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時代に応じて進化するエコマーク。いち早く「マスバランス方式によるバイオマスプラ」を認定した理由とは
1989年の誕生以来、今やおなじみのエコマークは、資源循環や地球温暖化などの領域において、ライフサイクル全体で環境負荷が少ないと認められた製品やサービスを認定対象としています。時代の要請に応じて制度の改編も進めており、2023年2月には国内の環境ラベル制度では初めてマスバランス方式による「バイオマス由来特性を割り当てたプラスチックを使用した容器包装」の認定を開始しています。エコマーク事業の概要やバイオマスプラスチックに関する新しい認定制度などに関して、公益財団法人 日本環境協会エコマーク事務局の大澤さんにインタビューを実施しました。
話し手 大澤 亮(おおさわ りょう) |
製品ライフサイクル全体で環境負荷が少ない製品やサービスが認定対象
出典:エコマーク事務局Webサイトより
まずは、日本環境協会エコマーク事務局としての事業内容や取り組みについて教えていただけますか。
皆さん一度は目にしたことがあるかと思いますが、エコマークは「私たちの手で地球を、環境を守ろう」という願いを込めて、「環境(Environment)」および「地球」(Earth)の頭文字「e」を表した人間の手が、地球をやさしく包み込んでいる姿をデザインしたものです。このエコマークを環境配慮型商品に付けることで、持続可能な社会の形成に向けて事業者や消費者の行動を誘導していくことを目指しています。エコマークは、国際規格ISO14024に基づく、日本で唯一のタイプⅠ環境ラベル制度です。
その特徴は、第三者認証制度であることと、製品のライフサイクル全体を考慮して基準を作っていることです。資源の獲得、製造、流通、使用、リサイクル、廃棄といった一連の製品ライフサイクルがありますが、たとえば省エネ性能に優れている商品であっても、製造時に大きな負荷がかかるといったことがあっては望ましくありません。そのため、ライフサイクルを総合的に見て環境負荷が少ない製品やサービスを認定しようという思いのもと、商品分野ごとにエコマークの基準を作って認証をしています。
エコマークが生まれた経緯について教えてください。
エコマークは1989年に開始しましたが、当時はゴミ問題やオゾン層の破壊が社会課題として取り上げられていました。そうした背景もあって、消費者の環境への関心を高めるために、当時の西ドイツが実施していたブルーエンジェル※などを参考にして誕生しました。当初は「特定フロンを使用しないスプレー製品」など7種類の品目を対象としてスタートしています。そして1990年代後半には、ISOの規格ができたことに伴い、エコマークの見直しを行って、現在のように製品のライフサイクル全体での評価や認証を行うものに変わっています。
※ブルーエンジェル:環境問題の解決を図ると同時に、環境保全型商品の開発や、販売を促進することを目的として、1978年にドイツで誕生した世界で最初の環境ラベル。現在はドイツ連邦共和国環境・自然保護・建設・原子力安全・消費者保護省(BMUV)が所有権を有している。2024年1月時点での認証保有事業者は1,600超、認証製品は30,000超。
エコマーク商品はかなり広がっているのではないでしょうか。
エコマークは現在、日用品や家庭用品、文具や繊維製品など74の商品分野を対象にしています。意外かもしれませんが、飲食店や小売店舗、ホテルといった分野も対象です。サービス分野を除くと、全エコマーク製品のうち71%が「資源循環(再生材料を使用した製品など)」に関連するもので、資源循環のうち65%を再生プラスチック製品が占めています。
認定商品数は約52,000、認定企業数は1,500社ほどで、市場規模は約4.7兆円にのぼります。小学校の社会科の副読本に掲載されたことなどをきっかけに、若年層にもよく知られており、認知度は80~90%となっています。
きっかけは事業者からの声。慎重な議論を経て新認定基準を開設
2023年2月には、エコマークの「飲食料品、化粧品、家庭用品などの容器包装Version1」認定基準において、「バイオマス由来特性を割り当てたプラスチック」を新たに追加する認定基準を制定されています。この認定基準を新設した理由について教えてください。
昨今、化石資源からプラスチックを製造する工程に、バイオマス原料由来の炭化水素類(バイオナフサなど)を混合し製造したプラスチックが市場に登場しました。このプラスチックは、製造時のバイオマス原料の投入量とプラスチック生産量をマスバランス方式と呼ばれる手法で管理しており、プラスチックにバイオマス由来特性を割り当てることを特徴としています。
日本でも2020年頃から商社や石油化学事業者を中心に製品化や製造が開始されており、今後も拡大する動きがあったため、エコマークの新認定基準として取り入れることにしました。そして2022年9月に「エコマーク認定基準における『バイオマス由来特性を割り当てたプラスチック』の取扱方針」を制定し、「飲食料品、化粧品、家庭用品などの容器包装Version1」認定基準に「バイオマス由来特性を割り当てたプラスチックを使用したプラスチック製容器包装」を新設して、2023年2月に認定を開始したのです。
このようなバイオマス由来特性を割り当てたプラスチックを使用した容器包装の認定開始は、国内の環境ラベル制度では初めてです。
出典:エコマーク事務局セミナー資料より
(資源循環に関連するエコマークの最近の動向2024年8月2日)
どのような流れで、この認定基準が定められたのですか。
実は、バイオマスプラスチックを対象とするかどうかの議論は、2006年頃から起こっていました。当時はバイオマス由来の生分解性プラの検討でしたが、CO2排出量削減などへの貢献は期待できても、ライフサイクル全体を通して環境負荷低減の効果があるのか確証がまだ得られていなかったため、見送りとなりました。
その後、2015年になると、バイオマス由来のポリエチレンやPETが市場に多く出回りました。われわれは毎年10月にエコマークが新たに対象とする商品分野について事業者から意見や提案を募集しており、それらを参考に検討をして対象品目の拡大を行っています。2015年頃からは「バイオマスプラスチックを対象としてほしい」という提案が増えてきました。
さらに同じ頃、調査を進めていたライフサイクルアセスメント(LCA)の結果からも、科学的にバイオマスプラスチックに環境負荷低減効果があることがわかったため、セグリゲーション方式(分離方式)のバイオマスプラスチックを対象とすることにしたのです。そして昨今、マスバランス方式のバイオマス割当プラスチックが出てきたことに伴い、2020年に改めて企業からも「対象としてほしい」と提案をいただいたことで、2023年よりバイオマス由来特性を割り当てたプラスチックも容器包装等で対象とすることになりました。
バイオマス由来特性を割り当てたプラスチックを使用した容器包装において、事業者がエコマークを申請する際にはISCC PLUS等のマスバランスに関する国際認証を取得している必要があるかと思います。この基準を設けたのはどうしてですか。
前提として、認証評価のポイントは大きく4つ置いています。1つ目がバイオマス由来特性の割当率(成型品:25%以上)とマスバランスの管理について。2つ目がサプライチェーンの持続可能性ということで、原料の調達時などにおける持続可能性をどう担保しているか。そして3つ目が環境負荷低減で、4つ目が商品への表示です。このうち、バイオマス由来特性の割当率やトレーサビリティについては、第三者の認証の取得または監査を必要としています。
現在エコマーク製品の認定企業の7割は中小企業が占めているため、事業者に負担を掛けない形でエコマークの制度設計を進めてきました。マスバランスにおいては、サプライチェーンを通じたトレーサビリティが重要ですが、手元まですべてのプロセスを追った上での認証取得は事業者に負担となってしまいます。かといって我々が全プロセスを追いかけて審査を行うことも現実的ではありません。ただ、現時点で明確な裏付けが無いままに申請を行えるようにしてしまっては、有用なマスバランス方式の社会的信用にも関わるため、社会的価値や意義のある取り組みであることを示すためにも現時点では第三者認証の取得という条件を設けています。
「環境にいい商品やサービス」を選ぶ際に役立ててもらえる存在に
新しい認証制度が始まって1年半ほどが経っていますが、現時点での実績や課題についてはいかがですか。
現在、「バイオマス由来特性を割り当てたプラスチックを使用したプラスチック製容器包装」の認定を取得した製品はまだ少なく、これからだと感じています。繊維製品などの分野にも対象を拡大していこうと議論を行っている最中ですが、毎年10月から提案募集の期間に入るため、そこで寄せられた意見をもとに対象分野の拡大検討を進めていきたいと思います。
エコマーク事務局で構想している今後の取り組みがあれば教えてください。
現在、ケミカルリサイクルによって作られた商品の認定基準を策定中です。マスバランス方式も考慮して、モノマー化、ガス化、油化などのケミカルリサイクルの手法によって、プラスチックなどの廃棄物を化学原料化するプラントと、そのリサイクル由来の化学製品を認定対象とする予定です。
基準策定後は、第2期でプラスチックなどの原料や中間製品を認定対象として、最終的には文具や容器包装、建築用品といった商品分野への認定基準の展開を考えています。マテリアルリサイクルに限らずケミカルリサイクル、セグリゲーションに限らずマスバランスと対象を広げていくことで、事業者にとっての選択肢を広げていければと思っています。
最後に、将来のカーボンニュートラル社会や循環経済の浸透に向けて、社会へのメッセージをお願いいたします。
「できるだけ環境にいいものを買いたい」という意向を持つ消費者は多いものの、まだまだ実際の購買の場面では、価格など別の判断基準をもとに購入商品を選択される方も多いかと思います。しかし、今年の夏の異常な暑さやゲリラ豪雨などの異常気象に直面して、「本格的に地球の気候が変わっているなかで、環境を考えた行動をしなければならない」という意識が国内でも広がっているのではないかと感じています。
われわれエコマーク事務局が、「カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに貢献するかどうか」という観点から客観性を持って認証を行うエコマークをさらに普及させることにより、消費者の方が「環境にいい商品やサービス」を選ぶ際に役立てていただける存在になれたらと思います。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルと目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」> |