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【セミナー開催レポート】「世界におけるプラスチック規制の動向~脱プラ社会に求められる企業行動と生活者ニーズ~」
「世界におけるプラスチック規制の動向~脱プラ社会に求められる企業行動と生活者ニーズ~」と題したセミナーを、三井化学株式会社・株式会社メンバーズ・ハーチ株式会社による3社で共催しました。2023年11月13日から19日にかけて、ケニア・ナイロビで行われたプラスチック汚染対策の国際条約の制定に向けた3回目の政府間交渉(INC-3)の議論内容に加え、EU、米国、日本のプラスチック規制の動向を共有しながら、サステナブル経営を推進する上で参考になる海外の最新トレンドなどを提供しました。以下、開催したセミナーの内容を概略レポートとしてご紹介します。
法規制で義務化が進むプラスチックのリサイクル
~三井化学が提案するリサイクルソリューションとは~
最初のパートでは、三井化学 グリーンケミカル事業推進室のビジネス・ディベロップメントグループリーダーである松永より「三井化学が進めるプラスチックのバイオマス化・リサイクルの取り組み」と題し、グリーンケミカル関連の各種ソリューションを紹介しました。2023年11月16日に開催した前回のセミナー(リンク)では、カーボンニュートラルに貢献する「バイオマスソリューション」に焦点を当てましたが、今回は各国のプラスチック規制とより関連性が高い「リサイクルソリューション」に重点を置いた説明を行いました。
現在、様々な業種でプラスチックのリサイクルが推進されていますが、実際の取り組みの中では「複合素材だからリサイクルが難しい」「異素材は混ざらないからリサイクルが難しい」「最適なリサイクル手法の選択が難しい」といった声も多くあります。
その中で、複合素材の課題に対しては、各種製品の特性を見極めながらリサイクルし易い製品設計を行っていく必要があり、製品の材料を単一素材で構成するモノマテリアル設計も重要な選択肢の一つになります。ただ、モノマテリアル化する上では、単一素材でいかに製品に求められる機能を付与できるかが焦点になります。例えば、レトルト包材をモノマテリアル化する際、バリア性と耐熱性、シール性を両立させた材料選定が課題になります。それに対し、三井化学ではそれらを両立したフィルムと水系ガスバリアコーティング剤の組み合せを開発し、製品のモノマテリアル化を推進するソリューションを提供していることなどを紹介しました。
また「異素材は混ざらない」という課題については、三井化学グループが有する相容化材や改質剤の豊富なラインアップを活用し、素材の組み合わせに応じてリサイクル材の品質向上に貢献できるソリューションを、リサイクル手法についてはマテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの直近の展開について説明しました。
マテリアルリサイクルでは、「廃プラの最適なリサイクル処理プロセスを少量から実証する設備がない」といった課題に対し、回収品に合わせて少量から最適なリサイクルプロセスを実証できるオープンラボを開設したことや、リサイクルが難しいとされる代表的な製品であるベッドマットレスをケミカルリサイクルにより〝マットレス to マットレス〟にする取り組みをスタートさせたことなども共有し、リサイクルソリューションの可能性を示しました。
こうしたリサイクルソリューションの最新情報に加え、サステナブル(持続可能性)を超えたリジェネラティブ(再生的)な社会の実現に向け、サーキュラーエコノミーに貢献するリサイクルソリューションと、カーボンニュートラルに貢献するバイオマスソリューションを組み合わせながら「バイオサーキュラーな世界をつくる」という三井化学のグリーンケミカルのコンセプト設計も紹介しました。
プラスチック汚染削減のための対応策は、世界一律であるべきか
~産油国やプラスチック生産国は、各国ごとのルール整備を希望~
続いて、公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)の辰野氏から「国際条約の検討・規制の動きを把握しプラスチック問題を知る」と題して、前半パートではINC-3の議論内容が共有されました。
プラスチック汚染対策の国際条約の制定に向けた政府間交渉の3回目にあたるINC-3。ここではINC-1とINC-2で各国から出された意見をもとに作成された、条約の草案(Zero Draft)をベースにINC-3での議論が行われました。Zero Draftは以下のパートⅠ~Ⅵと附属書で構成されており、今回のセミナーでは実質的な議論の的となるパートⅠとパートⅡの内容について解説されました。
<INC 条約の草案(Zero Draft)構成>
パートⅠ:条約の目的、原則、前文、用語の定義(例 Full Lifecycle of plastic)
パートⅡ:プラスチック汚染を削減するために取り得る対応策
パートⅢ:実施措置:ファイナンス、キャパビル、技術支援・移転
パートⅣ:実施措置:国家計画、コンプライアンス、レポーティング、モニタリング、評価
パートⅤ:体制
パートⅥ:最終条項
附属書
このZero DraftのパートⅡでは、プラスチック汚染を削減するために取り得る対応策が13項目示されていますが、それぞれの項目には「世界一律で目標を設定し、それが等しく加盟国に適用されるもの」と「各国の状況に合わせて目標や対応方法を個別に定め、自国の国家計画に盛り込むもの」といった2種類の選択肢が挙げられています。各項目でバリエーションは異なりますが、大きく分けるとこの2種類の選択肢が示されています。
「プラスチックの廃棄物を適切に管理する」ことの重要性は共通理解がある一方で、上流の製造や生産の規制やルールに関しては国益にも関わるため、各国間で意見の相違がある状況です。プラスチックの生産拠点が自国内にあまり無く、廃棄物管理体制が整っていない地域(代表的なところではアフリカ、南米、島嶼国)では世界一律のルールを希望。EUも同意見であるものの、一次プラスチックポリマーの生産制限については国別のオプションが好ましいという意志表示も見られています。一方、中東やロシア、中国や南アジアといった産油国やプラスチック生産国は、各国ごとのルール整備を希望しています。これらの国々は、この条約はあくまでもプラスチック汚染を食い止めることが目的であり、プラスチックの製造を規制することは条約の目的から逸脱していると主張としています。
こうした中、日本政府はINC-3で「2040年までの追加的汚染をゼロにする野心を盛り込むべき」と主張しており、汚染防止に向け廃棄物管理など下流領域での取り組みを重点的に進めていく必要があるとの考えを示しています。一方、一次プラスチックの生産制限については「各国の状況を踏まえつつ対応していくべき」とし、生産制限については慎重な立場を取っています。
結果的には、INC-3では活発な議論はあったものの、2024年4月開催のINC-4までに行うべき会期間作業(次回会合の検討材料になるような情報収集や審議)を確定することができず、実質的な進展は見られませんでした。
戦略的に体系立てた政策や規制でルールメイキングを進めるEU
連邦・州・地方自治体それぞれが規制を定め複雑化するアメリカ
辰野氏のパートの後半では、EU、米国、日本のプラスチック政策や規制に関する最新情報も共有されました。
EUは「欧州経済の停滞」「地政学的リスク」「気候変動」といった危機に直面する中で、経済政策、産業政策、環境政策をうまく統合しながら前述の3つの危機を同時に解決し、EUを強化しようとしています。こうした動きが反映されている代表的な政策が「欧州グリーン・ディール」です。これは現在、欧州委員会で打ち出されている政策の中で最も優先度の高い政策に位置付けられます。EUは同政策の推進により、循環経済の観点から経済や産業の仕組みを根本から変革し、循環経済におけるルールメイキングを進めようとしています。
この「欧州グリーン・ディール」の重要な柱の一つとして、2020年に新循環経済行動計画が打ち出され、プラスチックに関しては「廃棄物の削減」「マイクロプラスチックの流出削減」「バイオマスプラスチック関連の政策枠組み」「各種製品に含まれるリサイクルプラスチックの含有量」などに関する取り組みを宣言しています。また、包装に関しては2030年までに全てを再利用またはリサイクルする目標が掲げられています。
こうした政策や行動計画がEUのどの法令に具体的に落としもまれているか、さらにEUにおけるプラスチック廃棄物に対してどのような税が課せられているかを解説し、EUでは政策や法令が戦略的に体系立てられていることが示されました。
さらに、製造元・使用材料・リサイクル性などの情報を記載したデジタルプロダクトパスポート(DPP)を、2030年にはほぼすべての製品に対して要求する「エコデザイン規則案」の審議が進められていることにも触れ、これらの今後の動向を注視していく必要性についても説かれました。
一方、アメリカのプラスチック規制で特徴的なのは、連邦政府とは別に、州が独自で法律を定めていることが挙げられます。また、「民主党と共和党のどちらを支持する州か」によって、傾向の違いもあります。共和党寄りの州では、ケミカルリサイクルや高度なリサイクル技術を導入し、リサイクルを奨励する法律が制定されているケースが多く、民主党寄りの州ではプラスチックの消費量削減に取り組む傾向にあります。また、州の規制を待たずに都市が独自の規制を設けることもあるため、アメリカの動きを知る上では、連邦、州、地方自治体の三層に渡る規制に目を向ける必要があることが共有されました。
ステナブル価値をどのように提供するか
~機能的価値だけでは売れない時代に~
セミナーの終盤では、登壇者に加え、デンマークのAalborg大学で客員研究員を務める青木教授、IDEAS FOR GOOD ハーチ欧州の富山・伊藤を交えたトークセッションを実施しました。
青木教授はマーケティングの観点から、「企業が戦略を考える際には、法的標準となる『De Jure Standard(デジュール スタンダード)』だけでなく、製品やサービスのシェアを得ることで獲得できる『De Facto Standard(デファクト スタンダード:事実上の標準)』、多くの企業における考え方の基本的な規範となる『De Spiritus Standard(デスピリタス スタンダード:精神的標準)』の各側面から外部環境を捉えながら、企業のパーパスを中心に据えて事業仕分けを行っていく必要がある」と述べました。その上で、「今回のテーマであるプラスチック規制というデジュール スタンダードに合わせて、各企業はまずそれに対応した機能を実装することになるが、機能を実装すれば売れるかと言えば、必ずしもそうではない」とし、「マーケティングの視点では、機能的価値(個人の心地よさ:MEの世界)、デザイン・情緒的価値(他者共感などの心地よさ:USの世界)、サステナブル価値(全てにおける心地よさ:all beingsの世界)の3つの条件が揃うことが重要であり、これらの価値を重層的に提供していかないと、社会実装につながらない」との考えを語りました。
これを受けて辰野氏は「企業の方とお話ししていても『需要があるか分からない、お客様が買ってくれるか分からない』という声はよく聞く。これまでの時代では便利さや快適さを重視していけば良かったが、そこにサステナブル価値が加わると、顧客や消費者自身も自分が欲しているものをまだ明確に言語化できていないところもある。そのため、『こういった製品やサービスはいいでしょう?』と企業側から独創的に打ち出す姿勢も必要では」との見解を示しました。
最後に(アーカイブ動画のご紹介)
2023年11月のセミナーに続き、今回のセミナーも先着1,000名の申込み枠がすべて埋まり、大変多くの方々にご参加いただきました。また、前回同様、質疑応答のパートでは、延べ60件以上の質問が寄せられました。
今回のセミナーの内容は、動画コンテンツとしても提供しています。
ぜひ、こちらからご視聴ください。
https://www.youtube.com/watch?v=oMdNgUEyZ7w
また、IGES 辰野氏の今回のセミナーで使用した資料や、前回のセミナーでご紹介したバイオマスプラスチック採用の欧州先進事例集はこちらからダウンロード可能です。
併せてご覧ください。
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/
これからもプラスチックをテーマにさまざまな情報を発信します。
私たちの取り組みにご期待ください。
- 参考資料
- *1:リジェネラティブな社会に向けて行動する「RePLAYER®」「BePLAYER®」:
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm - *2:IDEAS FOR GOOD:
https://ideasforgood.jp/ - *3:メンバーズ:
https://www.members.co.jp/