰めていくのが楽しみです。
続いて話を聞いたのは、MOLpに加わって2年目の泉谷留美さん。透明性と耐久性をあわせ持つウレタン新素材「STABiO™」を用いて、2019年に考案された透明なフラワーベース『SLOW VASE TECH』の制作に携わった。
泉谷留美さん
また『SEXY321』、『HOVAL』も担当。アイデアを形にしていくプロセスや来場者の反応に触れ、感じたこととは。
泉谷: たくさんの方が展示を見に来てくださり、普段の研究や仕事ではあまりお会いしない方々と、素材を通じたコミュニケーションをした時間はとても楽しいものでした。思いもしなかった角度からの質問もいただいて、素材のさまざまな見方があると知ることができました。
『SLOW VASE TECH』で用いた材料「STABiO™」は、普段は硬化材などの用途で使われているウレタン素材なのですが、透明性や耐久性に美しさを見出して注型という製法でつくられたプロダクトそのもので提案していて、そこに面白さを感じてくださる来場者の方が多かったことも嬉しく思っています。
MOLpでは普段の活動でも、「暮らしのなかで感じること、悩み」などから考えを膨らませて、「こういうものが欲しいよね」と話しながらアイデアを出しあうんです。一方で、「こういう素材があるけれど、どうしたらいいだろう」という素材起点のアイデアも出しあっていて、それがあるとき、ポンとつながって形になっていったりするんです。
泉谷: そうやって自分起点でプロダクトをつくりあげたMOLpメンバーの説明を聞いていると、想いを乗せて語ることができるので説得力があるなと感じるんです。
私はまだMOLpでの活動期間が短いということもあり、今回はサポートでものづくりをすることが多かったので、これからの活動ではもっと自分自身のアイデンティティを反映させて、アイデアを形にしていきたいですね。
最後に話を聞いたのは、『TAMANE/木霊風鈴玉音』を担当した津田誠一さん。非晶性の透明樹脂「APEL™」が持つ「プラスチックでありながら叩くと金属のような澄んだ音が響く」という特性を利用し、3Dプリンターで風鈴の造形を行なった。
津田誠一さん
また、2016年に発表された前身の作品『KODAMA 』を機に音響研究チームが発足され、構造解析により任意の形状で特定の周波数の音が設計できるようになっている。
普段、「APEL™」の製造工場もある岩国大竹工場(山口県・広島県)で別のプラントの製造スタッフとして働いているという津田さんからは、研究メンバーとは異なる視点からMOLpに加わった意義が語られた。
津田: 来場された方にこのプロダクトが生まれた背景や、形にしていくまでのストーリーを説明していくと、どんどん笑顔になってくださいます。素材やプロダクトの魅力に惹き込まれていっているのがわかりますし、まさに「お祭り」を楽しんでいただけているなと感じますね。
津田: 僕自身は、日ごろは製造プラントのスタッフとして働いているので、研究者と違って製品開発に関わることはありません。ただ、どんな業務をしていたとしても、化学メーカーにいる限り、ものづくりに携わることができるのではないかって思っていたんです。
『MOLpCafé2018』に来場者として見にきていて、「STABiO™」を使った『トーチ 』という作品にすごく感動して……。そこから本業の関係もあって期間は空きましたが、ずっと心に残っていたMOLpに2022年から参加することになったんです。
MOLpって、組織、年齢、カタガキも関係なく、自分がやりたいことを発表し、共感を得れば、発案者がプロジェクトリーダーとなってさまざまな経験を持つメンバーが群がってプロジェクトが進んでいく感じなんです。かつてMOLpで発表した『KODAMA』で用いている「APEL™」は岩国大竹工場で製造している製品なので、これをアップデートしたいと考えたんです。
今回やったことは、“いい音”を逆計算して形状を定めるということ。指定の音階を奏でることのできる形状を、3Dプリンターで出力するということでした。ダイレクトペレット方式の3Dプリンターでやったからこそ、1点物の表情をつくり出すことができました。
さまざまな専門性を持つ人たちと一緒にものづくりをすることができましたが、コミュニケーションなどはかなり苦労しました。それでも助け合ってもらっていいものができたと確信しています。今回は、つくったものを展示するだけではなく、販売することまで体験できて、自分が考えたものを、お客さまが選んで買っていっていただく姿にとても感動しました。