outline
お笑い芸人として活動する傍ら、9年前からはゴミ清掃員としても働いているマシンガンズの滝沢秀一さん。2018年には清掃員の日常をつづった『このゴミは収集できません』を上梓。以来、「ゴミ清掃芸人」として注目を集め、現在はゴミの出し方やリサイクルについての講演や、環境省の「サステナビリティ広報大使」に就任し、SDGsにまつわる活動を行なっています。
日本でもSDGs(持続可能な開発目標)という言葉自体は広まりつつあるものの、いまも大量生産・大量消費の流れは止まらず、たくさんのゴミが捨てられ続けています。この流れに歯止めをかけ、真にサステナブルな社会へと踏み出すためにはどんな考え方が必要なのでしょうか? 捨てられたゴミのなかには、新しい製品や素材の原料に再利用できるものもあります。滝沢さんとともに、ゴミ出しという観点から考えました。
取材・執筆:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太 編集:川谷恭平(CINRA)
ペットボトルのキャップで失明の危機に!? ゴミ分別の大事さ
メンバー(以下、MOLp):今日は滝沢さんに、ゴミについていろいろとうかがっていきたいと思います。まず、ゴミの種類やそれぞれの処分方法について教えていただけますか。
滝沢秀一(以下、滝沢):ゴミの種類って8、9種類を想像しがちですが、じつは大きく分けると「再生できるゴミ」と「再生できないゴミ」の2種類しかないんです。これは意外と知られてないんですよね。
というのも、「ゴミ」として出されたものでも、素材として再利用できるものはすべて「資源」だから。清掃員のあいだで「資源ゴミ」という言葉を使うと怒られますよ。「資源はゴミじゃない」って。
公式YouTube動画「ごみから考えるSDGs①~こどもにもできるS和Ds」
MOLp:つまり、使い終えたペットボトルや、ビン・カン、段ボールなども「資源ゴミ」ではなく「資源」であると。
滝沢:そのとおりです。また、「不燃ゴミ」も細かく砕き、金属など資源になるものを取り出したうえで、どうしても再生できないものだけが最終処分場に送られます。
一方、「燃えるゴミ」は、再生できるものを資源として取り出したあと、その名のとおり燃やして灰にします。灰にして固めたものを最終処分場に埋める。灰と土を交互に重ね、ミルフィーユ状に埋めていくんです。
MOLp:ペットボトルのようなプラスチック資源はどのように回収されているのでしょうか?
滝沢:ペットボトルは、まず回収時に清掃員がキャップを外します。いまは調味料などもペットボトルに切り替わっていて、ぼくが清掃員を始めた9年前と比べて異常に数が増えていますね。
ペットボトルってキャップを外さないと空気が抜けず、清掃車のなかで圧縮されないんですよ。あるいは、清掃車に押し込む際に、空気圧で弾丸みたいにキャップが飛んでくることもある。でっかいエアガンみたいなもので、あたると血だらけになっちゃう……。
以前、清掃員の仲間の目にあたったことがあり、彼は1週間くらい眼帯して過ごすことになりました。危険なので、キャップだけはご家庭で外して分別してくれるとありがたいですね。
「ちょうど良い」リサイクル意識との向き合い方
MOLp:分別は地球環境のためだけでなく、清掃員の安全を守り、手間を減らす意味もあるわけですね。
滝沢:そうですね。一番ありがたいのは、ペットボトルは資源の店頭回収を実施しているスーパーなどに持っていっていただくことですね。清掃員の負担が減りますし、ああいうところはきれいにしないと受け取ってもらえないじゃないですか。
きれいに出せば、ペットボトルから同じペットボトルに生まれ変わる「水平リサイクル」を行なうこともできます。一方、各地域のゴミ集積所での回収の場合、せっかく自分がきれいに出しても、近所に汚く出している人がいると混在してしまいますよね。
そうなると、ほかの方がきれいにして出したものも含めて正しくリサイクルされない場合があるんです。
MOLp:ペットボトルも容器包装もどこまできれいにすれば良いのでしょうか。
滝沢:ペットボトルならキャップとラベルを外し、中身を水ですすいであればOKです。ビンに関してはのりで強力に接着されたラベルまで苦労して剥がす必要はないと思います。
意外とシールがついたままでも二次利用されることも多いので。リサイクルを意識しすぎた生活を送って、ストレスをためてしまうのも良くないと思います。
MOLp:たしかに、そこで分別やきれいにして出すことが億劫になってしまう人も多いかもしれません。
滝沢:ほどほどで良いと思います。最低限、ビンもカンも水でゆすいでもらえれば大丈夫。でも、ゆすいでないとそこにアリや虫が集まって、清掃員が噛まれることがあるんです。ぼくもそれでナゾの湿疹ができたことがあります。
滝沢:あと、ペットを飼っている人も気をつけてほしいことがあります。たとえばキャットフードの缶を捨てるとき、食べ残しが入ったままだと、夏はそこに虫が湧くのでできればやめてほしいですね。
MOLp:ゴミ出しの基礎知識に加え、ちょっとした配慮がないと清掃員が困るということも、認識してもらいたいところですね。
滝沢:ただ、自治体ごとにゴミ出しのルールも全然違うので、周知のさせ方もなかなか難しいですけどね。引越しのたびに違うやり方を覚えるのって、やっぱり面倒だと思いますし。とくに、大きな自治体はゴミ処理施設の設備も整っているから、案外ゴミ出しのルールがゆるくても大丈夫だったりします。
でも、それを知らないと同じやり方を引越し先でも続けてしまい、場合によってはご近所トラブルに発展してしまいますよね。間違った捨て方をした人の責任が問われがちですが、自治体側の周知も足りていないところがあると思いますし、難しいところですね。
じつはペットボトルは汚れているとリサイクルできない
MOLp:滝沢さんがゴミ清掃員として働いていて、よく見かける「間違ったゴミの捨て方」を教えてください。
滝沢:とくに多いのは、ペットボトルの回収箱のなかにシャンプーの容器が入っていることですね。おそらく悪気はなくて、むしろしっかり分別しようとしたんだと思います。でも、ルール上では間違えている。
シャンプーの容器はプラスチックゴミなので、東京だと可燃ゴミの扱いになります。それが一つでもペットボトルと同じ袋に入っていると、リサイクル分別工場でほかのペットボトルもまとめて可燃ゴミに仕分けられてしまうんです。つまり、リサイクルされなくなってしまいます。
MOLp:工場で、それを細かく仕分けることは難しいんでしょうか?
滝沢:工場では大量のゴミや資源を処理しなければならないので、現実問題として一つひとつ細かく精査することはできません。ルールと違うもの、汚れているものが混ざっていると、本来はリサイクルできるはずのきれいな資源もまとめて除外するしかない。
ですから、明らかに汚れているものなどは無理して資源回収に回さず、可燃ゴミとして捨ててしまったほうが良いと思います。たとえば、ガーデニングでペットボトルを半分に切って土を入れ、プランター代わりにしますよね。
あれも土がついて汚れたまま、ペットボトルとして一緒に資源に出されると、ほかのペットボトルもリサイクルされなくなってしまいます。そういうものは、むしろ可燃ゴミとして捨ててもらえるとありがたいですね。
MOLp:「中身が汚れている物はリサイクルできない」。そう覚えておくと良さそうですね。本当はそういうことも私たちは知っておく必要がありますね。
滝沢:そうですね。たとえば自治体が、「このゴミは最終的にこう処理します」「この資源は再利用され、こんな素材になります」と説明したうえで、「だから、このように分別してほしいんです」と伝える。
みんな、そのゴールを知らないのに「ルールだから」と言われても、なかなか従う人は少ないんじゃないかな。逆にそこが伝われば、ルールを守ることが地球のため、環境のためになると感じられて、みんな協力してくれると思うんですけどね。