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プラスチック資源の循環戦略

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日本政府は気候変動問題、プラスチックごみ問題、諸外国の廃棄物輸入規制強化に対応すべく、国家戦略としてプラスチック資源の循環を推進しています。今回は、この戦略の軸となるプラスチック資源循環戦略をはじめ、そこで掲げられている政府の目標、事業者への影響、環境に対する意義などについて解説します。

プラスチック資源戦略とは

現在、日本政府はプラスチック資源の循環を国家戦略として推進しています。その軸となるのが、2019年5月に策定された「プラスチック資源循環戦略」です。これは第4次循環型社会形成推進基本法に基づいたもので、「3R(リデュース、リユース、リサイクル)+Renewable(再生可能)の基本原則」と「6つの野心的なマイルストーン」などが目指すべき方向性として掲げられています。

2010年代後半に入り、温室効果ガス排出による地球温暖化問題や、海洋プラスチックをはじめとしたプラスチックごみ問題など、プラスチックを取り巻く社会課題への意識が世界的に高まりました。プラスチックごみ問題に関し、日本では当時から国内で廃プラスチックを適正処理し、またリデュース、リユース、リサイクルの3Rを率先して推進していましたが、ワンウェイの容器包装廃棄量(一人当たり)が世界で二番目に多い*ことや、未利用の廃プラスチックが一定量あること、さらに中国**などアジア各国でプラスチックごみの輸入規制がしかれる中で、これまで日本から輸出していた分の廃プラスチックの適正処理に関する課題にも直面していました。
*出典)環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況<参考資料集>P.10https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-05/s1.pdf
**:世界の廃プラスチックの半分を受け入れていた中国が2017年に環境及び人の健康保全を目的に「廃プラスチックを含む廃棄物原料の
輸入禁
  止を決めたことで、廃プラスチック問題が一気に浮上したという側面もあります。

      国・地域別の1人あたりのプラスチック容器包装廃棄量(2014年)
国・地域別の1人あたりのプラスチック容器包装廃棄量(2014年)
引用:国連環境計画「
Single-Use Plastics: A Roadmap for Sustainability

こうした中で、日本政府はプラスチックの資源循環を総合的に推進することを目的に、2019年に「プラスチック資源循環戦略」を策定。「3R + Renewable」を基本原則に掲げ、以下のようなマイルストーンを設定しました。

<リデュース>
 ・2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制
<リユース・リサイクル>
 ・2025年までにリユース・リサイクル可能なデザインに
 ・2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクル
 ・2035年までに使用済プラスチックを100%リユース・リサイクル等により有効利用
<再生利用・バイオマスプラスチック>
 ・2030年までに再生利用を倍増
 ・2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入

この「プラスチック資源循環戦略」がベースとなり、2020年7月にはスーパーマーケットなどで配られるレジ袋が有料化され、さらに2022年4月の「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(プラスチック資源循環促進法)の施行につながっていきます。

プラスチック資源循環促進法の施行

2022年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法は、プラスチック使用製品の設計からプラスチック使用製品廃棄物の処理まで、プラスチックのライフサイクルに関わるあらゆる主体におけるプラスチックの資源循環の取り組みを促進するための措置を盛り込んだ法律です。また、この法律では、プラスチックの資源循環を促進するため、下図のような制度も設けられています。

             プラスチック資源循環促進法の制度
プラスチック資源循環促進法の制度

引用:環境省 「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律 :制度詳細」

プラスチック使用製品設計指針と認定制度
プラスチック資源循環促進法の制度のひとつとして、プラスチック使用製品の設計する際に、プラスチック使用製品製造事業者等が取り組むべき事項や配慮すべき事項を定めた「プラスチック使用製品設計指針」と、同指針に則した製品の設計のうち、特に優れた設計を主務大臣が認定する制度があります。これにより、プラスチック使用製品の設計段階(試作・製造の前段階を含む)から「3R Renewable」を前提とした取り組みの促進を目指しています。また、前述の認定を受けた設計に基づき製造されたプラスチック使用製品(以下、認定プラスチック使用製品)については、国がグリーン購入法上の配慮やリサイクル設備の支援等を行うことにより、認定プラスチック使用製品の利用を促していく方針を掲げています。

なお、プラスチック使用製品設計指針では、「構造」「材料」「製品のライフサイクル評価」「情報発信及び体制の整備」「関係者との連携」「製品分野ごとの設計の標準化並びに設計のガイドライン等の策定及び遵守」といった6項目において、プラスチック使用製品製造事業者等が取り組むべき事項や配慮すべき事項が定められています。

その中で、「構造」については、①減量化、②包装の簡素化、③長期使用化・長寿命化、④再使用が容易な部品の使用又は部品の再使用、⑤単一素材化等、⑥分解・分別の容易化、⑦収集・運搬の容易化、⑧破砕・焼却の容易化、といった様々な側面からの設計指針が示されています。

また、「材料」においては、①プラスチック以外の素材への代替、②再生利用が容易な材料の使用、③再生プラスチックの利用、④バイオマスプラスチックの利用、といった指針が示されており、適材適所を見極めながら再生利用しやすい材料を選定するのと同時に、プラスチックを使用する場合は再生プラスチックやバイオマスプラスチックを積極的に活用していくことを促しています。


プラスチック使用製品の自主回収・再資源化事業計画認定
また、この法律では、プラスチック使用製品の製造・販売業者が、積極的に使用済みになった自社製品を回収、リサイクルが図れるようにする「自主回収・再資源化事業計画認定」の制度も設けられています。

この制度はプラスチック使用製品の製造・販売事業者が「自主回収・再資源化事業計画」を作成し、国の認定を受けることで、廃棄物処理法に基づく業の許可が不要になるものです。これにより、複数の自治体の区域にまたがって自主回収・再資源化事業を行うような場合であっても、自治体ごとに許可を受けることなく、使用済みプラスチック製品の自主回収・再資源化が可能になります。このように、プラスチック資源の循環が行いやすい制度も整備されつつあり、こうした仕組みを積極的に活用しながら、サーキュラーエコノミー社会への移行を加速させていくことが重要になっています。

prastic-circulation-low引用:自主回収・再資源化事業のスキーム「プラスチック資源循環促進法第39条第1項」|環境省

事業者、消費者、自治体、国に求められるそれぞれの役割

また、プラスチック資源循環促進法では、プラスチック使用製品の製造・販売を行う事業者をはじめ、消費者、自治体、国など、プラスチックのライフサイクル全体において関わりのある全ての主体(PLAYER)にそれぞれの役割を求めています。

<事業者の役割>
 1.同法が定める設計指針に則してプラスチック使用製品を設計する
 2.プラスチック使用製品の使用を合理化するために業種や業態に応じて有効な取り組み 
    を選択し、廃棄物の排出を抑制する
 3.自ら製造・販売したプラスチック使用製品の自主回収・再資源化を率先して行う
 4.排出事業者としてプラスチック使用製品産業廃棄物などの排出抑制・再資源化の実施
        に努めること

<消費者の役割>
 1.プラスチック使用製品の使用の合理化により廃棄物の排出を抑制する
 2.事業者及び市町村双方の回収ルートに適した分別排出を行う
 3.認定プラスチック使用製品*を使用するように努める  
   *「プラスチック使用製品設計指針」に則した製品設計のうち、主務大臣が特に優れた設計だと認定したプラスチック使用製品

<市町村の役割>
 家庭から排出されるプラスチック使用製品の分別収集・再商品化、その他の国の施策に
 準じてプラスチックに係る資源循環の促進等に必要な措置を講じるように努める

<都道府県の役割>
 市町村が前述の責務を十分に果たすために必要な技術的援助、その他の国の施策に準じ
 てプラスチックに係る資源循環の促進等に必要な措置を講じるように努める

<国の役割>
 プラスチックに係る資源循環の促進等を図るため、必要な資金の確保、整理及び活用、
 研究開発の推進及びその成果の普及、教育活動及び広報活動等を通じた国民の理解醸成
 と協力の要請等の措置を講じるように努める

廃プラスチックの排出抑制や資源循環に取り組むには、このようにプラスチック使用製品の設計からリサイクルまでのライフサイクル全般に関わる全てのPLAYERが連携し、目指す未来に向けてベクトルを合わせて実行していくことが重要です。また、事業者は商品を生み出す起点になるため、リサイクルを前提としたエコデザインの導入をはじめ、再生プラスチックやバイオマスプラスチックの有効活用などを積極的に進め、資源循環のサイクルを力強く回すエンジンとしての役割を担うことも期待されています。

プラスチック資源循環促進法については「プラスチック資源循環に向けた法律 #01「プラスチック新法」による新しい一歩」で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。

また、廃プラスチックリサイクルの必要性については「廃プラスチックのリサイクルはなぜ必要なのか?その理由やリサイクル方法、課題を解説」をご覧ください。

三井化学は循環型社会の実現に向けた取り組みを進めています

三井化学は廃プラスチックなどの廃棄物を資源と捉え、その資源を再利用していく「RePLAYER®という取り組みを通じ、サーキュラーエコノミー社会の実現を目指しています。

廃プラスチックのリサイクルには様々な手法がありますが、三井化学ではリユースに次いで環境負荷が低いマテリアルリサイクル(メカニカルリサイクル)に加え、廃プラスチックを化学的・熱的に処理・分解して再利用するケミカルリサイクルの展開も20244月から開始しています。マテリアルリサイクルでは処理が難しい廃プラスチックも活用できることに加え、これまで品質や衛生面からリサイクル品を使用することが困難であった用途においてもリサイクル由来の素材を適用することが可能になります。

※ケミカルリサイクルの取り組みについては、「三井化学がケミカルリサイクルを事業化。花王と共に創造力で廃棄を減らす〝リサイクリエーション〟が鍵に」で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。

三井化学では、こうしたリサイクル手法を上手く使い分けながら、プラスチックのリサイクル率の向上を図り、循環経済の輪をより大きく、太くしていきたいと考えています。

また、リサイクルだけではカバーしきれない地球温暖化問題の解決に向け、社会のバイオマス化を推進する「BePLAYER®」という取り組みも展開しています。

最初の製品製造においては温室効果ガスの削減効果が高いバイオマスプラスチックを活用し、使用後の廃プラスチックはリサイクルして資源を循環させる。このようなバイオサーキュラーな世界にしていくことが、サステナブル(持続可能性)を超えたリジェネラティブ(再生的)な社会の実現につながると三井化学は考え、その実現に向けた挑戦を進めています。

サーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルへの対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。リジェネラティブ(再生的)な社会に向けて行動する「RePLAYER®」「BePLAYER®」はこちら

 


<公開資料:カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー関連>
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/ 

 

参考資料
*1:プラスチック資源循環戦略の策定について|環境省:
https://www.env.go.jp/press/106866.html
*2:プラスチック使用製品設計指針|内閣府:
https://plastic-circulation.env.go.jp/wp-content/themes/plastic/assets/pdf/kokuji_002.pdf

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