そざいんたびゅー

妄想×知財で世界をアップデート。「知財図鑑」出村光世が語る、新素材の活かし方

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日々の生活や仕事のなかで「素材」とクリエイティブに向き合う人たちの考え方に触れる、連載「そざいんたびゅー」。今回MOLpメンバーがお話をうかがうのは、クリエイティブカンパニー「Konel(コネル)」の代表であり、ウェブメディア「知財図鑑」も運営する出村光世さんです。
「知財図鑑」とは、従来なら限られた人しか知らないような新技術や新素材といった知的財産(知財)の情報を集め、使い方を妄想するというユニークなクリエイティブメディア。世界の進化に役立ちそうな知財をハントし、妄想を膨らませ、事業や商品に結びつけるための情報発信や取り組みを行なっています。
そうした知財に関する情報の収集や発信は、どのように行っているのでしょうか。「知財ハンター」でもある出村さんに、いま注目している3つの新素材をはじめ、知財をセレクトする基準や、妄想から生まれる新素材の可能性など、いろいろ語っていただきました。

インタビュー・テキスト:宇治田エリ 撮影:豊島望 編集:川谷恭平、佐伯享介(CINRA)

「こんなにおもしろいのに、もったいない」が、知財図鑑の原点

MOLpチーム(以下、MOLp):じつは、「知財図鑑」はMOLpメンバーの間でもたびたび話題に上がっているんですよ。このメディアはどういった経緯で立ち上げられたのでしょうか?

出村光世(以下、出村):知財図鑑の母体となった会社「Konel」には、もともとテクノロジーを応用することが大好きなメンバーが集まっていたので、自然と新しい素材や技術活用したクリエイティブ制作を行なうようになりました。

すると2018年頃から、ぼくらの活動を知った研究者から「こんな技術ができたけれど、なにかに使えませんか?」という問い合わせが増えてきて。研究がかたちになったものの、どう活用していけばいいかわからないというケースが、じつはとても多いと知ったんです。

技術者や科学者の方々から知財のお話を聞いていると、非常に情熱的で、ひとつひとつが本当におもしろくて。「もっと世の中に伝えないともったいない」と思うようになり、2020年に立ち上がったのが「知財図鑑」のウェブサイトです。

「知財図鑑」のトップページ
出村光世さん

MOLp:私たちMOLpも新しい素材の魅力をどのように世の中に伝えたらいいのか日々試行錯誤しているので、誰かに相談したくなる気持ちがわかります。

出村:ビジネスサイドの人やクリエイターたちは、本当は新技術や新素材といった知財の情報にもっとアクセスしたいはずなんですよね。新規事業や新しい表現のヒントになりますから。

それなのに、新しい知財の情報は論文や特許データベースなど、アクセスしづらい場所にしかない。そこで知財をデータベース化して、気軽に触れやすくすべきだと当時から考えていました。

実際、Yahoo! Japanが主催するハッカソンのイベント『Hack Day 2019』に「知財図鑑」のブースを展示した際も、研究者や便利グッズの特許を持つ方など、各方面から声をかけてもらったんですよ。

そのときに「知財に対してこんなに反応があるなら、より領域横断的なつながりを増やせるに違いない」と確信して、2020年1月に「株式会社 知財図鑑」として会社化しました。

知財セレクトの基準は「汎用性」と「体験可能であること」

MOLp:サイトを拝見すると、すでにかなりの数の知財が掲載されていますよね。知財を集めて紹介する「知財ハント」は、どのような体制で行なっているのでしょうか?

出村:現在はぼくも含めて30名ほどのメンバーが「知財ハンター」として参加していて、Slackで情報交換をしながら進めています。

取り上げる知財のセレクション基準は非常にシンプルで、「応用性が高い知財」を優先しています。個別の目的に特化しすぎたプロダクトは、発想の拡張がしづらいですからね。あとは、なるべく自分たちが体験可能な素材や技術であること。

知財図鑑では、ぼくたちが「わあ、おもしろい」と思えて、みなさんが発想を広げやすいものを中心に発信しています。同時に、「応用のプロ」として企業とともに知財の活用方法を考えていくこともしています。

「知財図鑑」オフィスの階段を降りると「地下実験場」が登場
地下実験場で実験する様子を説明する出村さん

MOLp:たしかに新しい技術や素材を発見しても、それを活かせないと、意味がないですからね。知財をより具体的なアイデアやプロジェクトへ発展させるために、心がけていることはありますか?

出村:実現可能かはさておき、「その特徴を活かせば、こういうことに使えるよね」というアイデア例をビジュアライズするようにしています。

たとえば、新素材や技術を生み出す研究者と、ビジネス視点でそれらをプロダクトに落とし込む企画や営業部門では、出発点やゴール地点が違いますよね。だから両者の考え方やビジョンには乖離が生まれやすい。

ですが、その新素材や技術が世に出た際に使われるイメージをビジュアル化して共有し合うことで、同じゴールが想像できます。それをもとに、「こんなことにも使えるなら、こういうことにも使えるかもしれない」と妄想がまた広がる。そうした柔軟な発想から、これまでにないようなプロダクトやサービスが生まれると考えています。

歴戦の「知財ハンター」が注目する3つの新素材とは?

MOLp:知財図鑑では多くの新素材も取り上げていますが、出村さんは最近どのような素材にまつわる知財に注目していますか?

出村:3つあります。1つめは、東京大学の生産技術研究所の酒井雄也准教授と町田紘太研究員が2021年に発表した、廃棄食材でできた完全植物性の新素材 です。ホットプレスの技術を応用し、コンクリートの4倍近い曲げ強度を実現します。さらに原料である野菜や果物の色、香りや味を残すこともできるんです。

知財図鑑では、単純に「この素材を食べてみたい」という欲望から発想を広げ、建物が非常食にもなる「食べられるトレーラーハウス」を提案しました。今後、廃棄場の横にホットプレス工場が設置されるようになれば、サーキュラーエコノミーの観点からも非常に効率的ですよね。

MOLp:とてもおもしろい取り組みですね! 2つ目はなんでしょうか。

出村:2つめは、繊維廃棄物を加熱・加圧成形したリサイクルボードです。接着剤を使っていないので、マテリアルの純度が高いので再びリサイクルしやすい素材であることも魅力的なポイント。

軽量でありながら丈夫で、折り曲げ加工もできる汎用性の高い素材です。一般的に板材としての活用方法を考えられがちですが、Konelではその特徴を活かしつつ、ファッションに還元しようと考え、素材を購入して下駄をプロトタイピングしました。素材とクリエイターのいいマリアージュだったと思います。その名も「フクツノゲタ(仮)」です。

出村さんと知財図鑑COO・荒井亮さん
繊維廃棄物からつくった下駄の試作品「フクツノゲタ(仮)」

MOLp:(試作品を見て)地面と擦れて削れた部分のテクスチャーもかっこいいですね。歩きやすそうです。

出村:実際に素材を試してみることで、より素材の魅力を知ることができるんですよね。

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