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素材の展示会『MOLpCafé』。メンバーが語る開催秘話とプラスチック愛

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20世紀を代表する画家の一人、ピート・モンドリアンによって1920年に提唱された新造形主義「Neoplasticism(ネオプラスティシズム)」。当時の主流であった具象美術に対して、これまでの慣例を見直し抽象美術の価値を打ち出したこの理念は、アート界のみならず、建築やデザイン、ひいては産業の世界にも大きな変革をもたらした。

それから100年。新造形主義の理念にもとづき、新たな解釈で素材の価値を再定義することをコンセプトに掲げ、開催された『MOLpCafé2021』。急激な変化の時代に、素材がどのように社会に貢献していけるのかを追求し、「脱プラスチック」ではなく「改プラスチック」に挑もうとしている。

MOLpは「NeoPLASTICism」をコンセプトに掲げ、2021年7月に3年ぶりとなる展示会『MOLpCafé2021』を開催した。7月の展示会では、緊急事態宣言下における人数制限もあり、来場できない方も多くいた。そうした声に応え、同年10月27日〜31日、さらに進化した内容での凱旋展示が決定した。

そこで今回は、MOLpのクリエイティブパートナーである田子學と『MOLpCafé2021』に初参加した3名のMOLpメンバー(藤本恵造、田中正和、金原悠帆)にインタビュー。見どころとなるプロダクトを紹介するとともに、開発の苦労や7月に開催した『MOLpCafé2021』の手応えなどを語り合う。

取材・執筆:宇治田エリ 編集:吉田真也(CINRA)

誰にでもわかりやすく、素材の魅力を伝えたい。『MOLpCafé』誕生の経緯

『MOLpCafé』についてお話いただく前に、そもそもMOLpがどういった経緯で始まった団体なのかうかがいたいです。田子さんは、2015年のMOLp立ち上げ当初からクリエイティブパートナーとして携わっているそうですが、あらためてMOLpとの関係性を教えてください。

田子:2014年にぼくが『デザインマネジメント』(日経BP)を上梓して全国各地で講演会を開いたのですが、そこに当時の三井化学の広報担当でMOLpのメンバーである松永有理さんが来てくださったんです。

そのときに「化学メーカー自体が変わらなければいけない。取引先に言われたことしか返せていない現状を打開して、もっと先を考えられる自由な舞台をつくるために、一緒になにかやりませんか?」というお話をいただいて。

そこから、三井化学のオフィシャルとしてではなく、「部活」のような活動として、2015年からMOLpをスタートすることになりました。そのなかでぼくは、当時の研究トップから化学者たちの頭のなかを引っ掻き回してほしいと背中を押してもらい、三井化学の研究者たちに対して、いままでになかった体験の創出と思考の前進の手助けをしてきました。

MOLpのクリエイティブパートナーの田子學

MOLpCafé2021の様子

MOLpCafé2021の様子

「素材の魅力ラボ」というコンセプトをもとに活動しているMOLpですが、素材の魅力を世の中に伝えるために工夫していることはありますか?

田子:誰にでもわかりやすく、噛み砕いて発信することが大事だと思っています。やはり専門的な分野にいるメンバーが集まっているので、使う言語が世間一般とかなり乖離しているんですよ。もともとぼくはプロダクトデザイナーだったので、比較的素材に詳しいほうですが、それでもついていけないことがある。

ですから、誰もがわかるように表現し、伝えていかなければいけないと感じていました。「機能的価値」を重視しながらも、誰にでもわかりやすく、使ってみたいと思っていただける「感性」を加えたものづくりと情報発信、そして共感の輪をつくりたい。そんな思いで取り組んだ仕掛けのひとつが『MOLpCafé』です。

「脱プラスチック」ではなく、「改プラスチック」へ。活動方針が決まった背景

MOLpの活動や制作したプロダクトをお披露目する展示会『MOLpCafé』は、2018年に初めて開催されましたが、どういった経緯でスタートしたのでしょうか?

田子:月に1度、定期的に議論していますが、いろいろなアイデアが生まれるんですよ。言い出した人がリーダーになるようなかたちでプロジェクトが進み、新たなプロダクトがいくつもできていったんです。

できあがったものは合同の展示会などで発表することはありましたが、せっかくなのでこれまで制作したプロダクトをより開かれた自由な場で発信し、交流の場を設けようと。それで『MOLpCafé』を企画しました。

2018年に開催された『MOLpCafé』の様子

第二回となる『MOLpCafé2021』が2021年7月に開催されましたが、コンセプト「Neo“PLASTIC”ism」はどのような経緯で決まったのでしょうか?

藤本:『MOLpCafé2018』を終えてMOLp第2期が始まった頃に、まずはMOLpとして今後取り組むべき方向性を定めようという話になりました。その時期は社会的にもSDGsに取り組もうという風潮になりつつあるタイミングで、MOLp内の企画ブレストでも海洋プラスチックゴミ問題をはじめ、環境問題やSDGsに関連するキーワードがたくさん上がってきたんです。

そこで、プラスチックメーカーとしてなにができるかを考えた結果、プラスチック自体は本来ロングライフで使えるものだからこそ、使い方を見直し、プラスチックに愛着を持って長くつき合えるようにしたいねとなって。まさしく「脱プラスチック」から「改プラスチック」へという、プラスチックの使い方を定義しなおそうという方針に決まりました。

ただ、それから「Neo“PLASTIC”ism」という具体的なワードが出てきたのは、もう少し後のことになります。というか、『MOLpCafé2021』のわりと直前だった気もします(笑)。

MOLpメンバーの藤本恵造

田子:そうですね。「Neo“PLASTIC”ism」というワードに着目したのは2021年に入ってからでした。プロダクトの制作の過程でディスカッションをしていくと、さまざまなキーワードが出てくるのですが、そのなかでもっとも痺れた言葉がNeoplasticismだったんですよね。

その言葉が最初に出たのは、「SHIRANUI – Photochromic De Stijl」という光が当たることによって色が変わるテーブルを制作したとき。最高品質の光学プラスチックレンズ材料を使用しているのですが、その素材でできることを試行錯誤していくなかで「モンドリアン」へのオマージュにたどり着きました。

そこから新造形主義の話になり、英語ではNeoplasticismというのですが、その単語のなかに「PLASTIC」という言葉が含まれていることに気づきました。このように、MOLpの活動では不思議とセレンディピティをよく体験するんです。たとえば、2016年の展示会でこの色が変わる素材から生まれた作品を「SHIRANUI」と名づけたのですが、偶然にもこの素材をつくっている場所が福岡県大牟田市の不知火(しらぬい)という地名だと後からわかったり。Neoplasticismにつながったときも、MOLpの活動にハマるワードを見つけたと思いました。

いろんな偶然が重なって発見できた言葉なんですね。「Neo“PLASTIC”ism」は、従来の具象美術に対して抽象美術の価値を打ち出した理念ですが、現代のプラスチックの価値観を変えようとするMOLpの理念とも共通していると感じます。

田子:まさに人類の暮らしを発展させながらも大量生産・大量消費社会へ導いた歴史と、三井化学のルーツ、そしてMOLpがこの数年で取り組んできた「改プラスチック」、すべてがこの言葉に集約されていました。そうして、次の『MOLpCafé』は「Neo“PLASTIC”ism」というコンセプトでやろうと固まったんです。

『MOLpCafé2021』の展示品でもある「SHIRANUI – Photochromic De Stijl」。光によって色が変化するプラスチック素材を活用したテーブル
「Neo“PLASTIC”ism」をコンセプトに開催された『MOLpCafé2021』の会場入口に設置された看板

広がるプラスチックの可能性。『MOLpCafé2021』に展示されたプロダクト

そのコンセプトのもと2021年7月に開催されたのが、『MOLpCafé2021』だったと。田子さん以外は今回が『MOLpCafé』初参加とのことですが、ご自身が開発担当したプロダクトの案内役を務めたそうですね。それぞれ担当したプロダクトを教えてください。

田中:私は「POLYISM」という少し革のような独特な手触りを持つパルプと樹脂の複合体を使ったランプシェードに加えて、本業でも扱っているTPX® という素材を用いた機能性ラグ「Mono Material Thermalism」の開発を担当しました。いずれもプラスチック素材に愛着を持ちながら、長く使ってもらえるように工夫したプロダクトたちです。

空間をやわらかく照らしてくれるランプ「POLYISM」。パルプと同じフィブリル形状のプラスチックと天然パルプを一緒にすき合わせることで制作した
耐熱性や極低吸水、汚れがつきにくく、最軽量なTPX® という樹脂だけで布も中綿もつくった「Mono Material Thermalism」。単一素材のリサイクルに適した設計となっており環境にも優しい
MOLpメンバーの田中正和

金原:私は本業ではウレタンを使った研究をしているのですが、展示会ではマテリウム™という素材のライブラリーキットをつくったり、植物由来のウレタン新素材「スタビオ®を使い、落ち葉が封入されている壁にかけられるコートハンガー「GoTouch Slow play」をつくったりしました。『MOLpCafé2021』で来場者の方にお見せした際、純粋に「このコートハンガーかっこいいな」と言ってもらえて嬉しかったですね。

落ち葉を植物由来ウレタン「スタビオ®で封入した「GoTouch SLOW PLAY」。植物が生み出す循環型のエコシステムに思いを馳せ、毎日使えるコートハンガーに応用したサステナブルなプロダクト
MOLpメンバーの金原悠帆

藤本:私は地域特有の食品残渣を樹脂と混ぜ、相容化技術でコンパウンドした「GoTouch Compounds」を担当しました。たとえば山梨県ならぶどう果皮と種子、長野県千曲市ならソバ殻、三重県松阪市なら緑茶殻と、食品によって色が変わりますし、なによりペレットから香りを感じるものもあります。来場者の方に実際に匂いを嗅いでいただきましたが、驚かれている方がとても多かったです。

各地域の廃棄物をプラスチックとコンパウンドすることでつくられたトレー「GoTouch Compounds」。日本各地の資源を有効活用することで、ロス削減や化石資源の使用量削減、地方創生の可能性を広げる
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「Neo“PLASTIC”ism」を体現したプロダクトとは?『MOLpCafé2021』再開催の意図も語る

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