そざいんたびゅー

ゴミから新素材をつくり出す。
素材デザイナー村上結輝が語る廃材の可能性

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日常のなかで何気なく淹れる一杯のコーヒー。その際に出るコーヒー豆の「かす」から新素材を生み出した人がいます。

家庭から出る生ゴミや建築現場で捨てられる建材といった「廃材」を利活用し、新素材を開発している素材デザイナー・村上結輝さんです。

日々の生活や仕事のなかで「素材」と向き合う人たちの考え方に触れる、連載「そざいんたびゅー」。今回は「素材デザイナー」として注目を集める村上さんにお話を聞きました。ユニークな発想を生み出す秘訣や「廃材」からのものづくりにこだわる理由、新素材がもたらす社会への影響などを紐解きます。

取材・執筆:宇治田エリ 写真:fujico 編集:生駒奨(CINRA)

「ぼくが注目したのは、ゴミでした」コロナ禍の葛藤から生まれたアイデア

MOLpチーム(以下、MOLp):「素材デザイナー」として、通常は捨てられてしまう「廃材」で素材開発を行なう村上さん。どのようなきっかけで現在の活動を始めたのでしょうか?

村上結輝(以下、村上):2021年まで在籍していた名古屋芸術大学の卒業制作がきっかけでした。ぼくは家具やインテリア、建築、都市など、空間に関わるデザインを学ぶスペースデザインコースに在籍していて、卒業制作も社会課題に踏み込んだインパクトのあるものがつくりたいと構想を練っていました。

素材デザイナーの村上結輝さん。2021年に名古屋芸術大学を卒業し、独立。身近な廃材を美しい素材に生まれ変わらせる活動を行なう。2022年には株式会社On-Coに入社し、「上回転研究所」を設立した

村上:しかし、4年生になる2020年にコロナウィルスの感染拡大で、学生生活がままならなくなってしまったんです。大学の工房や設備を使うことができず、家のなかで1年をかけて卒業制作に取り組まなければいけない。このもどかしい状況をなんとかプラスに変えていきたくて、自分の暮らしのなかから卒業制作のテーマを探っていこうとしたんです。

MOLp:ものづくりをする学生にとっても、大変な時期だったのですね。具体的には、どのようにテーマを探っていったのでしょうか?

村上:ぼくが注目したのは、ゴミでした。ずっと家にいると、毎日の自分の暮らしぶりがすべてゴミに反映されます。まずその量の多さに驚かされましたし、その内容を見ていると「菓子パンやカップラーメンばかり食べていて、不摂生だな」と、生活の質の低さに衝撃を受けました。

「このままではいけない」と考え、まず自分の生活の課題を解決するところから始めました。食事を健康的なものに変えて、家庭菜園を始めて。そして、コンポスト(※1)を始めたことは多くの発見をもたらしました。純粋にゴミを捨てなくていいので楽ですし、栄養のある土づくりもできる。それまで生ゴミは臭いも出るし嫌なイメージがあったけれど、新たに野菜や果物を育てる土になっていく姿を見ているうちに、ポジティブなものとしてとらえられるようにもなりました。

あるとき、コンポストの容器から木の芽が出てきたんです。何の木かわからず育ててみたら、徐々に香りが漂ってきて、それがレモンだとわかった。あのときは感動しましたね。このように自然の循環に暮らしを組み込んでいくことで、不便だけれど心身ともに豊かになっていく。その魅力をたくさんの人に知ってもらえる作品をつくろうと考えました。

※1 コンポスト:家庭から出る生ゴミなどの有機物を、微生物の働きによって発酵・分解させ肥料にすること。

MOLp:実践から生まれた感動が起点になっているのですね。そのなかで、特定のプロダクトではなく「素材」をつくることを決めた理由は何だったのでしょうか。

村上:たくさんの人に知ってもらえるものをつくろうと考えたときに、用途を指定するプロダクトでは限界がある。可能性を広げていけるものをつくるには、プロダクトや建築のもととなる「素材」をつくったらいいのではないかと考えました。どちらの領域でも素材は重要なものですから。

そこで、まずは日常に当たり前にある、毎日接している身近な廃材から素材を開発しようと考え、毎朝食べていたバナナの皮に着目したんです。

バナナの「皮」を「革」に。素材デザイナーへの道を決定づけた「バナナレザー」とは

MOLp:そこから「バナナレザー」の開発が始まったのですね。

村上:はい。バナナの「皮」で、バナナの「革」をつくってみようという(笑)。

バナナの皮を乾燥させ、粉末にして制作するという「バナナレザー」。独特の自然な色味や風合いが特徴だ

MOLp:なるほど! ダジャレ的な発想もアイデアのもとになっているのですね。

村上:言葉遊びから商品のアイデアを考えることが多いんです。そこから先行事例を調べてみると、これまでにも廃棄食材を使ってつくられた素材自体は存在していました。でも結局、食材が使われているのは数十%だけで、残りはウレタンなどの樹脂で構成されているケースがほとんどでした。そこで、将来的に土に還すことができるよう、自然素材100%にこだわって実験を重ね、半年後にようやくかたちにすることができました。

MOLp:自然素材だけでつくられた「バナナレザー」には、どのような特徴があるのでしょうか?

村上:使い始めはバナナの香りが感じられますよ。自然素材なので経年変化が早いぶん、数か月経つと数年使い込んだ革のような、味わいのある風合いが出てくるのも特徴ですね。

MOLp:「バナナレザー」で財布もつくられたそうですが、よく見ると一枚のバナナレザーを折りたたむだけでできていますね。

「バナナレザー」でつくられた財布

村上:そうなんです。「バナナレザー」同士でくっつく性質もあるので、それを利用して接着させています。また、バナナレザーでつくった財布には糸や留め具を使わないことで、「1年ほど使ったら土に還す」という行為をあわせて体験していただけるようにしていました。

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