そざいんたびゅー

プラスチック=悪ではない。
素材の力を追求するseccaのものづくり

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取材・執筆:榎並紀行 写真:池田ひらく 編集:生駒奨(CINRA)

「プラスチック=悪」ではない。樹脂製だからこそ実現する美しさ

MOLp:seccaはテクノロジーを取り入れるだけでなく、「新しい素材」も積極的に活用しているそうですね。代表的なのが2020年に立ち上げたテーブルウェアブランド「ARAS」(エイラス)だと思います。陶磁器やガラスではなく、なぜ樹脂素材を使うことになったのでしょうか?

上町:もともとのきっかけは、プラスチック製のグラスなどを製造していた石川樹脂工業から「新しい自社ブランドをつくりたい」と相談を受けたことでした。

当時はプラスチックの海洋ごみの問題がクローズアップされ、あたかもプラスチックという素材そのものが悪であるかのように言われていました。でも、石川樹脂工業もぼくらも、その論調には違和感があって。

だって、海洋ごみの問題は「人の行動」や「海に流れ出してしまうシステム」に起因しているのであって、素材のせいではありませんよね。それなのに、プラスチックを「叩く」のはヘンですよね。実際、長年プラスチックで商売をしてきた石川樹脂工業も、悔しい思いをされていました。

ただ、その一方で樹脂加工メーカーとして海洋ごみの問題に間接的に関与してしまった部分があるのも事実。ですから、その課題とはしっかり向き合ったうえで、新しいプラスチックの価値を世の中に提供していきたいともおっしゃっていて。そのお考えに共感し、新ブランドを一緒に開発することになったんです。

MOLp:このプラスチックには、どんな特徴がありますか?

上町:透明性が高くガラスの屈折率に近いため、従来のプラスチック素材にはない高級感があります。熱い飲み物を入れることもできますし、割れない靭性・耐久性や高い耐薬品性も兼ね備えています。さらに、食品との接触でも安全性が高くリサイクルも可能です。一方で電子レンジが使えないなどの難点はあるのですが、総合的に見ればとても優れた素材であると思います。陶磁器は当然良い素材ですが、大きなレストランなどのバックヤードでは実際ガンガン割れているんです。陶磁器はリサイクルするにもエネルギーコストがかかりすぎて、埋め立て処理するしかありません。プラスチックは割れにくいうえにリサイクルできる点も大きなメリットです。

柳井:プラスチックが持つ割れにくいという特徴は、製品にも活かされています。例えば、このカトラリーを見てください。

ARASシリーズのカトラリー。皿を傷つけず、食器同士が当たる際の不快な音がしないといった樹脂ならではの特徴を持つ / 写真提供:secca

柳井:透このカレースプーンは先端部分が0.5mmと極薄になっています。口からスプーンを抜く際にもまったく存在感がないので、料理の味を邪魔しません。

また、先端を薄く平たくすることで食べやすく、適度にしなる柔軟性をもたせることでカレーやシチューを最後まですくいやすくしています。

すくいやすさを計算したスプーンの曲線 / 写真提供:secca

さらに、金属のスプーン特有の香りや味もしないため、料理の香りを存分に堪能することができるんです。ちなみに、金属や陶磁器の場合、ここまで薄くすると食べるときに口を怪我してしまいますし、そもそも割れてしまいます。

「かつて、樹脂は夢の素材だった」。seccaが語る、プラスチックに対する「誤解」の正体

MOLp:ARASはカトラリー以外にもプレートや茶碗といった皿類、マグカップなどのラインナップがありますね。どれも従来のプラスチック製品にはない雰囲気をまとっていて、それこそ工芸品のような味わい深い質感があるように思います。

上町:そこは意識してつくっています。例えば、こちらはARASシリーズの「深皿スクープ」で、器の底の部分をあえて肉厚にして重量感を出しています。

樹脂製品は軽いため、どうしても安っぽさが出てしまうのですが、これはあえて底に肉を持たせて重量感を出しつつ、その重みが安定感に寄与するように設計しています。

柳井:また、樹脂素材ならではの表情を引き出すことも意識しています。工場で樹脂製品を製造する際、まれに入ってしまう「ジェッティング」と呼ばれる縞模様があるのですが、通常は不良品として廃棄されてしまいます。でも、ぼくらはあえてこのムラを残してもらうようにお願いしました。

箸の表面には、樹脂加工の特徴を活かした縞模様が浮き出ている / 写真提供:secca

MOLp:それこそ、手づくりの工芸品のように見えます。

上町:何とも言えない温かみがありますよね。ちなみに、このジェッティングのムラは不規則で、一つひとつ模様が異なります。そのため、工芸品のように自分が好きな模様を選んで買うことができると思います。

MOLp:プラスチックの可能性を見出し、広げる取り組みをされているんですね。

上町:そもそも、プラスチックは登場した当時「夢の素材」といわれていましたよね。ぼくたちの生活をより良くするために開発された素材です。

ただ、経済がどんどん発展するなかで、効率ばかりを重視して、価値を見る目がおざなりになった時代があった。それに伴って、プラスチックという素材には「安物」「使い捨て」というイメージがついてしまいました。

繰り返しになりますが、ぼくたちは「大量生産」それ自体に反対しているわけではなくて。長く使えて、ものづくりの心が感じられるプロダクトを誰もが手軽に手に入れられるという、ある意味インフラに近いソリューションのためであれば、喜んでコミットしたい。そのためにプラスチックは最適な選択肢のひとつだと思います。

「環境と共生するものづくりを」。seccaが見据える未来と新素材

MOLp:seccaがいま最も関心を寄せていること、今後、ものづくりの軸にしていきたいことがあれば教えてください。

上町:いまは「素材の利活用」に関心があります。これからの時代は、従来のようにゼロから素材をつくって製品化するのではなく、大量生産のすえに破棄されたゴミなどの資源を、これまで以上に利活用していくことが大きなテーマになると思います。

これまでの0から1を生むつくり方ではなく、0.5から1にするイメージですね。

例えば、この「杉皮の皿」は、森の間伐の際に廃棄される杉皮を50%使用し、プラスチックと混ぜ合わせた新素材でつくられています。

「ARASサステナブルコレクション」の第1弾としてつくられた「杉皮シリーズ」のひとつ「深皿スクープ 杉皮」。杉皮と耐久性の高いプラスチックを混ぜ合わせることで1,000回落としても割れない耐久性を実現しているという / 写真提供:secca

上町:森林のCO2吸収量を維持するためには最適な間伐がかかせませんが、杉皮の廃棄にかかるコストは林業従事者にとって大きな負担になっている。ぼくらがそれをうまく利活用することで、森林の保全を少しでもサポートできればと考えました。

MOLp:「利活用」の取り組みでは、私たちMOLpとの共同プロジェクトも始動しましたね。

上町:はい、三井化学さんの新しい複合材料「NAGORI®」を使用した「海水」(*1)というシリーズのお皿をつくりました。

「ARASサステナブルコレクション」第2弾「海水」。「NAGORI®」は海水由来のミネラルを樹脂と配合した新素材。世界中の海水淡水化設備から海に破棄される濃縮水により珊瑚の死滅という生態系が破壊されている現状を受け、その濃縮水に含まれるミネラルを利活用するという発想で生まれた / 写真提供:secca

上町:「NAGORI®」が生まれた経緯やコンセプトは間違いなく正しいと感じていますし、先ほど話した「0.5から1にする」というビジョンともマッチします。seccaとしても「海水」が広まったら嬉しいですね。

これからも「環境と共生するものづくり」をしていくために、利活用も含めた素材の探求は続けていきたいですね。

*1 … ARASの「海水」シリーズは、ARASのECサイトにて販売中です。
https://aras-jp.com/collections/sustainable-collection-kaisui

PROFILE

上町 達也Tatsuya Uemachi

secca inc.代表取締役CEO。大手カメラメーカーにプロダクトデザイナーとして勤務後、金沢へ移住しseccaを創設。現在、secca独自の経営を推進しながら、おもに各作品のコンセプトメイキングを担当する。

PROFILE

柳井 友一Yuichi Yanai

secca inc.取締役CCO。音響機器メーカーにデザイナーとして勤務後、陶芸の道に。約5年間の修行を経てsecca立ち上げに参画。クリエイティブリーダーとしてsecca独自のものづくりを牽引する。