プラスチックと温暖化ガス排出量削減
プラスチックは使用時においては軽量化によるエネルギー削減や食品の品質保持による食品ロス削減、衛生性の確保など環境や安全に貢献する有益な素材ですが、石油を原料として製造されるため、焼却時に温暖化ガス(GHG)を排出するという課題があります。
プラスチックの原料となるナフサは、日本国内でみると輸入原油の3%を占めており、そこから製造されるプラスチック製品はおよそ1,050万トン、年間に廃棄される量はおよそ850万トン(2019年)で、その85%はリサイクル(マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクル)されていますが、60%を占めるサーマルリサイクルに分類されるエネルギー回収ではGHG排出が伴うことになってしまいます。
廃プラスチック焼却におけるGHGを削減するには、焼却してもGHGを排出しないバイオマス原料から作られるバイオマスプラスチックの利用拡大が切り札となります。しかしバイオマスプラスチックの生産量は、世界で生産されるすべてのプラスチックの1%に満たず、生産・利用の拡大が最大の課題となっています。日本でも2019年に策定された「プラスチック資源循環戦略」においてバイオマスプラスチックの導入量を2030年までに200万トンに拡大することが国家目標として掲げられています。現在は、バイオマスプラ、生分解性プラを合わせて5万t程度ですので、とても高い目標です。
プラスチックごみ問題
国境を越えた廃棄物の移動による環境汚染を防止するための国際条約「バーゼル条約」において、2019年にリサイクルに適さないプラスチック廃棄物を規制対象物に追加する改正が行われ、2021年から発効することになりました。中国では2016年には全世界から735万トンの廃プラスチック輸入を行っていましたが、バーゼル条約改定に合わせて2017年から段階的に禁止され、2018年末には輸入がほとんどゼロになりました。この結果、世界で輸出される廃プラスチックの50%近くにあたる700万トンを超える廃プラスチックの引き取り手がなくなり、廃プラスチックを中国へ輸出していた各国が自前で処理しなければならなくなりました。
また輸入を禁止した当の中国では、国内発生分と輸入分を合わせて1,800万トンの廃プラスチックを再生する4万社を超えるリサイクル事業者が壊滅的な打撃を受け、大手事業者は生き残りをかけて国外に進出し、進出先で異物や残渣を除去して再生ペレットへの加工を行い、再生原料として中国へ輸出する戦略をとりました。回収PETボトルなどの異物の少ない良質な原料が得られる日本へも、再生事業者の進出が進んでいます。このような廃プラスチックの国際流通における急激な変革が、近年のプラスチックごみ問題の背景にあります。
プラスチックごみ問題の解決には、各国が国内での廃プラスチック処理を徹底することや、再生プラスチックの利用を増やすこと、そもそものプラスチックごみの発生量を抑制することなどが求められます。
海洋プラスチックごみ問題
ASEAN諸国やインド、中国などでは、経済発展によってプラスチックの利用が急激に増加する一方で、日本や欧米先進国のような廃棄物の公共回収システムが整備されていないため、家庭ごみの河川への投棄や、野積みされた廃棄物が河川に流出するなどの原因で、海洋プラスチックごみ問題が日常的に発生しています。また回収システムが発達した欧米でも、ストローやプラスチックカップなど使い捨てプラスチックのポイ捨てに加え、コンタクトレンズ、綿棒、化粧品(に含まれるマイクロビーズ)などがトイレや洗面台に流され、これらが下水を経由して海に流出する海洋プラスチックごみが発生しています。日本では下水処理場でろ過沈殿処理されるため、下水を経由した流出は多くありませんが、屋外でのポイ捨てや、ごみステーションで散乱したごみの流出などによって、同様の問題が発生しています。また先進国、途上国を問わず、船舶からのごみの海洋投棄や遺棄された漁網や浮きなどの漁具も、海洋プラスチックごみの原因となっています。
ひとたび海洋に流出したプラスチックごみは回収が難しく、またプラスチックが劣化しにくい素材であるため、長期にわたって海洋を漂います。海洋プラスチックごみは、ウミガメやクジラに餌と間違えて捕食されるなど、海洋生物への影響が懸念されるほか、海流に乗って遠くの沿岸に漂着し、他所で発生したごみの処理を漂着した地域が強いられる「海岸ごみ」問題を引き起こしています。
こうした海洋プラスチックごみ問題の解決には、適切な回収システムの構築によって環境への流出を抑制することに加え、流出してしまったごみを回収する地道な清掃活動が必要です。回収に関しては日本でも様々なNPOが街路、海岸、河川のごみを回収する清掃ボランティア活動に取り組んでいますが、根本的な解決には至っていません
海洋プラスチック問題について、詳しくは「海洋プラスチック問題の原因とは?ごみ問題の背景と環境への影響」をご覧ください。
マイクロプラスチック問題
化粧品や洗顔料に使われるマイクロビーズ、紫外線や風波で劣化・微細化した5mm以下のプラスチックごみを総称してマイクロプラスチックと言います。服の洗濯から出るマイクロファイバーやクルマなどのタイヤから発生するカス、靴底など身近なところにも発生源があります。マイクロプラスチックにはPCBなど油性の有害物質を吸着する働きがあることから、沿岸の有害物質を遠くの離島へ拡散する作用があると言われ、将来的な環境への影響が懸念されています。
マイクロプラスチックそのものは生物に対して害がなく、捕食されても消化されずにそのまま排出されるだけですが、実験室において濃度を高めて行われた実験では、一部のプラスチックに含まれる可塑剤などの成分が生物濃縮を起こす可能性も指摘されています。一方でマイクロプラスチックの濃度は日本近海でも海水1立方メートルあたり数粒に過ぎず、自然界における生物濃縮のリスクは低いとする研究者も多く、その影響については科学的なデータの収集と分析が待たれます。