取材・執筆:宇治田エリ 写真:沼田学 編集:川谷恭平(CINRA)
スケートボードの自由な精神が制作スタイルの根底に
MOLp:素材を集めるときとつくるとき、明確な目的や意識を持たないようにしているのはなぜですか?
杉澤:説明できない何かにたどり着きたいからです。意識の外にある感性を働かせて、素材から受け取ったインスピレーションで、合う、合わないを判断し、かたちにしていく。
もともと、他者との関係性やどう思われるかにはあまり興味がないし、社会的な役割や価値からもかけ離れたところにいたいし、もっと自分の感性に素直でありたいからこそ、そういったつくり方を貫いています。
MOLp:即興でつくるなかで、杉澤さんは何を感じていらっしゃるのですか?
杉澤:調和と不調和、具象性と抽象性、意識と無意識……そういう相反するものを、自分の行為をとおして1つの場所に同居させていく感覚がありますね。即興のなかから自分が感じた調和は、別の人からすると不調和かもしれないし。
なるべく自分の意識の外にあるところで作品づくりの判断をしていかないと、自分の制作スタイルには意味がないなと思うんです。完成のタイミングも、「終わりの瞬間が来た」となったら手を止めるようにしていますね。
MOLp:こうした杉澤さんの制作スタイルには、スケートボードのカルチャーも関係しているのでしょうか?
杉澤:通じているところはありそうです。たとえば、先ほどお話しした、素材選びで向こうからやってくるという感覚。
スケートボードでは、街にある縁石や手すり、階段などを使ってトリック(技)を行ないます。一般の人からすると、それらは街や道の一部でしかありませんが、スケーターからすると滑るためのスポットに見えてくるんです。
既存のものを再解釈して、新たな価値や意味を与えていくところは共通点があると思います。
MOLp:なるほど、面白いです。「見立てる」感じですね。
杉澤:あらためて考えてみると、自分がやっていることは昔から一緒なんですよね。スケートボードの何にも縛られない、とらわれない自由な精神と、トリックがメイク(成功)するまで何回も挑戦する忍耐力が自分のなかに根づいていて、いまのような制作スタイルにもつながっているんだと思います。
プラスチック素材の「有機性」を引き出す
MOLp:長年おもちゃを扱ってきたなかで、素材に対する発見はありましたか?
杉澤:20年以上おもちゃに触れて、作業をしていると、使われているプラスチックの質の違いを明確に感じます。とくに感じるのが、ビスを使ってプロテクターにおもちゃを打ちつけて固定するとき。
プラスチックには柔軟性が高いものと硬いものがあって、柔軟性が高いものはビスも打ちやすいんです。つくり手が素材を試行錯誤しながら選んでいる様子をそこから感じる取ることが多いですね。もちろん、普通の人はプラスチックにビスを打つことはしないでしょうから、共感してもらえることは少ないと思いますが(笑)。
MOLp:作品づくりで使用する日用品は、どのようなアイテムを選ぶことが多いですか?
杉澤:掃除用品ですかね。質感が崩れないようにおもちゃと似ているものを選ぶことが多いですが、モップ状の柔らかいものも合わせやすいと思います。それも、感覚的に判断していますね。
MOLp:制作をしていくなかで、プラスチック自体に対する印象は変わりますか?
杉澤:プラスチックっていう素材自体は、もともと有機物なのに、あまりぬくもりが感じられないからなのか、生活者には無機物として受け取られがちな印象があります。だけどプラスチック製のおもちゃや日用品に触れてロボットやお面をつくっていると、プラスチックは有機物であることがちゃんと実感できるし、伝わるような気がしているんです。
プラスチックは物心がつくころには、すでに触れている素材で、人によっては人生のなかで一番長くつき合う素材でもある。そうやって人間の暮らしを豊かにするものなのに、世の中はプラスチックを脇役扱いしがちなんですよね。
でも自分にとって、プラスチックは生活の主役であり、とくにおもちゃには揺らがない憧れがある。素材自体は軽いけど、軽く見られたくはないですね。
MOLp:プラスチックの有機性を取り戻すといいますか、再発見するという行為がすごく面白いですね。
杉澤:木や鉄といった素材を扱う場合、作品に活かしていくなかで姿やかたちを変えることができますが、自分の場合はすでに完成されたフォルムのものを素材として扱っています。
そのままのかたちで使用し、作品をつくっているので、プラスチックの有機性をより強く実感できるのかなと思います。
いつか5歳のころに描いたロボットを実物大にしたい
MOLp:三井化学では、脳科学者の茂木健一郎さん監修のもと、体温によって素材の柔らかさが変化する、新素材を使ったおもちゃをつくったり(※)、海辺で海洋プラスチック拾いをしたりしています。杉澤さんにこれらをご提供すればなにか面白いことが生まれそうな気がします。
杉澤:それは楽しみですね。自分にとって、おもちゃ以外のどんなプラスチックが琴線に触れるのかも気になります。
※ 人の体温を感知して、触れた体をやさしく包み込む新素材「HUMOFIT®」がSTEAM脳育トイ「キャンディぷらす®」に採用(記事はこちら)
MOLp:ちなみに、この手描き風の立体ロボットはなんですか?
杉澤:これは 5歳のころに描いたロボットの絵をもとに立体にしたものです。人って成長して、変化し続けていくものだと思っていたけれど、大人になって、いろんな経験を積んでからこの絵を見たときに、「オレ、このころから好きなもの変わってないな」と衝撃を受けたんです(笑)。
だけど見方を変えると、それは希望でもあるなと思って。社会に身を置いていても、そこから解き放たれて自分自身を掘り下げると、結局変わらない部分があって、それが自分の原動力を生み出すエンジンとして動き続けているんだと思います。
MOLp:今後挑戦してみたいことはありますか?
杉澤:このロボットの絵を20mくらいの巨大なサイズで、かつプラスチックで地元につくってみたいですね。馬鹿馬鹿しいし、なんの役にも立たないけれど、大きいことは正義ですから。圧倒的なプラスチック感を体験してみたいですね。
1982年生まれ。静岡県沼津市出身。沼津市を拠点に活動するアーティスト。14歳からスケートボードをはじめ、10代のほとんどの時間をスケートボードに費やす。おもちゃ、日用品、路上で拾った物などさまざまな物を用いてお面やロボットなどを制作。また、スケートボードの連続写真の影響から身体の連続性をモチーフにしたペインティング作品も制作しており、音楽製作やポエトリーリーディングなど活動は多岐にわたる。