そざいんたびゅー

いつの時代も「革」が人を魅了する理由。
土屋鞄が考える革素材の魅力と可能性

  • Social

取材・執筆:石塚振 写真:タケシタトモヒロ 編集:生駒奨(CINRA)

「『ずっと使いたい』という思いをサポートしたい」。革製品のために取り組む情報発信

MOLp:土屋鞄の公式サイトでは、お客さまに向けて革に関するさまざまな知識を伝えるコンテンツを用意していますよね。革の魅力をお客さまにも発信しようと思った理由はあるのでしょうか?

鬼木:「長く使える」「経年変化する」といった革の魅力は、漠然と知ってはいても、実際にどう使うべきかや、どんな変化をする素材なのかイメージがつかないという方も多いためです。そうした背景から「エイジングギャラリー」というコンテンツでは、経年変化でどのように色艶が増したり、色味が深まったりしているのかを発信しています。

土屋鞄公式サイトの人気コンテンツ「レザーエイジングギャラリー」で紹介されたトートバッグ。左のブラックが1年6か月、右のブラウンが6か月愛用した状態だ

鬼木:ほかにも、革は正しく手入れをすれば何十年も使える一方で、手入れを怠ると乾燥してボロボロになってしまうこともあるため、手入れの方法を伝えるコンテンツなども発信しています。

革は「ずっと使っていたいな」と思ってもらえる力を持っている。それをサポートするために、製品だけでなく、自社サイトでのコンテンツ発信や店舗での修理、お手入れのサービスなどを行なっています。

願わくば、製品が親から子へ、さらに次の世代へ、といったかたちで受け継がれていくと良いなと思っています。

不要になってもリペアで生まれ変わる。革ならではのサステナブルと、新素材の可能性

MOLp:製品を長く使ってもらう、というのはサステナビリティが重視されている現代においても大切なことかもしれませんね。

鬼木:そうですね。モノをひとつつくるということは、見方によってはつくるために何かを消費していることでもあります。その事実は変えられないなかで、私たちが取れる行動としては、つくったひとつの製品を、とことん使い倒してもらえるようなモノづくりやサービスを行なうことに尽きると思います。

新たに始めた「CRAFTCRAFTS」というサービスも、その延長上にあります。いままでは手入れや修理などを行なってきましたが、もう一歩進んで、お客さまが使わなくなった土屋鞄の製品を回収・リペアし、定価の50%から75%の価格で再販売することで、購入後の選択肢も用意しようと考えました。

MOLp:最近では「環境の負荷が少なく、動物の権利も守る素材」として注目されているマッシュルームレザー素材の「Mylo」を使用した商品も発売されていますよね。

鬼木:はい。時代の変化とともに多様化するお客さまに対して、製品の選択肢をいつでも用意できるよう、新素材のリサーチはつねに行なっているのですが、そのなかで「Mylo」に出合いました。

土屋鞄の人気商品「ハンディLファスナー」に新素材「Mylo」を使用したアイテム。「Mylo」はキノコの菌糸体を原料にした、新時代の代替レザーだ

鬼木:キノコから人工皮革をつくるということは好奇心をそそられるものでもあったし、とくに「Mylo」はいくつか見たマッシュルームレザーのなかでも質感が非常に良かったんです。

私たちのモノづくりの知見やノウハウを活用してお客さまに届けることができれば非常に面白いな、と感じチャレンジしました。いまはまだ財布のみの展開ですが、バッグなどのラインナップも増やしていく予定です。

新素材を探求しながら、「軸」はブラさない。「革」と「職人」への強いこだわり

MOLp:新素材に関しては、これからも探索していくのでしょうか?

鬼木:はい、探求していきたいですね。人工皮革に限らず、ナイロンなどの別素材も検討していくつもりです。いまもいろいろな分野で開発は進んでいて、私自身もキャッチアップしきれないほどの種類の新素材が生まれています。そのなかで、これからの時代にふさわしい素材選択をしていきたい。

地球のことはもちろん、お客さまが手に取ったときにハッピーになれる素材を探し、製品化していかないといけないな、と思っています。

MOLp:そういったなかで、MOLpのプロダクトや活動で、可能性を感じるものはありますか?

鬼木:人の体温を感知してフィットするように変化する「HUMOFIT®(ヒューモフィット)」は気になる技術でした。鞄は持ったり、肩にかけたり、背負ったりと、人の体のいろいろな部分にフィットさせる必要があるモノでもあります。

三井科学株式会社公式YouTube「HUMOFIT®の温度依存性」

鬼木:とくにランドセルは、成長期のお子さまが6年間使うモノなので、購入当初は良くても、大きくなるにつれてフィット感が変わってしまうこともありますし、お子さまによって体型も千差万別です。

私たちも開発の際には測定したり、実際にお子さまに背負ってもらって検証したりはしますが、個々人に最適なフィット感の製品をつくるのは難しいなと感じています。

そういったなかで、「HUMOFIT®」の技術でお子さまの体型の変化や体格の違いに対応できれば、可能性は広がるかもな、と思いました。

MOLp:最後に今後、どのようなモノづくりをしていきたいかを教えてください。

鬼木:世界中の方々に持っていただけるような、日本らしい製品をつくっていきたいです。そのために現在、伝統技術など、日本のいろいろな技術を持っている方々と一緒に鞄をつくる、といったことを試験的に進めています。

ゆくゆくは、国内のいろいろな職人さんの心意気が詰まっているプロダクトを定期的に出していきたいです。製品に用いる素材についても、新しい素材の探索だけでなく、軸となる革もチューニングしていければと思っています。

また、日本の製造業はとても真面目で、高品質が当たり前になっています。これは素晴らしいことですが、当たり前になりすぎて、技術という価値に正当に対価が支払われているのかが曖昧になっているところもある。

現在、自社サイトで職人にフォーカスしたコンテンツを制作中ですが、コンテンツや製品を通じて、モノづくりの背景や現場をあらためてしっかりとお客さまに伝えていけたらいいなと思っています。

PROFILE

鬼木 めぐみMegumi Oniki

大学卒業後、国内アパレル企業にて販促やマーチャンダイジング、ブランド責任者を経験。2019年に株式会社土屋鞄製造所に入社。商品のデザインや仕様の決定に携わる「商品企画室」室長を務める。