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妄想×知財で世界をアップデート。「知財図鑑」出村光世が語る、新素材の活かし方

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インタビュー・テキスト:宇治田エリ 撮影:豊島望 編集:川谷恭平、佐伯享介(CINRA)

「風」を壁のゆらぎで感じる。「宇宙時代のウェルネス」も視野に入れた新素材

MOLp:3つめはどんな新素材でしょうか?

出村:パナソニックとKonelの共同研究プロジェクト「Aug Lab」による作品の「TOU - ゆらぎかべ」をつくった時に生まれた、布の新素材です。「 TOU - ゆらぎかべ 」は屋外を吹く風に反応し、壁自体が揺らぐという作品。

ラテックスや金属を混ぜ独自に開発した布を、電磁石が埋め込まれた壁に張りつけて流すことで、電磁石のオン・オフに合わせて素材がついたり離れたりするという仕組みです。素材と素材の掛け合わせにより、新たなものを生み出すことができると、あらためて証明できた事例になりました。

MOLp:どういったシーンで活用できそうな新素材なのでしょうか?

出村:近年、窓が開けられない、窓がないといったような閉鎖的な空間が増えています。また、人々が宇宙に行くようになって宇宙船や別の星で暮らすことになったら、ナチュラルなの風を感じる機会が激減してしまう可能性もある。

そういった場合でも、この素材で空間に風のゆらぎのようなものを加え、脳をリラックスさせることで人間の思考を拡張したい。この作品は、そういった未来のウェルネスも考えてつくられました。

京セラ美術館で開催された『KYOTO STEAM 2020 国際アートコンペティション スタートアップ展』でも展示され、これを見た別のアーティストに技術提供をするといった広がりも生まれています。

「TOU - ゆらぎかべ」を『KYOTO STEAM 2020 国際アートコンペティション スタートアップ展』に出展した際のインタビュー映像

妄想をビジュアライズする。知財図鑑のキラーコンテンツ「妄想プロジェクト」裏話

MOLp:知財図鑑には、知財を使ったプロダクトやライフスタイルを妄想し、ビジュアルとテキストで表現する「妄想プロジェクト」というユニークなコンテンツがあります。出村さんが知財の可能性を広げるうえで、妄想とその可視化を大切にする理由を教えてください。

出村:新しい知財が生まれ、応用のアイデアを思いついても、そのアイデアを1社だけで具現化するのには限界がありますよね。

ぼくらが妄想プロジェクトというコンテンツを公開しているのは、アイデアを閉じるのではなくて外に向けて発信することで、実装の手助けをしてくれる企業やクリエイターが集まることを期待しているからです。実際、妄想プロジェクトをとおして、共創イベントに100社が集まったケースもあります。

妄想プロジェクトの一例。子どもを寝かしつけたあとに「アレクサ、電気を消して」と言いづらい。そんなときに視線を用いて電気を消せたらいいなと、「視線検出」のテクノロジーを用いて考えられた妄想プロジェクト「瞳リモコン」

MOLp:妄想プロジェクトにふれたときの感触は、SF小説を読んでいて、挿絵を見た瞬間、すごくリアルに想像が広がる感じにも似ています。

出村:妄想を「視覚化する・しない」の差はすごく大きいと思います。直感的に伝わりやすい絵を描いて、キャッチーなタイトルをつけることも重要ですね。

そうすることで、それまで技術に関心がなかった経営企画室の偉い人が、「この部分ってどうなっているの?」と興味を持ってくれたり、「いいね、わが社でもなにかしましょう」と乗り気になってくれたりしますから。PowerPointで技術を伝えるだけでは起こらない飛躍を生み出す可能性があります。

MOLp:妄想を発信することで、予想しなかった展開につながったこともありますか?

出村:たくさんあります。たとえば、サウナで漫画が読める「漫画喫サウナ」の妄想プロジェクト。耐水性の高い素材を漫画紙として活用できたら、サウナでも漫画が読めるのではないかという妄想プロジェクトを掲載したんです。

こういった妄想プロジェクトを企画していると、ある女性ファッション誌のスタッフの方の目に留まったようで。それがきっかけとなって、雑誌の付録として耐水マスクケースを制作に発展しました。素材の耐水性の高さや、非石油由来であるという環境性能の高さが、伝わったことがプロジェクトの背中を押してくれました。

妄想プロジェクト「漫画喫サウナ」

MOLp:おじさんくさい絵から、ハイブランドを扱う女性ファッション誌に飛躍するとは驚きです(笑)。

出村:驚きですよね。知財図鑑ではありがたいことに多くの企業からコラボレーションのご相談をいただくことがあるのですが、ぼくたちがプロジェクトを提案する際には企画案やプレゼン資料をたくさん用意するのではなく、1枚の絵だけでもアイデアのおもしろさが伝わるように心がけています。

さらに、その1枚の絵を起点に別の新たなプロジェクトも生まれていくこともある。そういった連鎖反応を生むために普段から実現可能性のあるプロジェクトをまとめた「妄想」をカードのようにしストックしています。ご相談にきてくれた相手に合わせて、適切なアイデアを手札からすぐに出せるようになるといいですね。いろんな企業の方におすすめしています。

知財図鑑が目指す、新たなビジネスとコミュニケーションのかたち

MOLp:知財図鑑の今後の活動の展望や、挑戦したいことはありますか?

出村:たくさんあります(笑)。どれからお話ししようか迷うのですが、特に挑戦してみたいのが、個人が企業に対してビジネスを仕掛ける「C to B」のビジネスです。

個人のアイデアを企業にライセンス購入してもらえるような仕組みづくりができたらと思っていて、まだ仮のプロジェクト名ですが「未来商店」と題して計画中です。最終的には、知財図鑑を通してアイデアの投稿と売買ができるようにしたいですね。

もう1つは、メーカーさんとの横のつながりの強化です。MOLpともこれまで何度かコンタクトを取ってきましたが、今後はさらに関係性を深めていきたくて。

たとえば、「ビジネスにつながるかわからないけど、1時間お話しましょう」という時間をつくるのもアリだと思っています。一見取るに足らないようなことでも、アイデアの発展の萌芽になるかもしれない。そんなふうに、気軽に相談できるホットラインが欲しいですね。

MOLp:ぜひお願いします。ちなみにMOLpでは普段から、クリエイターの方たちとSNSなどで、思いつきのアイデアを共有し合ったりしています(笑)。

出村:いいですね。ぼくもそういうノリこそが、クリエイティブにおいては大事だと思います。

PROFILE

出村 光世MITSUYO DEMURA

1985年、石川県金沢市生まれ。 早稲田大学理工学部経営システム工学科卒。
2011年、アクセンチュア所属時にクリエイティブカンパニー「Konel(コネル)」を創業。東京、金沢、ベトナムを拠点とし、アート / 研究開発 / ブランドデザインを越境し、30を超える職種のクリエイターとプロジェクトを推進。2020年に「知財図鑑」を共同創業。

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