取材・執筆:宇治田エリ 編集:吉田真也(CINRA)
フレコンバッグがトートバッグに変身?素材屋が考えるアップサイクル
どれも斬新で面白いプロダクトですね。ほかにもさまざまなプロダクトがあるそうですが、今回のコンセプトである「Neo“PLASTIC”ism」を、とくに体現しているものはありますか?
田子:象徴的なものでいえば、工場などで使用する産業用のフレキシブルコンテナ(以下、フレコンバッグ)の素材でつくった「Flecon Tote Bag」でしょうか。プラスチックを捨てないようにするためには、素材そのものがロングライフであることが重要です。フレコンバッグはもともと1tという大量の原材料を運ぶための袋なので耐久性が高く、お客さまが中身を使い終えたら回収して、洗浄・修理して大切に繰り返し使われています。
三井化学では、フレコンバッグを15年間使ったら廃棄するというルールなのですが、非常に丈夫なのでまだまだ使えてしまうんです。そんな丈夫な素材だからこそ、廃棄してしまうのはもったいない。そこで、フレコンバッグを普段使いできるトートバッグや財布にして、長く愛せるアップサイクルプロダクトをつくったんです。
『MOLpCafé2021』では販売もしたのですが、ストーリーに共感したりデザインを気に入って購入される方も多くいらっしゃって大好評でした。また、15年の使用を経てアップサイクルバッグになる未来を見据えて、三井化学で使っている既存のフレコンバッグそのもののデザインも見直しています。
藤本:ちなみに、このフレコンバッグやレジ袋をアップサイクルしたパスケースなどは、三井化学のリサイクル製品や事業をトータルにブランド化しようという考えで「RePLAYER」というシリーズで統一しています。人を中心に見立てを変えることで、もの自体の価値も変わっていく。そんなメッセージが込められているので、いろんな人に使ってもらいたいですね。
プラスチック「不要論」に思うこと。その気づきが次の開発の原動力
今回の展示品はアップサイクルやサステナブルを意識したプロダクトが多いですが、MOLpがそうしたものづくりに力を入れる理由を教えてください。
田中:現在プラスチックゴミは増え続けていて、2050年には海洋ごみと魚が1:1の重量比になるのではないかともいわれています。
私たちはプラスチックを中心とした素材をつくる会社だからこそ、そういった未来をなんとか変えていきたいという思いが強いんです。アップサイクル、サステナブルを意識した素材やプロダクトをつくりたいと思うのは、いわば必然的な選択だと思います。
藤本:『プラスチックは捨てたらゴミですが、資源として捉えるとまだまだ非常に大きな可能性を秘めています。それを多くの人に知ってほしいです。ロングライフで循環させられるようなプロダクトの提示をとおして、プラスチックそのものの認識を変え、新しい価値を提供できたらと願っています。
とはいえ、プラスチックといえば、SDGsなどの観点から世間的には「不要論」も出ています。それについては、どうお考えでしょうか。
金原:実際に現在は、プラスチックゴミの海洋流出やリサイクルが不十分といった問題があり、負の側面が目立っています。一方でプラスチックはこの100年で、人類の発展に大きく貢献してきました。コロナ禍においても、不織布のマスクはもちろん、清潔な医薬品や食料品を運ぶときなどにもプラスチック素材は活用され、たしかな価値を発揮しました。
そんななか、プラスチックメーカーがこれから全うすべき責任は、そういった価値やメリットを伸ばしつつも、デメリットを排除することだと思います。「不要論」は、私たちのこれまでの歩みと素材開発のあり方について、いかに改善すべきかを考えるうえで、重要なターニングポイントになりました。そこから得た気づきを今後の開発に生かしていきたいです。
2年前だったら理解されなかったかも。『MOLpCafé2021』で感じた手応え
7月に開催した『MOLpCafé2021』では、どのような手応えを感じましたか?
藤本:来場者の方々と直接お話しできたことで、いろんな発見がありました。研究開発の現場では仕事上、人よりも素材の物性値やもののスペックなどに意識が向きがちになってしまうのですが、人がどう使うか、どう喜ぶか、そしてどう生活が変わっていくのかまで想像を膨らませないといけないんだと、あらためて実感しました。そうした人の動きや想いを通じて、素材の価値は生まれていく。そんな当たり前のことに気づかされる展示会でした。
田子:ぼく自身も、来場者の方々の反応が予想以上に良かったのは嬉しい驚きでした。もし2019年や2020年に開催していたら、今回提示したコンセプトはいまより理解されなかったかもしれませんし、プラスチック素材ならではの魅力もピンとこなかったと思うんです。
しかしコロナ禍を経て、自分たちの暮らしから環境にまで視野を広げて考える人が増えてきた。蓋を開けてみると、われわれが議論してきたことが、多くの人の興味関心を突いていたのかなと感じました。非常にいいタイミングで開催することができましたね。
田子:一方で7月の開催時は緊急事態宣言下でもあったので、徹底的に入場制限を設けた関係で来場できる方が少なかった。2018年の『MOLpCafé』に参加してファンになってくださった方や最近MOLpを知った方からも、「行きたかった」というメッセージをたくさんいただいたんです。
そこで2021年10月27日〜31日に、『MOLpCafé2021』を再開催することにしたのですね。
田子:はい。7月の開催時よりも見せ方を少し変え、さらにパワーアップしたので、ぜひいろんな方に見ていただきたいです。
最後に、来年以降にまた『MOLpCafé』を開催するとしたら、挑戦したいことはありますか?
田子:『MOLpCafé』は、ルーティンで回していくのは面白くないと思っているので、継続的に未来を考えながらストックをためていき、然るべきときにまた開催できればと思っています。
もしかしたら今後は、より人の心に寄り添える体験の場をつくっていくのも良いかもしれませんし、ワールドワイドに広がっていくのも良いですよね。われわれが日々取り組んでいる0→1思考は海外でも求められていることだと思うので、日本を飛び出して、世界中の人々と同じ目線でコミュニケーションが取れたら嬉しいですね。
Infomation
MOLpCafe2021 @DESIGNART TOKYO
開催日時:2021年10月27日(水)〜31日(日)11:00〜18:00
開催場所:ライトボックススタジオ青山
詳細は以下をクリックください。
株式会社エムテド 代表取締役。アートディレクター、デザイナー。東芝にて家電、情報機器に携わり、家電ベンチャーリアルフリート(現アマダナ)の創業期 に参画した後、MTDO inc.を設立。企業や組織デザインとイノベーションの研究を通し、広い産業分野においてコンセプトメイキングからプロダクトアウトま でをトータルにデザインする「デザインマネジメント」を得意としている。
ブランディング、UX、プロダクトデザイン等、一気通貫した新しい価値創造を実践、実装しているデザイナー。TEDxTokyo 2013 デザインスピーカー。
2007年から2018年まで化学産業の業界紙記者を務めた後、三井化学に入社。現在は研究開発企画管理部に所属し、研究開発拠点である袖ケ浦センター(現:VISION HUB™ SODEGAURA)の活性化に向けた環境整備等に従事。MOLpでのコードネームは海坊主。
2010年に東京工業大学にて修士(工学)取得後、三井化学に入社。高分子物性に関するスペシャリティを活かし、研究開発本部 高分子材料研究所にて、研究開発 及び 国内外の顧客サポートに従事。現在は、耐熱性・離型性・透明性を有する三井化学独自の高機能ポリオレフィン樹脂TPX®の新銘柄開発と新市場開拓を推進している。
2018年に東京理科大学にて修士(理学)取得後、三井化学に入社。ウレタン材料の研究開発に従事し、ロボット部品向けの材料開発を推進している。2018年、MOLpの2期生として活動に参加し現在に至る。