取材・執筆:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太 編集:川谷恭平(CINRA)
住民のゴミ意識を向上させるには?「燃えるごみ」の名称を変えた地域も
MOLp:そうした周知を広げる取り組みをしている自治体はあるのでしょうか?
滝沢:たとえば、福岡県の柳川市は2021年から指定の可燃ゴミ袋のデザインを一新し、それまでの「燃やすごみ」から「燃やすしかないごみ」に名称を変更しました。
可燃ゴミって出されたものをすべてそのまま燃やすのではなくて、そのなかから資源になるものを取り出して、最終的に「燃やすしかないごみ」だけを燃やしているんです。
つまり、「がんばったけどこれだけは燃やすしかない」ということをわかってもらい、住民一人ひとりの分別の意識を高めるために、あえて「燃やすしかないごみ」とうたっているんですね。
MOLp:滝沢さんが清掃員の仕事を始めた9年前と比べ、増えたゴミはありますか?
滝沢:いっぱいありますが、とくにここ2、3年で増えたのは洋服のゴミですね。ファストファッションの影響もあるのでしょうが、まだ十分に着られる状態の服がここ最近は異様に増えましたね。
それをゴミではなく資源として集め、発展途上国に送られるケースもありますが、じつはその出口って限られています。発展途上国の側も、もういらないと現地で捨てられているケースもあるようです。
つまり、日本で処理しきれなくなったゴミを代わりに処理してもらっているようなもの。一見エコのように思えますが、逆にひどいことをしているわけです。洋服を買うなとはいいませんが、買う前に「長く着られるものかどうか」を考えることは大事だと思いますね。
MOLp:ちなみに、洋服以外もありますか?
滝沢:先ほども言ったようにペットボトルは異様に増えていますし、ほかにも時代によってゴミのトレンドはありますね。たとえば、コンビニコーヒーが台頭したことで缶コーヒーの空き缶が減ったかと思えば、昨年はコロナ禍で宅飲みが流行り、レモンサワーの空き缶だらけになりました。
おもしろいのは健康器具ですね。ある時期は「ロ〇オボーイ」、ある時期は「ワ〇ダーコア」のゴミが一気に増えました。みんな「あきらめる時期」が同じなんでしょうね。そのタイミングで同時に捨てられるから、清掃員をしていると消費者行動の変化やその年のトレンドがわかりますよ。
ゴミは誰が回収してる? 清掃員の存在が人々の意識を変える要因に
MOLp:最近は、SDGsという言葉も浸透してきました。そうした意識の変化はゴミ出しにも現れているのでしょうか?
滝沢:そうですね。少しずつですが良い変化も見られます。たとえばペットボトルなんて、昔は本当にひどかったですよ。似たような素材だったら一緒にして大丈夫だろうと、お弁当の空箱やほかのいろんな容器まで一緒に入っているような状態でしたから。
滝沢:いまはさすがに、そういうことはほとんどなくなりました。あとは、コロナ禍以降はぼくたち清掃員に対する見方も変わってきたように感じます。
やはり、みんなの生活を支えているエッセンシャルワーカーの存在が見直されたのか、街中で「いつもありがとうございます」や「おつかれさまです。頑張ってください」といった声をかけてもらえることが増えました。
MOLp:清掃員の存在を認識することで、ゴミ出しの意識が変わるかもしれませんね。
滝沢:そう思います。これまではゴミを出せば勝手に回収されると思っている人も多かったように感じますが、そこに「人」が関わっていることがわかると、さすがにあまり無茶苦茶なことはできませんよね。
ほかのエッセンシャルワーカーと同様に、清掃員がいなくなればゴミが出せなくなる。そういう意識を持つことが、まずは大事なように思います。
お題目だけのSDGsではなく、具体的な行動を
MOLp:滝沢さんは、環境省の「サステナビリティ広報大使」に就任し、SDGsの活動もされていますが、目標達成に向けて、より社会全体の意識を変えるためにはどんなことが必要でしょうか?
滝沢:一人のカリスマが現れて啓蒙したところで、社会全体の意識は変わりません。それよりも、地道に一人ひとりの意識を「ちょっとだけ」でも上げていくこと。それしかないように思います。
端的に言うと、やっぱり教育ですよね。いまは学校でゴミの問題やサステナブルな社会についても、しっかりと時間を割いて教えています。私も各地での講演やYouTubeなどで動画を配信しています。
いまの20歳くらいの子はその教えがしっかり根づいていて、ぼくらの世代とはやっぱり意識がまるで違いますよ。スーパーでの食品の取り方にしても、手前から取ることが身についています。
小さなことかもしれませんが、そういう積み重ねが日本全体としてサステナブルな社会につながっていく力になるんじゃないでしょうか。
MOLp:中高年以上の世代も、若者世代を見習っていく必要がありそうですね。
滝沢:本当にそう思います。最近の若い子と話していると、意識の高さにハッとさせられます。就職しても、「たくさんお金を稼ぎたい」、「偉くなりたい」ではなく、「社会の役に立っている会社に入りたい」という人が普通に多いですからね。
個人的にSDGsで最も大事なのは教育だと思っていますが、そういう意味では頼もしい人材がしっかり育っているように感じます。
SDGs目標達成の2030年まで残り9年ですよね。そう考えると、もう一刻の猶予もないくらいですよね。一人ひとりが具体的な行動に移していかないと、絶対に達成できないと思います。
政府や企業も単にウェブサイトをつくったりSDGsバッジをつけたりして終わりにするのではなく、実際に環境のために行動し、その成果を示すことが大事なんじゃないでしょうか。その成果に触発されて、いろんな企業が「うちもやんなきゃなー」って、それが当たり前になってほしいですね。
1976年、東京都生まれ。ゴミ清掃員、お笑い芸人。環境省サステナビリティ広報大使。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。「THE MANZAI」2012、14年認定漫才師。2012年、安定収入を得るために、お笑い芸人の仕事を続けながらもゴミ収集会社に就職。ゴミ収集中の体験や気づきを発信したツイッターが人気を集め、話題を呼んでいる。著書に『日本全国 ゴミ清掃員とゴミのちょっといい話 』など。