そざいんたびゅー

スーパー・ササダンゴ・マシンの金型工場に突撃。
製造の奥深さやプラモ開発の展望を訊く

  • Social

取材・執筆:榎並紀行 写真:タケシタトモヒロ 編集:吉田真也(CINRA)

プラモデルは、金型メーカーからすると夢のような商材

MOLp:スーパー・ササダンゴ・マシン、つまり社長ご自身のプラモデル「通称:ササプラモ」の自社開発は、いつ頃から構想していたのでしょうか?

ササダンゴ:2010年に坂井精機へ入社した頃から、なんとなくは考えていましたね。自社製品をつくるなら、プラモデルがいいんじゃないかと。一般的なプラモデルって、さまざまなパーツがつながった「ランナー」と呼ばれる状態から、自分でパーツを切り離して組み立てていきますよね。じつは、あのランナーでパーツがつながっている状態って、金型から出てきたそのままの形なんですよ。

プラモデル以外の商品って、パーツを切り離して組み立て、塗装し、包装して初めて売れるわけですよね。でも、プラモデルは金型から出てきたものが商品になって、最も手間がかかる組み立てや塗装作業は、お客さま自身が楽しんでやってくれる。金型メーカーからすれば、夢のような商材です。

「ササプラモ」1/12スケール スーパー・ササダンゴ・マシン プラモデル(公式サイトで商品を見る

MOLp:プラモデル開発において、特にこだわった点はありますか?

ササダンゴ:そもそも、自社製品をつくる目的の一つは、うちの技術をPRするためでした。そのため、この「ササプラモ」では、普通のプラモデルではやらないような、難しいことにあえて挑戦しています。たとえば、パーツ同士を結合する「ピン」と呼ばれる部分。某有名プラモデルの場合、ピンの細さは1.5mmから2.3mmくらいですが、ササプラモは精密な金型技術を活かして、それより0.5mmずつくらい細くしています。

MOLp:なるほど。ただ正直、プラモデルとしては、太いピンのほうがつくりやすそうな気もするのですが……。

ササダンゴ:おっしゃる通り。実際、普通のプラモデルのピンは太く短い傾向にありますが、うちは逆に「細く長く」を追求しました。それにより、坂井精機の技術力はアピールできると思ったんです。ですが、プラモデルを組み立てる側にとっては迷惑な話で(笑)。

特にプラモデルを塗装する人は、いったんすべて組み上げてから解体する「仮組み」という工程を挟むのですが、それを繰り返しているうちに細いピンだと先が曲がったり、潰れてしまうことがあるんですよね。ですから、現在の在庫分については、組み立てまでこちらで行なってお客さまにお届けすることも多いです。また、ピンを太く短くする方向で、金型の改良も検討しています。

プラモデルで「敵役」をつくり、のちに実写化したい

MOLp:当初の目的だった「技術のアピール」と「プラモデルとしてあるべき姿」をどう両立するか……悩ましい問題ですね。ちなみに、ほかに技術面で苦労したポイントはありますか?

ササダンゴ:金型の技術はあっても、プラモデルづくりのノウハウはまったくないところからのスタートでしたので、最初はわからないことだらけでした。

たとえばマスクの部分。私のマスクは緑、黒、紫、黄色、白の5色が使われているのですが、これを再現するには合計10個の部品に分けないといけなくて。マスク1つを組み立てるのに、そんなにパーツが必要なのかと。自分が覆面レスラーであることを呪いましたね。ほかにも課題は山積みで、発売予定日の2日前まで金型の調整をしていました。

MOLp:ただ、そんな苦労の甲斐もあって、売上は好調だそうですね。

ありがたいです。ただ、気づいてしまったんですけど、こうしてプラモデル化してしまうと、私自身のコスチュームやデザインを変えられなくなってしまうんですよね。モテたいからダイエットしたくても、このプラモと同じ体型を維持しないといけない。プロレスラーしてのリアルな活動のほうに、若干の支障が生じています。

MOLp:今後のプラモデル開発の展望はありますか?

ササダンゴ:ササプラモは現時点で3,000個を出荷していますが、目標は1万個です。そんなに売れるわけがない気もしますが、モデルチェンジを加えつつ少しでも目標に近づけたいなと。

あとは、第2弾、第3弾のプラモデルも考えています。まずは、スーパー・ササダンゴ・マシンの「敵役」をオリジナルでつくりたいですね。そして、その敵役のプロレスラーを実写化というか実体化して、私と一緒に全国のホビーショップを回ってプロレスしながら、お互いのプラモデルを売り歩きたいです。

MOLp:アニメのキャラクターからリアルなプロレスラーが生まれたケースはありますが、プラモデル発でリアルなプロレスラーが誕生するというのは聞いたことがありません。

ササダンゴ:そもそも、普通はアニメや漫画、ゲームのキャラクターがプラモデルになるわけですからね。でも、われわれはアニメやゲームをつくるお金がないので、その逆でいこうと思っています。

幸い、私はプロレスとプラモデルをつくることができて、周りにはレスラー仲間がたくさんいます。そのレスラーたちに「ササプラモ」のキャラクターに紛争してもらい、全国を巡業したい。アニメ化はできないけど、プロレス化ならできる。もしかしたら、これが坂井精機の一番の強みになるかもしれません。

MOLp:そうなると、プラモデル事業が本格的に拡大していきそうですね。

ササダンゴ:プラモデル事業というか、「プラモデルの金型事業」をやりたいですね。プラモデルの販売ではなく、もはやそのランナーをつくる「金型」自体を販売したいです。

冗談ではなく、今後は自分が好きなキャラクターを「金型で保有する時代」がやってくると思うんですよ。いま、NFTが流行ってるじゃないですか。金型は世界に一つしかないので、ある意味NFTだと思っていて。技術と設備がなければコピーできないし、なおかつ金型があればいつでも成形ができる。金型こそ最高のNFTです!

あわよくば、プロレス団体に5億円で自社を買い取ってもらいたい

MOLp:そこまで断言されると、そんな気がしてきました。では、坂井精機とスーパー・ササダンゴ・マシンの今後の展望を聞かせてください。

ササダンゴ:まずは「ササプラモ」発のレスラーを増やして、新しい団体を立ち上げたい。その後は、その団体やスーパー・ササダンゴ・マシン、なんなら坂井精機ごと、国内外のメジャーなプロレス団体に買い取ってもらいたいです。大きなプロレス団体はたくさんあるのにどこからも声がかからないのはおかしいですよ。金型がつくれるプロレスラーなんて、ほかにどこにもいないのに。

MOLp:たしかに、唯一無二です。

ササダンゴ:だって、いまうちを買えば所属プロレスラーの金型ビジネスを独占展開できるんですよ。世界的なレスラーの契約金から考えれば、5億も出せば買える新潟の中小の金型メーカーなんて安いもんです。いや、5億もいらない。半分の2億5,000万円で大丈夫です。

MOLp:どこまで本気かわからないのですが、思いは伝わりました。

ササダンゴ:いずれにせよ、経営者としてもプロレスラーとしても、私はまだまだ未熟だと思っています。いつか本当に「坂井精機ごとスーパーササダンゴマシンが欲しい」って言ってもらえるくらいまで、社長としてレスラーとして頑張るしかないですね。

PROFILE

スーパー・ササダンゴ・マシンSuper Sasadango Machine

1977年、新潟県出身。早稲田大学在学中からDDTプロレスリングに参加し、2004年にマッスル坂井としてデビュー。2010年に現役引退したものの、2012年スーパー・ササダンゴ・マシンとして新潟プロレスに参戦。「新潟在住の謎のマスクマン」としてDDTプロレスリングにスポット参戦するなか、「煽りパワポ」が話題に。Eテレ『NHK高校講座 社会と情報』やTBS『水曜日のダウンタウン』など数々のテレビ番組にも出演。現在、DDTプロレスリングに準所属しながら、家業である坂井精機株式会社の代表取締役を務めている。