CEOメッセージ

代表取締役 社長執行役員 CEO 橋本 修

目まぐるしく変化する環境の中、
三井化学グループ全体の変革を着実に実行し、
VISION 2030の実現を目指します。

代表取締役 社長執行役員 CEO

橋本 修

2021年度の市場環境と業績の総括

2021年度の最高益にとどまることなく、さらなる成長を目指し変革を継続する。

2021年のVISION 2030発表以来、新型コロナウイルス感染症に対する各国・地域の動向や、ロシアによるウクライナ侵攻など、外部環境は大きく変化しており、不確実性への対応がますます重要になっていると感じます。こうした中においても、環境意識の高まりは今後も続く長期的な潮流であるとの認識から、グループ全体で様々な試行をしながら、どこに大きな投資をしていくのかをしっかり見極め、変革を進めていくという方針に変わりはありません。

2021年度の業績としては、一部市況の追い風を受けた製品もありましたが、2020年度まで700億円程度の横ばいで推移していた成長領域のコア営業利益が1,000億円を狙えるレベルまで成長したことは、一つの大きな成果と感じています。今後は、これまで積極的に投資してきた設備が立ち上がり、M&Aの成果も現れてくる計画であるため、さらなる成長を期待しています。

新たな経営システムの実現

財務と非財務双方からのモニタリングにより、企業価値向上を目指す。

2020年度にVISION 2030の土台として改定したマテリアリティですが、社内でその重要性の理解が深まりつつあると感じています。2021年度にはこのマテリアリティに対応した非財務KPIを策定し、財務・非財務を統合した経営を進めています。私はこの財務・非財務KPIのマネジメントについて、しばしばスポーツに例えて説明しています。陸上選手にとっての目標タイムを財務KPIだとすれば、非財務KPIとは、いわばその目標を達成するための基礎となる体づくりや栄養管理、練習後の疲労ケアやメンタルケアといった要素と言えます。「走るという行為に必要な要素を細かく分解し、それぞれの目標をクリアしていった結果、目標タイムの達成につなげていくこと」、これを当社グループの活動に置き換えるのです。従業員エンゲージメントの向上や、Blue Value®・Rose Value®製品の売上収益比率、GHG排出削減量などのような非財務KPI目標達成に向けた活動が有機的に連携することで、足腰、すなわち事業基盤が強化され、初めてVISION 2030は実現し、利益目標の達成が可能になるということです。もちろん、個々のKPIに関しては、常に達成すべきビジョンと照らし合わせつつ、外部環境の変化も考慮の上、都度方向性を確認し、見直していくことも必要です。

従来は、利益目標達成可否の議論に終始していましたが、目標に向かうプロセスを明らかにする、いわば「経営を科学する」ことで、当社グループの成長をよりサステナブルな観点からも評価できるようになります。財務KPIが高いだけの「強い会社」ではなく、社会に貢献していくという私たちの存在意義を測る非財務KPIも達成できている「強い会社、いい会社」を目指しています。財務・非財務双方から経営をモニタリングしていくこと、それは、KPIの達成状況だけでなくその妥当性検討まで含めたトータルとして企業価値向上のために行う経営陣によるレビューです。環境対応や人権尊重はもちろんのこと、人材/組織や物流・品質マネジメント、調達など、各KPI達成の責を担う担当役員を定めています。新たにCSOおよびCHROといった役職を設置したのも、各部門の役割を明確化し、それぞれに責任を果たす意識を強化することが狙いです。このような体制を構築することによって、事業部門・機能部門を問わず、現場で働く社員一人ひとりを含めた当社グループ全体として、それぞれに課題意識を持ちながら、共通の目標に向かって進むことができると考えています。

三井化学グループの企業価値向上
三井化学グループの企業価値向上 図

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財務・非財務双方からの経営モニタリング
財務・非財務双方からの経営モニタリング 図

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VISION 2030戦略を通じた
ビジネスモデル変革

ビジネスモデルを変革し、新たな価値を生み出す。

VISION 2030で掲げた1番目の基本戦略、事業ポートフォリオ変革の追求は、VISION 2025から継続する最重要戦略です。この具体化のための基本戦略、ソリューション型ビジネスモデルの構築では、私たちのビジネスの付加価値をいかに高めていくかがポイントとなります。単に素材を提供するだけでなく、社会課題を捉えてその解決に貢献するアイデアやビジネスモデルも併せて提供していこうというものです。そのためには他社、アカデミア、自治体等の外部の皆様とも積極的に連携していきます。事例の一つとして、2022年1月に(株)セブン-イレブン・ジャパンのコンビニエンスストア店舗で実証実験を開始した空中ディスプレイ型POSレジが挙げられます。(株)アスカネットをはじめ5社との共同開発による、省スペース化やコロナ禍における非接触ニーズに応えるソリューションです。当社グループ製品としてはこのディスプレイに使用する接着剤ですが、共同開発の企画・マネジメントや技術サポートも行っています。また、別の事例としては、歯科材料ビジネスが挙げられます。ここでは、歯科用3Dプリンターの提供とともに、多様な用途に対応したインクのラインナップを展開しています。プリンター専業メーカーにはない歯科臨床知見を活かしたソリューション提案を行う、ソフトとハードの複合的なビジネスを実現しています。こうしたソリューション型ビジネスモデルの構築はまだ緒に就いたばかりで成功も失敗もありますが、積み重ねが重要だと思っています。今後、現場の社員が柔軟な発想を持ち、チャレンジを繰り返しながら様々なアプローチを試みることで、変革を推進してほしいと考えています。

もう一つの基本戦略、サーキュラーエコノミーへの対応強化もまた、ビジネスモデル変革を進めるものです。今般、ベーシック&グリーン・マテリアルズ事業本部内にグリーンケミカル事業推進室を設けたことは、サーキュラーエコノミー型ビジネスモデルの構築のさらなる加速を企図しています。私は、環境に配慮した取り組みを展開することは、化学企業の責務であると同時に、当社グループの変化と将来の成長につながる大きな機会とみています。例えば、現在進めているバイオマスナフサへの原料転換は、化学製品のバリューチェーン上流の原料をバイオマス化することであり、下流にある誘導品が新たな付加価値を持つことを意味します。これは、ナフサクラッカーを保有し、誘導品製造まで一貫したバリューチェーンを有する当社グループのアドバンテージ、ビジネスチャンスと捉え、社会課題解決に貢献する新しい取り組みに活かしていくつもりです。

一方で、2050年カーボンニュートラルに向けた様々な取り組みを進めています。当社グループの製造におけるCO2排出量のうち、7、8割程度は現行の技術やリソースの活用により削減する見込みですが、それ以上の削減には新しい技術の開発が不可欠とみています。そこで新たに九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所と協力し、三井化学カーボンニュートラル研究センターを設立し、技術開発加速と早期社会実装を推進しています。また、グリーンイノベーション基金を活用したナフサ分解炉の燃料転換技術の開発にも着手し、アンモニア専焼炉の社会実装を通じた石油化学業界全体のCO2削減への貢献を目指しています。

また、製品/サービスを通じたバリューチェーン全体のCO2排出量削減に貢献することも、化学企業の重要な役割と捉え、マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル技術の確立や社会実装に向けて他社とも連携しています。

当社グループ独自の取り組みであるBlue Value®・Rose Value®は、社会課題の解決に視点を置いた「ソリューション型ビジネス」や「サーキュラーエコノミー型ビジネス」といったビジネスモデル変革の推進とも整合しています。製品のライフサイクル全体を通じたCO2排出量削減など環境負荷の低減に貢献するBlue Value®製品・サービス、健康とくらし・住みよいまち・食の安心といった観点からQOL(quality of life)の向上に貢献するRose Value®製品・サービスは、当社グループが目指す未来社会に向けて提供したいと考えるソリューションそのものです。VISION 2030の非財務KPIとして、これら製品の売上収益比率40%を目指し、その実現に向けた事業本部のKPIも設定して拡大を推進しています。現状、認定製品の約8割が収益性の高い成長領域に位置づけられています。技術開発や製品設計の段階からBlue Value®・Rose Value®の観点を意識した新事業・新製品開発を行っていくことにより、その結果は今後の利益貢献としても表れてくると考えています。

変革を生み出す企業文化へ

変革を後押しするための基盤づくりを進めていく。

変革の推進には企業文化の醸成が不可欠ですが、「企業文化を変えましょう」と大上段に構えたところで変わるものではありません。先ほど述べたようにVISION 2030実現に向けて財務・非財務の両面から取り組む過程で、社員一人ひとりが課題を自分ごととして捉え、考え方が変わり、行動が変わり、結果として文化が変わっていくということが本来あるべき形であると考えています。そのために、しっかりとビジョンを共有し、進捗をモニタリングしていくことが重要です。

その一方で、変革には、何よりも社員一人ひとりの柔軟な発想と失敗を恐れずチャレンジする意識が求められますから、会社がそれをサポートする仕組みも必要です。2020年8月に服装の自由化に踏み切ったことに加え、より専門性の高い人材が、外部も含めて幅広いネットワークの中で経験を積み、視野の拡大や能力開発を行う中で得た知見を当社グループの仕事に還元してくれることを期待し、2021年1月に「副業従事要領」を制定しました。2022年度からは、よりチャレンジングな取り組みを評価し、失敗したとしてもしっかりと課題を踏まえてトライ&エラーができるよう新たな評価制度を開始しました。また、リモートワークなどの働き方の変容に応じたIT基盤整備やオフィスレイアウトの検討、それに伴う本社移転準備も現在進めているところです。こうした複合的な施策の積み重ねによって、社員のマインドセットが変化し、VISION 2030基本戦略の実行がさらに加速することを期待しています。

当社グループでは、2018年から従業員エンゲージメント調査を定期的に行っており、このスコアの向上も非財務KPIの一つに位置づけています。アメリカの政治哲学分野で名高い学者であるジョン・ロールズが著書の中で、社会における重要な原理として「機会均等原理」と「平等な自由への権利」を挙げていますが、会社においても同様で、社員は「成長機会が公平であること」、「自由に発想し自由に行動できること」を会社に求めていると私は思っています。これらを意識し、引き続き様々な施策を打ち出していきます。

人材関連のKPIとしては、戦略重要ポジションにおける後継者候補準備率も設定しています。重要ポジションに不可欠な素質は多岐にわたりますが、あえて一つに絞るならば、「無私の精神」です。自我にとらわれないことで初めて、自由で多面的な発想が自然に生まれる雰囲気や、社員が対等で公平な機会が生み出されるといった企業文化を実現できるのではないでしょうか。これを最低限の素質として、それぞれの時代・事業環境に合った能力を持った人物が、経営者候補としてふさわしいと考えています。

経営という視点において、基盤となるコーポレート・ガバナンスも重要です。私たちは、多様なステークホルダーに対し透明性・公平性をしっかりと担保することで、公の器としての企業の説明責任を果たしていかねばなりません。これまでも当社は、より実効性の高いガバナンスを目指して改革を続けてきましたが、今後は役員報酬へのVISION 2030の非財務KPIに則した指標の導入なども含め、さらなるブラッシュアップを図っていきます。

働き方改革PhaseII 図

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VISION 2030実現の先を見据えて

あらゆるステークホルダーとの良好な関係性こそが、持続可能な成長につながる。

企業価値向上という意味において、社会と当社グループのサステナビリティをいかに担保していくかが重要と考えています。

私は、会社とそこで働く社員はどちらが上ではなく、対等な立場であるべきと考えています。社員にとって会社は、「生活の糧を得る場であると同時に自身が成長できる場」であり、会社と社員は、「社員一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮し利益が最大化することで、それを社員に還元することができる」という関係にあります。互いの相乗効果をもって成長していくことが理想です。

社会と企業の関係も同様であると私は思います。企業は、社会課題解決に貢献しながらしっかりと収益を上げる、これを成し遂げて初めて成立するものです。財務と非財務を統合した経営の中でも説明しましたが、それを叶えるためには、ステークホルダーの一員である社員が生き生きと働ける環境を整備すること、そして、当社グループの事業活動を通じてあらゆるステークホルダーに価値を提供し続けること、その両方が社会課題の解決につながり、結果として、企業価値の向上、そして社会と企業の持続可能な成長につながると考えています。

今後も、様々な変革を遂行し、VISION 2030のあるべき企業グループ像と目指す未来社会の実現を目指していきます。