取材・執筆:宇治田エリ 写真:原祥子 編集:川谷恭平(CINRA)
3Dプリンターのネットワークとエコシステムの理想像
MOLp:サステナブルな状態にするために、具体的にどのようなことを考えているのでしょうか?
三田地:新工芸に多くの人が関わり、開かれたものにしつつも、新工芸の存在価値が上がっていく仕組みづくりが大切だと思っています。たとえば、いま考えているのは、アップデートのための仕組み。実際に新工芸舎でデザイン、プロトタイプ、生産をすべてやっていると、つねにもっと良いものを目指したくなって、終わりがないんです。
あと、まだ構想段階ですが、「編み直し」というtildeのリサイクルのサービスを検討しています。
MOLp:編み直し?
三田地:FDMでつくられているtildeは、一般的な樹脂成形に比べて脆く、壊れやすいという特徴があります。そこで長く愛用できるように、壊れたtildeを回収し、それをリサイクルしてフィラメント状に戻してまた生産できるようにする。3Dプリントであることを活かして、設計者にもちゃんとお金が戻る仕組みを目指したいですね。
さらには、プロダクトをアップデートしたいときに適用できる「3Dデータを出力する権利」をNFTなどで販売できたらと考えています。
MOLp:なるほど。確かにFDMの製品はリサイクルが可能ですね。より新工芸の文化が盛り上がりそうです。
三田地:つねにもっと良いものを目指すという気持ちはクリエイターだけでなく、消費者側にもあると思っています。お互いが製品をアップデートできるようなサービスがつくれたら、より新工芸を楽しむことができるのではないでしょうか。
MOLp:一方で、光造形に使われる熱硬化性の樹脂の場合は、非常にリサイクルが難しいという課題があります。
三田地:サステナブルな製品をつくるためにも、やはりいろんな素材を研究し、考え方にフィットするものを選んでいかなければなりませんね。熱硬化性の樹脂の場合は、壊れにくい素材なので、「長く愛用する」という消費スタイルにフィットするものづくりをしていく必要があると思っています。
新工芸家にとって「つくること」は「生きること」
MOLp:今後、新工芸舎ではどのような挑戦をしていきたいですか?
三田地:目指したいことはたくさんあります。今年3月に京都で『新工芸展(店)』という個展を開催しましたが、近年は自宅で3Dプリンターを使い、部品や製品を販売する人も増えていることを考えると、次は自分たちだけではなく、同じような思いでものづくりをする人たちの支援もしていきたい。
さまざまな人の作品を集めて展示したり、本の出版もしていきたいし、いずれは実店舗も。このように、新工芸を取りまとめる動きも進めていきたいですね。
また、海外展開も視野に入れています。海外で展示や販売をするとなったとき、わざわざ日本で3Dプリントして、作品を運ぶのはイヤで。信頼できる技術を持っている現地の人とコラボして、お互いに出力を依頼し合えるような生産ネットワークができたら、世界ともっとつながりやすくなるのではと思っています。
MOLp:3Dプリンターならではの方法ですね。
三田地:リサイクルの面でも、自分たちで粉砕機を持てたらなという思いがあって。町に1つ、小さな規模の企業や個人が使えるリサイクル場があってもいいですよね。もっと素材のリサイクルを自分の手でできるくらい身近になったら、地域のなかで樹脂材料が巡っていくエコシステムが構築できるかもしれません。
MOLp:すごいですね。これまでの民芸運動を彷彿とさせながらも、サステナビリティーやグローバリゼーションを積極的に混ぜ合わせていくような、イノベーションを起こそうとする姿勢にワクワクさせられます。
三田地:より求心力を持つためにも、新工芸では「つくること」と「生きること」が一体になったあり方にこだわりたいですね。そのような志に共感してくれる新工芸家がたくさん生まれ、いろんなところでいろんなことをやってる人がいる状態をつくっていけたら。
これまで新工芸舎では、湿板専用のカメラや障がいを持った方向けの福祉用品など、量産するほどではないニッチな製品を開発してきました。これらは大量生産の社会では見過ごされていたけれど、開発をとおして必要とする人がたくさんいることに気づきました。
それらを丁寧にすくい上げていけば、新工芸家として生きていける人はいっぱい出てくるはず。われわれも新工芸を多角的なアプローチで浸透させながらマーケットを広げていき、自立を目指して頑張っていこうと思います。
平成元年生まれ。デジタルとアナログを融合した新時代の工芸を標榜し活動する新工芸舎を主宰する。株式会社キーエンスでデザイナーとして働いたのち、YOKOITOに加入。2020年に新工芸舎を立ち上げる。デジタルファブリケーションが生み出す、コンピュータとアナログ世界の境界面に現代におけるモノの在り方を模索する。