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サステナビリティ開示の義務化された項目や基準をわかりやすく解説

環境にやさしい都市

持続可能な社会の実現に向け、企業経営においてもサステナビリティへの取り組みが重要視されるようになっています。こうした中で、企業にサステナビリティ情報の開示を求める動きが国内外で加速しています。日本では有価証券報告書にサステナビリティ情報を記載することが義務付けられました。その背景や対象、情報開示の基準などについて解説します。

サステナビリティ開示が求められる背景

最近よく目にする「サステナブルな社会」や「持続可能な開発」という言葉。この概念が注目されるようになったきっかけは、1987年に公表された国連の「環境と開発に関する世界委員会」の報告書(ブルントラント報告書)でした。これを受けて1992年の国際環境開発会議(地球サミット)では、成長と開発に不可欠な環境資源を保護・更新させる経済活動への移行を目指す「アジェンダ21」が採択されました。

その後、ますます経済がグローバル化し、ビジネス環境は複雑化する中で、気候変動や人権問題、技術革新、地政学的リスク、サプライチェーンのリスク、サイバーセキュリティなど、企業経営に影響を与える要素は多岐に渡っています。特に、環境、社会、経済の各側面のさまざまな課題が網羅されているサステナブル関連の取り組みは、企業経営を行う上で重要性が高まっています。

サステナビリティ情報の開示要請に関する各国の最新動向

出典:経済産業省「サステナビリティ関連データの効率的な収集及び戦略的活用に関する報告書(中間整理)ー概要版ー」p.8

サステナビリティへの取り組みは企業の持続的な成長に大きな影響を与えるため、投資においても情報の開示が求められています。20236月、IFRS財団のサステナビリティ基準審議会(ISSB)は、202411日以降に始まる年次報告期間に適用される最初のIFRSサステナビリティ開示基準を公表。また、EUCSRD(企業サステナビリティ報告指令)が20231月に発効され、202411日以降に始まる会計年度からCSRDで規定されたESG(環境・社会・ガバナンス)の影響に関する報告要件が段階的に適用されることになりました。このような取り組みを背景に、サステナビリティ情報の開示を求める動きが加速しています。

また、消費者の意識も変化し始めており、企業のサステナビリティへの取り組みは消費者の商品購入や、就職先の選定にも影響を与えています。

サステナビリティ情報とは

サステナビリティ情報とは、企業価値に影響を与える将来的なサステナビリティ関連のリスクを分析する際に役立つもの。非財務情報とも呼ばれ、財務データと同等の価値があるとみなされています。

サステナビリティという概念にはさまざまな定義がありますが、東京証券取引所(東証)のコーポレートガバナンス・コードではサステナビリティを「ESG要素を含む中長期的な持続可能性」としています。

では、サステナビリティ情報とは具体的にどんなものがあるのでしょうか。その項目としては、環境への配慮や人権の尊重、従業員の健康や労働環境、公正な取引、サイバーセキュリティに関するものなどが挙げられます。なお、EUのCSRDでは、環境・社会・ガバナンスの情報開示を求めており、ESG情報の開示拡充を目的としています。

サステナビリティ情報開示の義務化

世界的にサステナビリティ情報の開示が進む中、日本では2021年に東京証券取引所(東証)がコーポレートガバナンス・コード(実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたもの)を改訂。これにより、2022年4月4日以降、プライム市場上場企業に対してTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)またはそれと同等の国際的な枠組みに基づく情報開示が実質義務化されました。

さらに2023年1月には「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正されました。これにより、2023年3月期決算から有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、サステナビリティ情報の開示が義務化されることになりました。

新設された「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄には①ガバナンス、②戦略、③リスク管理、④指標及び目標、の4要素があります。

サステナビリティに関する考え方及び取組

出典:金融庁「サステナビリティ情報の記載欄の新設等の改正について(解説資料)」p.2

このうち、①ガバナンスと③リスク管理については、すべての企業に対し、全項目の情報開示が義務付けられています。

②戦略では、全企業に人的資本に関する情報の開示義務がありますが、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する取り組みは、各企業が重要性を判断して開示することになっています。

また、④指標及び目標では、人的資本や多様性に関する記載が全企業に義務付けられていますが、サステナビリティ関連のリスク及び機会の実績を評価・管理するために用いる情報は各企業が重要性を判断して開示します。

なお、ここでいう「すべての企業」「全企業」とは、有価証券の提出義務がある企業を指します。

サステナビリティ情報の開示基準

サステナビリティ情報の開示は、開示基準の枠組みに沿って行うことになります。そこで、公益財団法人財務会計基準機構は、日本において適用されるサステナビリティ開示基準の開発及び国際的なサステナビリティ開示基準の開発への貢献を目的とし、2022年7月にSSBJ(サステナビリティ基準委員会)を設立し、議論を重ねてきました。

SSBJでは、サステナビリティ開示基準の開発にあたり、基準を適用した結果として開示される情報が国際的な比較可能性を大きく損なわせないものにすることに注力。その基本方針として、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が策定したIFRSサステナビリティ開示基準と整合性が取れた日本基準の策定を進め、2025年3月5日に日本初のサステナビリティ開示基準となる、3つのサステナビリティ開示基準を発表しました。

<SSBJが発表した3つのサステナビリティ開示基準>
1.サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」
2.サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」
3.サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」
※詳細は「SSBJ発表資料」参照

この開示基準では、ISSBのIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」に相当する基準を2つの基準に分割し、別個に公表。具体的には、IFRS S1号のサステナビリティ関連のリスク及び機会に関して開示すべき事項(コア・コンテンツ)を定めた部分については一般基準に含め、コア・コンテンツ以外の、サステナビリティ関連財務開示を作成する際の基本となる事項を定めた部分については適用基準に含めています。

また、上記3つの基準は同時に適用する必要があるため、IFRS S1号に相当する基準の分割によってSSBJ基準を適用する企業が開示する内容に影響を与えることはないと考えられています。

また、温室効果ガス排出量の開示については、Scope1(事業者自らによる「直接排出」)、Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う「間接排出」)に加え、Scope3(Scope1、Scope2以外の間接排出:事業者の活動に関連する他社の排出)の開示が必要になり、自社拠点分だけでなく、原料調達などサプライチェーンでの温室効果ガス排出量の開示も義務づけられることになります。

<ISSB基準とSSBJ基準の比較図>ISSBとSSBJ基準の比較図

出典:SSBJプレスリリース「サステナビリティ基準委員会が我が国最初のサステナビリティ開示基準を公表」p.2

日本企業の対応や今後の動向

サステナビリティ開示基準のあり方と適用対象・適用時期の方向性(イメージ)

出典:金融庁「第5回 金融審議会『サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ』事務局説明資料」p.17

日本では2023年に有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、有価証券報告書の提出義務がある事業者には、サステナビリティ情報の開示が義務化されました。

さらに20253月、SBBJのサステナビリティ開示基準が発表されたことを受け、金融庁は、この新基準に基づき企業の気候・サステナビリティ情報の開示を20273月期から時価総額3兆円以上の大企業への適用を開始する方針です。さらに、20283月期から時価総額1兆円以上、2029年3月から同5,000億円以上の企業と順次対象を拡大し、最終的にはプライム市場の全企業が対象となる予定です。(2025年3月時点)

そのため、日本企業は自社の規模に合わせて適用時期を確認し、対応を進めることが求められます。

世界のサステナビリティ開示の動き

出典:金融庁「事務局説明資料」p.3(図の状況は2024514日時点)

サステナビリティ開示の動きは世界でも進んでいます。2023年にはISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が策定したISSB基準(IFRSサステナビリティ開示基準)が設定されました。今後は世界各国でISSB基準と整合性のある開示基準が制度化すると見られています。

また、EUでは20231月にCSRD(企業サステナビリティ報告指令)が発効されました。これはESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に沿ったサステナビリティ情報の開示を義務付けるものです。EU域内の大企業や上場企業はもちろん、日本企業などEU域外の企業であっても、EU域内に一定規模の子会社や支社がある場合は対象となります。

CSRDについては、「CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とは?日本企業への影響を解説」にて詳しく解説しています。

このように、日本国内でも国外でも、事業活動を行う上ではサステナブル情報の開示を的確に行っていくことが、今後さらに重要になってくると言えるでしょう。

三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、
バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

「BePLAYER®」「RePLAYER®」https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm

<公開資料:カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー関連>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/

 
参考資料
*1:経済産業省「サステナビリティ関連データの効率的な収集及び戦略的活用に関する報告書(中間整理)ー概要版ー:
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/hizaimu_joho/data_wg/pdf/20230718_2.pdf
*2:株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~ 」:
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20241202/02.pdf
*3:E-GOV「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」:
https://laws.e-gov.go.jp/law/348M50000040005/20250401_507M60000002008?tab=compare
*4:金融庁「サステナビリティ情報の記載欄の新設等の改正について(解説資料)」:
https://www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sustainability01.pdf
*5:金融庁「第2回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」事務局説明資料:
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20240514/01.pdf
*6:金融庁「第5回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」事務局説明資料:
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20241202/02.pdf

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