取材・執筆:和田拓也 写真:松木宏祐 編集:吉田真也(CINRA)
globe(地球)に優しくできないやつは、自分にも優しくなれない
MOLp:ここまでお話をうかがって、自分の幸せに目を向けるという意識の転換がありつつも、結果的には他者や社会に目を向いてお店づくりされていることが興味深いなと思いました。
マーク:これまでの人生が嘘だったとはまったく思わないけど、より深く自分を見つめ直すことになって、周囲にも嘘なく接したいと思うようになったのかもしれないですね。地球や地域、周囲の人たちに優しくできないやつは、絶対に自分にも優しくなれないはずだから。
だから、自分に目を向けるのと同時に、身の回りの地域、それこそglobe(地球)にとって優しいアパレルのお店をやる。ベネバンではそうした考え方をとても大事にしています。
MOLp:アップサイクルの商品や古着を取り入れていることからも、「globeに優しい」という視点が伝わってきます。1990年後半から2000年代前半にかけては、globeのメンバーとして各地で大忙しの日々を送られていたと思いますが、その頃といまを比べて、マークさんご自身の「モノの選び方」は変化しましたか?
マーク:自分の好きなもの自体は、変わらないと思いますね。ただ、若かった当時はそうしたものがほとんど制限されていたんですよ。
MOLp:そうなんですか!
マーク:サーフィンも昔から好きだったけど、怪我をする可能性のあるスポーツは禁止されていたし、globeのメンバーとしての自分のイメージがあるから古着ファッションもNGでした。アンティークカーなど、僕が好きなレトロなものもダメだったかな。
思い返せば、当時は自分でなにかを決めてモノを買うということがほとんどなかったと思います。だから、なにを買ったか、なにを身につけていたかの記憶が全然ないし、当時のモノは手元にほぼ残っていないんですよ。ファンの方のほうが覚えてるくらいで(笑)。
MOLp:そのなかでも残っているものってどんなものなんでしょうか?
マーク:当時あまり着ることがなかったけど、大切なロックTはシッパー付きの袋に入れて保管しています。あと、1995年に自分で初めて買ったクロムハーツのベストは残っていますね。いまでもメンテナンスをして大事に保管しているし、それだけは絶対に捨てないし、なくしたくない。一生着る服だろうなって思います。
なにを買うかよりも「どこまで一緒にいられるか」。モノや素材の選び方
MOLp:マークさんにとって「長く使えるもの」「サステナビリティ」の重要な基準は、素材やデザインの良さの前に、思い入れやストーリーがいかに埋め込まれているかにあるような気がします。
マーク:そうですね。特にいまは、なにを買うかよりも「どう保たせるか」。デザインや素材も含めて「どこまで一緒にいられるか」を大事にしています。
どれだけ耐久力があって、地球に優しい素材を使っていても、すぐに消費して捨ててしまったり、タンスに眠っていたりするだけでは意味がないじゃないですか。着ない服が溢れてるくらいなら、起きてすぐに「今日はお前を着るぜ!」って即決できる、愛すべきTシャツがすっきりしたクローゼットに1枚あったほうがいいと思うんですよ。そういうアイテムをずっと大事に使いたいです。
MOLp:そうした意味で、ベネバンのアイテムのなかで一番気に入っているアイテムはなんですか?
マーク:マリニエールボーダーのカットソーですね。職人による手刷りのボーダーで、デザインも素材もこだわってつくっています。結果的に、この商品を求めてお店に来てくれる方も多いですね。あとは、オリジナルのトートバックもお気に入りです。
プラスチックにも、少しでも長く使いたくなる「ストーリー」が必要
MOLp:今後、ベネバンをどんなブランドにしていきたいですか?
マーク:たとえば人気のアイテムをお買い上げいただくときに、「これも可愛い」ってほかの商品もついでに買ってくださるのは嬉しいんだけど、「これ“も”可愛いね」はもうあまりいらないかなって思ってます。
つまり、「これ“が”ほしい」「大事にしたい」と思ってもらえる商品を増やしたい。そのためには、一つひとつの商品にストーリーを吹き込んで、そのアイテムが長い旅を続けられるようにするのが僕らの仕事なんじゃないかなと。
MOLp:なるほど。私たちMOLpの話でいうと、「脱プラスチック」の動きが強まる世間のなかで、身近なプラスチックという素材を「長く使いたくなるもの」にしていきたいと考えているので、マークさんの考えにすごく共感できます。
マーク:それこそプラスチックも、「使わない」一辺倒なアプローチだけじゃなくて、大事に使っていくための旅のさせ方も重要かもしれませんよね。
MOLp:と、言いますと?
マーク:地球に優しいプラスチックに変えていくとかの素材からのアプローチもそうですが、プラスチックと共生していくには、少しでも長く使いたくなる「ストーリー」をいかにつくるかが大事な気がします。たとえば、新品のTシャツが入っているようなビニールの包装って、剥がしたあとは「くしゃっ、ポイッ」でお終いでしょう? それだけだと本当に消費しているだけになっちゃう。
でも、もし仮に「クシャッ」としたときにふわっといい香りがする、いい音が鳴ったとしたら、ゴミ箱に投げ捨てる前に「なんだこれ?」と、1回立ち止まる気がして。捨てる前にもう一回くしゃっとしたくなって、その香りがお店へのいい印象につながるかもしれないし、袋の再利用も考えてくれるかもしれない。
MOLp:たしかに、いいアイデアですね。
マーク:そのとき、プラスチックは一瞬の消費じゃなくなりますよね。そういった意味でプラスチックは、長くモノに旅をしてもらうためのストーリーをつくったり、ブランドのストーリーを理解してもらったりするための橋渡しになる可能性も秘めているんじゃないかなと。もし三井化学やMOLpのみなさんとなにか一緒にできるとしたら、そういうところからお互いの知恵を出し合えたら嬉しいです。
フランス・マルセイユ出身。2歳からモデルとして活動。男性向けファッション誌『MEN’S NON-NO』初の専属モデルとして活躍。後に『MTVジャパン』 の初のVJに。1995年に音楽ユニット「globe」のメンバーとしてデビュー。アルバムはわずか3作品で1,000万枚以上の売上を記録。globeの活動以外には、安室奈美恵、鈴木あみなどの有名アーティストへの作詞も手がける。その後は、京都芸術大学や大阪芸術大学にて5年間の客員教授、大分県別府市の観光大使にも就任。現在もDJやプロデューサーなどを中心に音楽活動を行なう。2022年にアパレルのコンセプトブランド「BN20F(ベネバン)」を展開。