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ライフサイクルアセスメント(LCA)とは?目的やメリットを簡単に解説
温暖化を食い止め、自然環境や生物多様性を守るためには、温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gas)排出量の削減はもちろん、ある製品やサービスが与える環境負荷をライフサイクル全体で把握するライフサイクルアセスメントと、それをもとにした対策が重要です。ライフサイクルアセスメントの基本やガイドライン、そしてライフサイクルアセスメントに取り組むメリットについて、ご紹介します。
ライフサイクルアセスメント(LCA)とは?
引用:環境省「再生可能エネルギー及び水素エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関するガイドライン」
ライフサイクルアセスメント(LCA)の意味や目的
ライフサイクルアセスメントとは、「製品やサービスの原料調達から製造、流通、使用、廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体で環境に与える影響を評価する手法」を指します。
日本をはじめ、各国が地球温暖化への取り組みとして2050年に向けてカーボンニュートラルの実現を目指しています。企業が再生可能エネルギーの利活用を行い、リサイクルやリユース、リニューアブル(再生可能)な資源への切り替えなどに取り組む中、こうした施策が本当に環境負荷低減につながっているのか、科学的に把握する上で必要となるのがライフサイクルアセスメントという評価手法です。
では、なぜライフサイクルアセスメントが必要なのでしょうか。
例えば、ある製品を作る際、再生可能エネルギーを導入するとしましょう。製造段階で再生可能エネルギーを導入することで、製造過程の二酸化炭素(CO₂)排出量は削減できるかもしれません。しかし、原料調達や使用、廃棄などの過程では、環境に高い負荷をかけている可能性もあります。
また、ある製品で再生可能な資源やリサイクル資源を使っていても、製造過程で大量の水を使用し、環境に高い負荷をかけているということもあるでしょう。
こうしたことから、温室効果ガスの削減量など、一部の環境負荷だけを見るのではなく、その製品やサービス、システムのライフサイクル全体で環境に与える影響を考慮する必要があるのです。
環境に与える影響を算定・表示するものとしてカーボンフットプリント(CFP: Carbon Footprint of Product)がありますが、カーボンフットプリントは温室効果ガスの排出量(CO₂換算)を算定するものです。一方、ライフサイクルアセスメントは温室効果ガスだけでなく、水の消費量や排水量、廃棄物の量など、さまざまな環境負荷を算定します。
※カーボンフットプリントについては、「カーボンフットプリント(CFP)とは?導入するメリットや算定方法を解説」にて詳しく解説しています。
ライフサイクルアセスメント(LCA)の段階と手順
ある製品やサービスが環境に与える負荷を科学的に、そして定量的に評価するライフサイクルアセスメント。では、ライフサイクルアセスメントの評価はどのように行うのでしょうか。
ライフサイクルアセスメント評価の規格には、ISO14040:2006とISO14044:2006があります。ISO14040:2006はライフサイクルアセスメントの原則及び枠組みを示し、ISO14044:2006はライフサイクルアセスメントの各段階における要求事項を詳しく示しています。
ライフサイクルアセスメント(LCA)の段階的な規定
では、具体的にどのように評価していくのでしょうか。ISO14040:2006では、ライフサイクルアセスメントは以下の4段階で行うことが規定されています。
引用:一般社団法人 プラスチック循環利用協会(PWMI)「LCAを考える『ライフサイクルアセスメント』考え方と分析事例」p.5
①目的と調査範囲の設定
ライフサイクルアセスメントを実施する目的とその調査範囲を明確化します。設定の仕方により調査の具体的な方法や内容が大きく変わってしまう可能性があるため注意が必要です。具体的には次の作業を行います。
- 調査をする理由(目的)を明らかにし、「製品機能」を特定する
- 調査結果を誰に伝え、どのように利用するか(用途)を明らかにする
- 「目的」に従い、「システム境界」(対象とするプロセス全体を含む自然界との境界)を区分する
②ライフサイクルインベントリ(LCI: Life Cycle Inventory)分析
ライフサイクルインベントリ分析とは、その製品やサービスを製造や使用、廃棄・リサイクルといった各工程で使用した資源の使用量やエネルギー使用量と、CO₂など環境に負荷を与える物質の排出量、廃棄物の量などのデータを収集し、計算することを指します。何のために、どの製品(またはサービス、システム)を対象に行うのかを明らかにしてから、インベントリ分析を行うことが重要です。
そして、インベントリ分析で得たデータをもとに対象製品(またはサービス、システム)が環境に与える影響を把握し、その結果を解釈するというのがライフサイクルアセスメントの枠組みとなっています。
③影響評価
インベントリ分析で得られた環境負荷データの明細表をもとに、環境に与える影響を各カテゴリー(地球温暖化や資源消費など)で定量的に評価します。この影響評価の方法論や枠組みについては、複数の評価方法が開発され、実践段階に移っているものもありますが、インベントリデータを特定の影響と正確に関連づける方法が確立されていないため、ライフサイクルアセスメントに主観的要素が入ってしまうこともありえます。そのため、報告書などにはそのことを前提条件として明記し、可能な限り透明性を保つようにすることが重要です。
④結果の解釈
結果の解釈では、結論や提言を導き出すために、インベントリ分析および影響評価の各段階の結果を調査の目的に照らして評価します。③影響評価と同様に、結果の解釈についても確立した方法論は存在していません。そのため、「製品Aは製品Bと比べて環境負荷が大きい/小さい」といった比較評価のために調査結果を外部で使用するにあたっては、その分野の専門家からなる第三者に調査結果の正当性を客観的に検証してもらう必要があります(Critical Review:クリティカルレビュー)。解釈で得られた情報は、製品の研究開発・改善や、企画、公共政策、市場開発など、さまざまな用途に活かすことができます。①目的と調査範囲の設定で明確化した目的に照らし、②インベントリ分析や③影響評価の結果を単独にまたは統合して、評価、解釈します。こちらも結果の解釈についても確立した方法論は存在していないため、調査結果を外部で使用する際は、その分野の専門家からなる第三者に調査結果の正当性を客観的に検証してもらう必要があります。
これら①~④のフェーズ間を反復し、概算を何度も行いながら精度を上げていくのがライフサイクルアセスメントの一般的な進め方になります。
ライフサイクルアセスメント(LCA)を実施するメリット
企業にとって、ライフサイクルアセスメントに取り組むメリットとはなんでしょうか。
一つはその製品やサービス、システムが環境に与える影響を、ライフサイクル全体で科学的、定量的、客観的に理解し、どの段階で温室効果ガスの排出量削減ができているか、どの過程をどう改善すべきかを把握できることです。
また、ライフサイクルアセスメントに取り組むことで、カーボンフットプリントなどのフットプリントデータを取得できるほか、さまざまな意思決定の指標を得ることができます。
そして、環境負荷に関する科学的な情報を提供することで、消費者が環境価値の高い製品を見極めやすくなり、自らの意識に基づいた購買行動を起こしやすくなることもメリットと言えます。
ライフサイクルアセスメント(LCA)で見える違う世界
ライフサイクルアセスメントで世の中を捉えると、私たちのイメージとは異なる世界が見えることがあります。例えば、私たちが日常的に使用するストローもそうです。海洋ごみ問題がクローズアップされたことを契機に、日本国内ではストローの紙化が進みましたが、使い捨てストローのライフサイクルアセスメントで見ると、CO₂の排出量は石油由来のポリプロピレン製ストローよりも紙ストローの方が多く、温室効果ガス排出量の側面では、紙ストローの方が、環境負荷が大きいという調査データもあります。
※詳しくは「ストローのLCA比較でみたプラスチックとその代替」をご覧ください。
環境に与える影響については、このようにライフサイクルアセスメントの視点で科学的に把握し、適材適所で各種素材を使い分けながら、製品やサービスの環境負荷を低減していくことが重要になります。イメージではなく科学的に世界を捉えていくとは、私たち一人ひとりの誰もが今日から行える、地球環境への取り組みかもしれません。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm |
- 参考資料
- *1:環境省 再生可能エネルギー及び水素エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関するガイドライン:
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/lca/index.html - *2:一般社団法人 プラスチック循環利用協会(PWMI)「LCAを考える『ライフサイクルアセスメント』考え方と分析事例」 :
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf6.pdf - *3:SuMPO LCAの概要20210810 説明動画:
https://www.youtube.com/watch?v=1CXmlSizXiQ - *4:一般社団法人 日本化学工業協会 ライフサイクルアセスメント:
https://www.nikkakyo.org/sites/default/files/2023-02/ICCA_LCA_Executive_Guid.pdf