きっかけは「なんでもつくれる人になりたい」。特殊メイクの道に進んだ背景
MOLpチーム(以下、MOLp):JIROさんは芸術系大学に通っていたころは、ガラスや金属を用いた制作を行なっていたそうですね。そこからなぜ、特殊メイクの道に進んだのでしょうか?
Amazing JIRO(以下、JIRO):ガラス作品をつくっていたときも、金属を用いて彫金の作品をつくっていたときも、素材に縛られて物をつくっていることにどこか息苦しさを感じていて。「同じ素材を扱い続けるよりもいろんな素材を用いながら、なんでもつくれる人になりたい」と考えるようになったんです。
そんなときたまたまテレビで、本物に似せた人間の顔をつくる特殊メイクの番組が放映されているのを見て、「これをマスターすれば、なんでもつくれるようになれそう」と思ったのが、この道に進んだきっかけでした。そこから特殊メイクの技術をマスターして、さらにいろんな素材を用いながら、制作の幅を広げていったという感じです。
MOLp:特殊メイクでは制作する際に型を使いますよね。
JIRO:そうです。型さえつくることができれば、さまざまな素材を流し込むことができ、あらゆる造形作品をつくり出すことが可能です。特殊メイクをやっていたら、逆になんでもつくれるようになるんですよ。
でも、その際に僕が大切にしているのは「リアルを追求すること」です。リアルを追求してきたからこそ、デフォルメされたキャラクターの造形にも応用が利き、完成度の高いものをつくることができます。さらに、人体の構造を知ったうえで生地素材を扱うので、特殊な衣装なども制作できます。
MOLp:特殊メイクというと映画のイメージが強いですが、JIROさんはバラエティ番組やファッションなど幅広いジャンルで制作活動を行なっていますよね。
JIRO:素材はもちろん、ジャンルにも縛られずにものづくりをしたいという思いが強かったんです。僕が特殊メイクアーティストになった20年ほど前は、特殊メイクが使われる現場はまさに映画が中心でしたが、ほかのメイクアーティストが「これはできない」という難しいお題にも果敢に挑戦してきたことで、ジャンルの垣根を越えられるほどの応用力が身についたのだと思います。
また、求められるスキルや使用する素材のバリエーションが増えたことで、仕事の幅も広がっていきましたね。じつは同じメイク業界でも、特殊メイクとビューティーメイクでは大きな隔たりがあるんです。たとえば、ボディ・フェイスペイントのベース塗料であるドーランは何年も仕様が変わらないのに、ビューティーで使われる化粧品は日々進化しています。
両方理解しているからこそ、それぞれのメイク素材をミックスさせると面白いんじゃないかと考え、独自に使い分けながらユニークなメイク作品に挑戦し、SNSで発信していきました。それがきっかけでファッションブランドから「コレクションのメイクをディレクションしてほしい」というオファーをいただくようになり、ファッションの分野にも広がっていったんです。