「ぼくが注目したのは、ゴミでした」コロナ禍の葛藤から生まれたアイデア
MOLpチーム(以下、MOLp):「素材デザイナー」として、通常は捨てられてしまう「廃材」で素材開発を行なう村上さん。どのようなきっかけで現在の活動を始めたのでしょうか?
村上結輝(以下、村上):2021年まで在籍していた名古屋芸術大学の卒業制作がきっかけでした。ぼくは家具やインテリア、建築、都市など、空間に関わるデザインを学ぶスペースデザインコースに在籍していて、卒業制作も社会課題に踏み込んだインパクトのあるものがつくりたいと構想を練っていました。
村上:しかし、4年生になる2020年にコロナウィルスの感染拡大で、学生生活がままならなくなってしまったんです。大学の工房や設備を使うことができず、家のなかで1年をかけて卒業制作に取り組まなければいけない。このもどかしい状況をなんとかプラスに変えていきたくて、自分の暮らしのなかから卒業制作のテーマを探っていこうとしたんです。
MOLp:ものづくりをする学生にとっても、大変な時期だったのですね。具体的には、どのようにテーマを探っていったのでしょうか?
村上:ぼくが注目したのは、ゴミでした。ずっと家にいると、毎日の自分の暮らしぶりがすべてゴミに反映されます。まずその量の多さに驚かされましたし、その内容を見ていると「菓子パンやカップラーメンばかり食べていて、不摂生だな」と、生活の質の低さに衝撃を受けました。
「このままではいけない」と考え、まず自分の生活の課題を解決するところから始めました。食事を健康的なものに変えて、家庭菜園を始めて。そして、コンポスト(※1)を始めたことは多くの発見をもたらしました。純粋にゴミを捨てなくていいので楽ですし、栄養のある土づくりもできる。それまで生ゴミは臭いも出るし嫌なイメージがあったけれど、新たに野菜や果物を育てる土になっていく姿を見ているうちに、ポジティブなものとしてとらえられるようにもなりました。
あるとき、コンポストの容器から木の芽が出てきたんです。何の木かわからず育ててみたら、徐々に香りが漂ってきて、それがレモンだとわかった。あのときは感動しましたね。このように自然の循環に暮らしを組み込んでいくことで、不便だけれど心身ともに豊かになっていく。その魅力をたくさんの人に知ってもらえる作品をつくろうと考えました。
※1 コンポスト:家庭から出る生ゴミなどの有機物を、微生物の働きによって発酵・分解させ肥料にすること。
MOLp:実践から生まれた感動が起点になっているのですね。そのなかで、特定のプロダクトではなく「素材」をつくることを決めた理由は何だったのでしょうか。
村上:たくさんの人に知ってもらえるものをつくろうと考えたときに、用途を指定するプロダクトでは限界がある。可能性を広げていけるものをつくるには、プロダクトや建築のもととなる「素材」をつくったらいいのではないかと考えました。どちらの領域でも素材は重要なものですから。
そこで、まずは日常に当たり前にある、毎日接している身近な廃材から素材を開発しようと考え、毎朝食べていたバナナの皮に着目したんです。