- サステナビリティな未来
- カーボンニュートラル
- 再生可能エネルギー
SBTとは?認定を受けるメリットや基準、取得方法を解説
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、世界各国の企業が温室効果ガスの排出量削減に取り組む中で、SBT(Science Based Targets)への注目がより高まってきています。SBTとは、「パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標」のことで、この国際的な評価フレームワークは、温室ガス排出量の削減に向けた科学的根拠に基づく目標設定を可能にし、具体的なアクションプランを導く道標となります。
本記事では、SBTの基礎となる考え方や認定を受けるための適用方法、企業が達成するべき基準について詳しく解説します。また、認定を受けた企業の成功事例や、実際に使用される評価および計画作成のツールを取り上げ、戦略的に活用する方法についてもお伝えします。
SBTとは何か?
SBT(Science Based Targets)は、「パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標」のことです。企業が科学的根拠に基づいて設定する温室効果ガス削減目標として、パリ協定が目指す地球の気温上昇を1.5℃以内に抑える目標と整合したものになっており、企業が温室効果ガスの排出量削減に向け戦略的なアクションを起こすための土台になり得るものです。
SBTを支える3つの柱
SBTには、3つの重要な要素があります。それぞれの柱が連携することで、企業の気候変動対策を幅広く支える役割を果たします。
1. 広範な削減範囲:企業全体を網羅する取り組み
SBTの削減目標は、事業者自らによる「直接排出」(Scope1)、他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う「間接排出」(Scope2)、そしてサプライチェーン全体にわたるScope1、Scope2以外の間接排出(Scope3)までを含みます。これにより、自社による部分的な対策ではなく、サプライチェーン全体を見据えた包括的な温室効果ガス排出量の削減に取り組む必要があります。
2. 明確な目標設定期間:短期と長期で成果を出すプランニング
SBTでは、5~10年という現実的な期間内で達成可能な短期削減目標を設定します。このように短期間で具体的な成果を目指すことで、企業の気候変動対策は加速し、計画に一貫性が生まれます。さらに、この短期目標に加え、SBTでは長期目標も推奨されています。長期目標は、2050年まで(電力セクターは2040年まで)にネットゼロ(排出量から吸収量を差し引き、実質的なGHG排出量をゼロにする状態)を達成するために必要な排出削減量を示すもので、Scope1・2に関しては95%、Scope3に関しては90%以上の削減が必要とされています。
3. パリ協定基準の削減率:地球温暖化を抑える具体的な指標
削減目標は、地球温暖化を1.5℃以内に抑えるというパリ協定に沿った基準を採用しています。具体的には、年率4.2%以上の温室効果ガス排出量の削減が求められており、この削減率は企業が戦略的な計画を立て、実行するための明確な指針となります。
SBTとSBTiの違いを整理
引用:環境省「SBT(Science Based Targets)について」P.9
SBTは、「パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標」を指します。一方、SBTi(Science Based Targets initiative)は、この目標設定をサポートし、妥当性を審査・認定する国際的イニシアチブ(特定の目標達成を目指した組織的な取り組み)を指しています。SBTiは、以下の4つの国際機関によって共同運営されています。
- CDP(旧称カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)
- UNGC(国連グローバル・コンパクト)
- WRI(世界資源研究所)
- WWF(世界自然保護基金)
また、SBTiは、「We Mean Business(WMB)」の取り組みの1つです。
WMBは、企業や投資家などの温暖化対策を推進している国際機関やシンクタンク、NGOなどが構成機関となって運営しているプラットフォームのことです。パリ協定が合意された1年前の2014年9月に発足しました。
SBTiの支援を受けることで、企業は気候変動対策を数値目標として具体化し、透明性や信頼性を高めながら、持続可能な成長に向けた取り組みを進めることができます。また、実際にどの企業がSBT認定を受けているかは、SBTiのウェブサイトでも確認できます。
企業が取り組むべきSBT設定のステップ
SBTを設定することは、企業が温室効果ガス削減に向けた計画を立て、実行するための大切なステップです。この取り組みは、気候変動リスクへの対応だけでなく、企業のサステナビリティやブランド価値の向上など、多くのメリットを企業にもたらします。また、定期的に進捗状況を確認し、報告することで、自社の取り組みの透明性や信頼性も自然と向上します。
また、SBTiのサポートを受けながら、プロセスを正しく進めることで、企業は数値に基づいた具体的な行動計画を描けるようになります。
SBTの設定が企業にもたらすバリューとは
SBTを設定することで、短期(5~10年)と長期(2050年まで)の温室効果ガスの削減目標を組み合わせた段階的なアプローチが可能になります。この枠組みを取り入れることで、以下のような効果が期待できます。
1. 外部ステークホルダーからの信頼獲得
科学的根拠に基づいた目標は、投資家や顧客からの信頼を高め、企業の評価向上にもつながります。
2. リスクの低減、イノベーションの促進
SBTを設定することは、リスク意識の高い顧客の声に答えることになり、自社のビジネス展開におけるリスクの低減・機会の獲得につながります。また、SBTで設定した削減目標をサプライヤーに対して示すことで、サプライチェーンの調達リスク低減やイノベーションの促進にもつなげることができます。
3. 生産性の向上
SBTという意欲的な削減目標は、省エネ、働き方改革、業務効率化等の生産性向上推進の動機づけにもなります。
短期目標は現実的な削減計画の基盤を作り、長期目標は最終的なネットゼロ達成の道筋を示します。このような段階的な取り組みを通じて、サステナブルな成長が視野に入ってきます。
SBT認定を取得するには?
SBT認定を取得することは、企業が温室効果ガス削減に取り組む上で、科学的根拠に基づいた目標を、国際的に認められる形にするための重要なステップです。下記の認定プロセスを進めることで、企業は気候変動対策を具体的な行動計画に落とし込み、持続可能な未来に向けた取り組みをさらに強化することができます。
SBT認定までのプロセス
出典:環境省 「SBT(Science Based Targets)について」p.145
1. コミットメントレターの提出(任意)
企業は、SBTiに対して「科学的根拠に基づく削減目標を設定する意思」を表明します。このコミットメントレターの提出は必須ではありませんが、目標設定へのコミットメントを外部に示すことで、信頼性を高める機会になります。
2. 削減目標の設定と、目標の申請
科学的根拠に基づいて短期目標(5~10年以内)や長期目標(2050年まで)を設定します。この際、SBTiの設定基準(例:年率4.2%以上の削減)を満たす必要があります。そして、Target Submission Form(目標認定申請書)を事務局に提出し、審査日をSBTi booking systemで予約します。
3. 目標の妥当性の確認
専門チームによって科学的な妥当性が審査されます。審査が通過しない場合は差し戻されることもあります。なお、審査結果のフィードバックについては、以下の形式で、評価の段階ごとに提供されます。
<フィードバックの回答形式>
✓申請内容が基準に合致していなかった場合に、非適合箇所に対処するための推奨事項を含む包括的な目標妥当性確認レポート
✓公式決定文書
✓リクエストに応じて、SBTiのテクニカルエキスパートとの60分間までのフィードバック
4~5.公表と情報発信:認定の公開と進捗を可視化する
認定が完了すると、企業名と目標がSBTiのウェブサイトに掲載されます。認定を受けてから6か月以内に目標を公表することが要件になります。さらに、年単位で目標の達成度を公表する必要があります。
6. 継続的な改善:目標の妥当性の確認
少なくとも5年ごとに目標を見直し、事業環境や科学的基準の変化に対応します。この再評価により、削減計画を常に有効な形で維持することができます。
SBT認定は重要ですが、あくまでもステップであり、決してゴールではありません。温室効果ガス削減のためには、認定を受けた後も削減計画を血肉化させ、企業活動の一部として根付かせることが必要です。気候変動対策を一過性の取り組みとしてではなく、企業文化として浸透させ続けていくことが重要です。
SBT認定が企業活動に与える多角的なメリット
SBT認定を取得することは、企業の温室効果ガス削減目標を科学的根拠に基づき国際的に認められる形にするだけでなく、他にも多方面にわたる効果をもたらします。ここでは、SBT認定がもたらす具体的な成果について、投資家・消費者、社内、そして経営の観点から整理してご紹介します。
1. 投資家・消費者に選ばれる企業へ
SBT認定は、企業が信頼性の高い気候変動対策を行っている証として機能します。この認定を通じて、ESG投資家からの評価が高まり、資金調達や取引において優位に立つことが可能です。また、環境配慮型の商品やサービスを提供する企業として消費者からの支持を得やすくなり、新しい市場の開拓や競争力の向上にもつながります。
2. 社内文化を変え、全員で目標を共有
SBT認定は、外部からの評価だけでなく、企業内部にも大きな効果をもたらします。全社員が共有できる目標を設定することで、取り組みに対する理解が深まり、モチベーションが向上します。この結果、社内の連携が強化され、チームワークが改善されることで、生産性の向上にも寄与します。
3. 経営の強化と長期的なコスト削減
SBT認定を受けることで、エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの導入が促進され、長期的なコスト削減が期待できます。また、CDPスコアをはじめとする国際的な評価が向上することで、企業の信頼性が高まり、持続可能性の強化やリスク管理能力の向上といったメリットが得られます。
企業のSBT認定状況を紹介
世界全体でSBT認定が加速する
引用:環境省「SBT(Science Based Targets)について」p.43
SBTに参加する企業数は年々増加しています。2024年3月1日時点で、世界全体の参加企業数は7,705社に達しており、その内訳は以下の通りです。
- 認定企業:4,779社(SBTの目標を正式に認定された企業)
- コミット企業:2,926社(2年以内に認定取得を表明している企業)
2023年3月時点と比較すると、認定企業は112%増、コミット企業は14%増と急成長しています。この成長率は、グローバル全体で気候変動対策に対する関心と取り組みが急速に高まっていることを示しています。
日本企業のSBT認定状況
引用:環境省「SBT(Science Based Targets)について」p.44
環境省のまとめによると、2024年10月29日現在、日本のSBT認定企業数は1,378社に達しています。このうち、認定取得済み企業は1,297社を占め、中小企業が1,048社と大部分を占めています。これにより、日本の産業界全体で持続可能性を重視した取り組みを積極的に進めていることが明らかです。
SBTに基づいた取り組みは、企業が気候変動対策を明確にし、持続可能な成長を目指すための有効なアプローチです。特に最新基準では、基準年や目標年の設定条件が明確化され、目標検証プロセスや中小企業向け基準の改訂が進んでいます。SBTを活用したGHG(温室効果ガス)削減計画は、環境課題に戦略的に対応するための基盤になります。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm |
- 参考資料
- *1:環境省 グリーン・バリューチェーン・プラットフォーム「SBT(Science Based Targets)について」:
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SBT_gaiyou_20241029.pdf - *2:Science Based Targets Initiative:
https://sciencebasedtargets.org/companies-taking-action - *3:CDP Worldwide-Japan「SBT目標設定に関する解説」:
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/sustainability/management/sustainability_dialog_with_business_partners/20220118_session_03.pdf - *4:環境省 We Mean Businessの概要:
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/WMB_20230301.pdf