PROJECT DIARY

「理想の職場」は自分たちでつくる。研究者がこだわる三井化学の研究所づくり

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2024年4月に「袖ケ浦センター」は「VISION HUB™ SODEGAURA」に改称されました

取材・執筆:宇治田エリ 写真:佐藤翔 編集:吉田真也(CINRA)

食堂の出口の先には、本格コーヒーが楽しめるスペース。気軽な交流を生むための導線

続いては、食堂の出口側に設けられた「インナーテラス」という社員同士の気軽な交流を狙った場所。改装前のこの場所には売店があり、人通りが多いのに閉鎖的な雰囲気だった。以下が改装前の様子。

改装前にあった売店のスペース。売店の外側の壁には掲示板があった(画像提供:三井化学 袖ケ浦センター)

改装後のこの場所にできたインナーテラスには、背の高いテーブルと椅子が設置されていた。食堂から出てすぐにこのスペースがあるので、ここでの食後のコーヒーを楽しみにしている社員も多いようだ。

改装後のインナーテラス。閉鎖的な雰囲気をやわらげるために、透ける素材の仕切りがあることで風通しがいい雰囲気になっている(画像提供:三井化学 袖ケ浦センター)

田子:紬でご飯を食べたあと、気軽に立ち寄るスポットとして設けたのが食堂横にあるインナーテラスです。ここには本格的なコーヒーが飲めるマシンが置かれ、ちょっとした休憩ができるようになっています。

内藤:コーヒーを淹れ終わるまでに少し時間がかかるのですが、その待ち時間に顔見知りの社員と話をしたりして、交流の場にもなっています。

鈴木:仕切りにはめ込んでいるパネルも、三井化学のビスフェノールAという素材を使ってつくられたポリカーボネート製のパネルを使用しています。この壁も更新性を持たせていて、新しい素材が開発された場合はパネルを変えて、私たちの研究・開発の成果を説明できるようにしています。

ちなみに売店は、インナーテラスに入る食堂出口の手前付近に移動。こちらも食堂と同時に改装し、きれいな売店になった(画像提供:三井化学 袖ケ浦センター)

ただの改装計画ではない。超石化プロジェクトが掲げる真の目的とは?

— 今回は、袖ケ浦センターのツアーをありがとうございました! お話を聞けば聞くほど面白く、何時間でも居られるくらい充実した時間でした。

田子:従来の石油化学や世の中を変えるという野望のもと「超石化」という言葉が生まれた35年前、三井化学が見つめる未来を世の中に実装するのは難しかったと思うんです。しかし人々の環境や消費への価値観も変わりつつある今、三井化学のアイデア力や技術力を持ってすれば、超石化の実現を本気で目指すことで、世の中全体を引っ張っていけるような存在になれると信じています。

今回、研究所のハード面を変えていったことは非常に良いファーストステップになったと思います。先人たちの築き上げた歴史の尊さを振り返ることができ、小さな実践を繰り返しながらこれからの三井化学が目指していくことを考える機会になったので。その証拠に、こうして鈴木さんや内藤さんのようにメンバーの一人ひとりが、自社の歴史とビジョンを語れることも増えましたから。

最後は、改装したB会議室でお話をうかがった

— 今後、超石化プロジェクトはどのような方向へ進んでいくのでしょうか? それぞれが考えているビジョンを教えてください。

内藤:これまで、数年かけてハード面をやってきましたが、超石化プロジェクトはただの改装計画ではありません。これからソフト面をどう考え、どう開いていくか。たとえば、多目的室や展示台を活用してワークショップを開催したり、食堂を利用して大きなイベントを開催したりするといったことを考えています。

私は自発的に挑戦し、周囲を巻き込みながら研究開発に取り組んでいくことを「超石化マインド」と呼んでいるのですが、今後はそれを波及していきたいですし、そのマインドを袖ケ浦センターだけでなく、いろんな拠点に波及させていきたいですね。

鈴木:三井化学のこれまでの強みとなる事業に力を注ぐだけでは未来はありません。この先、どういう研究開発をしていくか、一人ひとりが自分ごととして捉えて考えていかなきゃいけない時代であることは、社員の誰もが自覚していることです。

だからこそ、これまでの縦のつながりだけでなく、横のつながりをつくり、若手から新しいアイデアを提案したり、外部とコラボレーションしたりする機会を増やすべきだと考えています。そして、「自分はこういうことをやりたいんです」という提案をどんどんしていけるような風土をつくりたいです。

田子:今回、袖ケ浦センターのハード面で改装できたのはほんの一部だと思っています。引き続きもっとブラッシュアップしていきたいですね。社内の一部では、通称「袖ケ浦ファミリア」と言われているくらいですから、まだまだ続きそうです(笑)。

またハードと同じく、ソフトの面においても、なにかひとつの「こと」を実現すれば、次に「こんなこともあったほうが良いよね」と次に転んでいくはず。その原理をうまく作用させるためにも、ものをつくり、そこで積極的なフィードバックが生まれる社風を醸成し、まずは社員のみなさんにとって価値のある体験を増やしていきたいです。

そうなると、超石化も自然に浸透していき、三井化学の新たな文化が育っていくのではないかと思っています。そこから、世の中をより良くしていくためのプロダクトや文化が、三井化学からどんどん生まれるようになったら嬉しいですね。

PROFILE

田子 學Manabu Tago

株式会社エムテドの代表取締役。アートディレクター、デザイナー 。東芝にて家電、情報機器に携わり、家電ベンチャーでは創業期からデザインマネジメント責任者を務めた後、MTDO inc. を設立。広い産業分野において、イノベーションを目指す企業や組織に伴走しながら、コンセプトメイキングからプロダクトアウトまでをトータルにデザインする「デザインマネジメント」を得意としている。ブランディング、UX、プロダクトデザイン等、一気通貫した新しい価値創造を実践しているデザイナー。過去の受賞歴国内外受賞作品多数。

PROFILE

鈴木 比捺Hina Suzuki

2018年に慶應義塾大学にて修士(工学)取得後、三井化学に入社。有機合成に関するスペシャリティを活かし、研究開発本部 合成化学品研究所にて、機能性モノマーの研究開発に従事。2021年より、超石化PJメンバーとして活動に参加。2023年4月より研究系採用担当として、三井化学の未来を担う研究者の獲得に奔走中。

PROFILE

内藤 彩乃Shino Naito

2019年に鈴鹿工業高等専門学校を卒業後、三井化学に入社。株式会社プライムポリマーの自動車材研究所に配属され、自動車部品向けの材料開発に従事。2021年より、超石化プロジェクトのメンバーとして活動に参加し、現在に至る。