食品パッケージにマスバランス方式のバイオマスプラを採用
マスバランス方式で初のエコマーク取得
日本生活協同組合連合会
ブランド戦略本部 サステナビリティ戦略室 サステナビリティ戦略担当
設楽良昌(したら・よしまさ)

日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)は、全国の各生活協同組合(以下、生協)や連合会が加入する全国連合会で、全国の生協の中央会的役割を果たしている。さまざまな団体と交流しながら生協への理解を広げ、社会制度の充実に向けた政策提言などを行ったり、コープ商品の開発と会員生協への供給、会員生協の事業や活動のサポートなどを通じ、生協の発展を支えている。

POINT
  • マスバランス方式により食品パッケージのバイオマス度を高めることに成功
  • マスバランス方式で初の「エコマーク認定」を取得
  • 新たな考え方を定着させるには「馴染み」や「分かりやすさ」が重要

日本生協連の食品パッケージにマスバランス方式のバイオマスPP採用

三井化学グループでポリオレフィン(ポリプロピレンとポリエチレンの総称)の製造・販売を行っている株式会社プライムポリマー(以下、プライムポリマー)は、2022年3月、日本で初めてバイオマスポリプロピレン(以下、バイオマスPP)の商業生産・出荷を開始。このバイオマスPP「Prasus®」(プラサス)には、マスバランス方式が採用されている。

マスバランス方式とは、原料を加工して製造する過程において、ある特性をもつ原料が混合される場合に、その原料の投入量に応じて、製造されたものの一部にその特性を割り当てる方法だ。例えば、バイオマス由来の原料3トン、石油由来の原料7トンを混ぜ合わせた10トンの原料から製品を作ったとする。その場合、完成した製品のうち3トンを「100%バイオマス由来」と見なすことができる。

日本生協連はこのマスバランス方式のバイオマスプラスチックに着目し、2023年7月、同連合会から発売される食品「CO・OP 味付のり10切90枚」のパッケージに「Prasus®」を採用することを発表した。

今回は日本生協連のサステナビリティ戦略担当である設楽良昌さんに、バイオマスPP「Prasus®」の採用に至った背景や、これからの可能性・目指したい理想の未来について伺った。

マスバランス方式普及のカギは「エコマーク認定」

公益財団法人日本環境協会エコマーク事務局は、2023年2月、マスバランス方式のバイオマスプラスチックを使用した包装容器を対象とし、いち早く「バイオマス由来特性を割り当てたプラスチックを使用したプラスチック製容器包装」のエコマーク認定基準を制定。

「Prasus®」を使用した日本生協連の「CO・OP 味付のり10切90枚」は、この「バイオマス由来特性を割り当てたプラスチックを使用したプラスチック製容器包装」として初のエコマーク認定商品となった。

Photo by Masato Sezawa / IDEAS FOR GOOD

なぜ日本生協連は、マスバランス方式のバイオマスプラスチックに関するエコマーク認定取得を積極的に取得しようとしたのだろうか。

設楽さん「マスバランス方式を社会に定着させていくには、エコマーク認定がふさわしい、取るしかないと思いました。生協の組合員には、マスバランス方式とはなにかが伝わりづらい部分があります。ISCC PLUS認証(持続可能性カーボン認証)もありますが、馴染みのない人が多いです。一方、エコマーク認定は組合員の方にも馴染みがあり、分かりやすいですよね。今後も、マスバランス方式のバイオマスプラスチックを使用したエコマーク認定の取得を拡大していきます」

設楽さんの言葉の通り、2023年11月には、マスバランス方式によりバイオマス由来特性を割り当てたプラスチックパッケージの「牛乳焼きドーナツ」を含めた4商品が日本生協連から発売されている。

Photo by Masato Sezawa / IDEAS FOR GOOD

エシカル消費は「誰かの笑顔に繋がるお買い物」

生協は、サステナブルな取り組みを積極的に推進しており、2021年には「生協の2030環境・サステナビリティ政策」を制定。この政策には10の行動指針があり、エシカル消費拡大、脱炭素化、資源循環、生物多様性保全や人権尊重などの項目で構成されている。

image via日本生協連

設楽さん「現在商品パッケージの多くにプラスチックが使用されていますが、全国の生協で取り組む目標には、2030年までに使い捨てプラスチック製容器包装の使用量を2018年度比で25%削減するというものがあります」

日本生協連では「コープ商品の2030年目標」を設定。農産・水産・パーム油など6つの項目ごとに具体的な目標を掲げており、その項目の一つに「プラスチック」がある。

Photo by Masato Sezawa / IDEAS FOR GOOD

設楽さん「『コープ商品の2030年目標』では、先ほどの容器包装使用量を25%削減することに加え、2030年までに再生プラスチックとバイオマスプラスチックの使用率を合計で50%以上にする目標があります」

プラスチック使用量の削減に向けて、コープ商品ではペットボトルの軽量化やラベルの削減、プラスチック容器から代替容器への切り替え、詰替え商品の拡充、バイオマス素材を利用したパッケージを拡大している。今回の「Prasus®」の採用もその一環だ。また、再生プラスチックを使用したペットボトルの導入や、生協で回収したペットボトルをコープ商品のパッケージ原料の一部に使用する取り組みも進めている。

設楽さん「持続可能な世界の実現に向け、コープ商品を通じてエシカル消費を呼びかけています。エシカル消費のことを日本生協連では『誰かの笑顔に繋がるお買い物』と呼んでいます。地域や環境、社会に配慮して物を買ったりサービスを利用したりすることを、積極的に応援していきたいです」

サプライチェーンを繋げていくことで、社会を変える力になる

素材の素材からカーボンニュートラルを目指す三井化学グループと、パッケージを通じてエシカル消費を呼びかける日本生協連。今回の取り組みは、マスバランス方式やバイオマスプラスチックを世の中に広める大きなきっかけの一つと言える。

パッケージを一つ作る時、原料を作る企業、加工する企業、印刷する企業、パッキングする企業、そして商品を販売する企業……商品が私たちの手に届くまでに、サプライチェーンを構築するさまざまなプレイヤーがいる。サプライチェーンの中のプレイヤーの一つが、三井化学やプライムポリマーであり、日本生協連である。

左から)
プライムポリマー 企画管理部 サーキュラーエコノミー推進室室長 箔本さん
プライムポリマー 企画管理部 サーキュラーエコノミー推進室 バイオチームリーダー 沈さん
日本生活協同組合連合会 ブランド戦略本部 サステナビリティ戦略室 サステナビリティ戦略担当 設楽さん
Photo by Masato Sezawa / IDEAS FOR GOOD

素材を環境負荷の低いものに変えることは、未来の地球のためによいことだろう。しかし、生活者からは直接的には見えづらい素材のことを自分事として捉えるのは簡単ではない。日本生協連の設楽さんは、まずはマスバランス方式やバイオマス素材に対する認知や理解を広めることが重要だという。

設楽さん「『マスバランス方式のバイオマス素材のパッケージ』と言っても理解しづらい部分があると思います。少しでも理解してもらうきっかけとなるよう、資料なども用意していきたいと思います。生協は組合員の暮らしの願いを実現するために存在しています。よりよい未来の暮らしのためには、環境負荷を減らしていくことが重要です。コープ商品が、その重要性に気づくきっかけになったら嬉しいですね」

「バイオマス」や「マスバランス方式」と聞いて、難しいと感じる人は多いかもしれない。しかし、実際に調べてみると、思っていた以上にすんなりと理解でき、持続可能な社会の実現のためには、大切な一つの選択肢であることが分かる。

エコマークのように、「気づくきっかけ」となる仕組みを作っていくことで、その小さな積み重ねが、後の選択を変えるポテンシャルを秘めているのではないだろうか。

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