そざいんたびゅー

ビニール傘を丈夫なバッグに。
使い捨てを問うPLASTICITY・Akiのアップサイクル

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手軽に入手できる一方、処分するのは難しく、街中にあふれるビニール傘。暮らしに必要とされながら、疎まれがちなアイテムを用いて、アップサイクルのプロダクトを提案するのが、バッグブランド「PLASTICITY(プラスティシティ)」です。

日々の生活や仕事のなかで「素材」と向き合う人たちの考え方に触れる、連載「そざいんたびゅー」。今回はPLASTICITYのファウンダーであるAkiさんと、ブランドの運営を担うモンドデザインの堀池洋平さんにお話をうかがいました。

使い捨てや大量廃棄が問題視されるビニール傘を、循環型素材としてクリエイティブな方法で解決しようとする二人。これからの私たちが暮らしのなかで心がけていくべきことも同時に考えさせられました。

※ 「ビニール傘」という名称は、かつて透明な生地に塩化ビニルが使用されていたことに由来。塩化ビニルは焼却処理をする際、ダイオキシンを発生させることから、現在はポリエチレンが使用されている

取材・執筆:宇治田エリ 写真:小坂奎介 編集:川谷恭平(CINRA)

「自分もつくる側になりたい」。サステナブルなバッグを思い描くまで

MOLpチーム(以下、MOLp):Akiさんは専門学校でバッグづくりを学び「PLASTICITY」を立ち上げています。そもそもなぜ、バッグづくりを始めようと考えたのでしょうか?

Aki:リサイクルをコンセプトにしたバッグのブランドでアルバイトをしていたことがあり、以前から関心があったんです。同時期に、偶然出会った職人さんにあと押しを受け、バッグづくりを学ぼうと専門学校への進学を決めました。

また、もともと大学卒業後は香料をつくる化学メーカーに就職したのですが、そこで生産の背景を間近で見て、自分も「つくる側」になりたいと思ったのも理由の1つです。

Aki(あき)
PLASTICITYファウンダー・クリエイター。英国の大学卒業後、 日本の企業への就職を経て、次第に幼いころから好きだったものづくりの仕事に興味を抱くようになる。カバン職人との偶然の出会いをきっかけに、バッグ制作の専門学校に入学する。環境、動物、人に優しいファッションへの関心を形にするべく、2019年、在学中にPLASTICITYを立ち上げて以降その活動を続ける。

MOLp:PLASTICITYは環境に対する課題意識がコンセプトの1つになっていますが、Akiさんはそれをいつから意識され始めたのでしょうか?

Aki:関心を持ち始めたのは2016年ごろで、SDGsやサステナブルというキーワードをよく聞くようになり、ドキュメンタリー映画や書籍などの情報を通して、生産の背景を知る機会がますます増えていった時期でした。

私自身も簡単なところから変えていこうと、まずは「食」から気をつけるようにしたんです。自分なりに何ができるかを考え、行動していくうちに、消費するすべてのものが環境に関係していると思うようになって。市場でも環境や動物にやさしいプロダクトはまだまだ少ないと感じていました。

MOLp:そういった興味が重なって、バッグづくりでの挑戦に踏み出したのですね。最初からSDGsを意識されていたのでしょうか?

Aki:意識的ではありましたが、学校は基本的にはレザークラフトが中心だったため、ものづくりの基本を学ぶためにレザーを使わざるを得ませんでした。レザーという素材は、基本的に食肉の副産物として生まれたものが生産され、市場に出ていくもの。

副産物を有効活用するという視点は良いと思うのですが、市場にあるレザー素材のすべてがそうとは言えず、生産背景が不透明なままつくられた革製品の「美しさ」に対して見え方が変わってきて。そういった考えから、学校で培った技術を用いて、自分が安心して使える、サステナブルな素材に置き換えたバッグづくりをしたいと思い、自主的に素材探しもしていましたね。

卒業制作ではレザーのなかでも廃棄されがちな床革を使用したバッグを制作。一枚の床革を縫製してつなぎ合わせることなく、ワックスがけやブラッシングで質感を変え、床革の魅力を引き出した。その結果、素材を比べるのではなく、素材そのものの魅力と向き合うことで、消費者側の意識もアップデートされる可能性が見えてきたという

レザーを扱う学生時代に注目した、ポリエチレンのビニール傘

MOLp:どんな素材を探していたのですか?

Aki:最初はコルクなどすでに市場で売られているものを検討していました。しかし、探していく過程で単純にレザーじゃないものを使うことが環境や動物にとって良いわけではなく、それぞれの素材にプラスとマイナスの側面があるということに気づいて。

たとえばレザーには植物由来で土に還るものもあります。その点ではナイロンなど人工的な素材はマイナスです。素材選びの難しさは、生産工程、もしくは消費後の処分の際に、直接的/間接的に環境への負荷がかかってしまうものが多いこと。

そうしたことから人が不要にしたものや、どのみち廃棄されるものを素材として扱うほうが環境に良いかもしれないと思うようになったんです。

MOLp:そこで注目したのが、巷にあふれるビニール傘だったのですね。

手軽に購入できる便利さがゆえに、使い捨てが問題となっているビニール傘。日本では1年間で消費されるビニール傘年間約1.2億~1.3億本で、そのうち8,000万本の傘が廃棄されている

Aki:はい。私たちが「ビニール」と呼んでいる傘の透明な生地は、プラスチックの一つであるポリエチレンです(※)。熱圧着することによって形が変わり、強度が増す性質があります。この素材ならバッグに活かせると思いました。

このアイデアを友達2人に話してみたところ「面白いね、ぜひつくってみようよ!」と興味を持ってもらえて。私はサステナブルの文脈で考えていましたが、友人たちはものづくりやファッションの文脈からこの素材に興味を持ってくれたんですよね。そこから私たちが欲しいと思えるバッグのデザインを考え、学園祭のときにPLASTICITYとして発表しました。

※「ビニール傘」という名称は、かつて透明な生地に塩化ビニルが使用されていたことに由来。塩化ビニルは焼却処理をする際、ダイオキシンを発生させることから、現在はポリエチレンが使用されている

PLASTICITYの定番商品の「トートバッグ」。公式ウェブサイトはこちら(写真提供:PLASTICITY)

MOLp:PLASTICITYという名前には、どのような思いが込められているのでしょうか?

Aki:PLASTICITYは、直訳すると「可塑性」という意味です。素材自体の特性であることはもちろん、傘からバッグへという物理的な形の変化、そして「プラスチック(PLASTIC)」の社会課題を抱える「街(CITY)」のあり方に変化を与え、私たち消費者のマインドも柔軟に適応させていくといった、複数の意味を込めています。

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