RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォームを活用
リサイクル素材のトレーサビリティを確保
石塚化学産業株式会社
代表取締役社長 石塚勝一(いしづか・かついち)

石塚化学産業は、1954年創業のプラスチックリサイクルメーカー。創業当初より、プラスチックのマテリアルリサイクルに携わり、同分野における日本国内で最も歴史ある会社とも言われている。現在は着色・コンパウンド事業、商社事業、リサイクル事業の3つの柱でプラスチックの新たな価値の創造に取り組んでいる。

POINT
  • トレーサビリティの確保により、リサイクル素材を安心して使用できる
  • 廃プラスチックの発生から再利用まで一貫して情報管理することができる
  • メーカーだけでなく消費者の品質や安全性に対する不安解消につながる

「誰が、いつ、どこで、どのように」製品を作ったのかを明らかにするため、原材料の調達から生産、そして消費や廃棄の過程まで追跡できる状態にすることをトレーサビリティと言う。近年、さまざまな製品においてトレーサビリティが求められている。そんななか、今重要視されつつあるのが、「リサイクル素材」のトレーサビリティだ。

この「リサイクル素材のトレーサビリティ」の実現を目指して、三井化学株式会社(以下、三井化学)は、「RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォーム」というサービスを始めた。ブロックチェーン技術を活用し、リサイクル素材のトレーサビリティを担保、出自を可視化させ、「安心・安全」を提供することで、リサイクル素材の使用を促す取り組みだ。

今回は同プラットフォームの活用を始めた石塚化学産業株式会社(以下、石塚化学産業)代表取締役社長の石塚勝一氏に、三井化学と一緒に作りあげていきたい未来についてお話いただいた。

廃棄物の回収からプラスチック原料になるまでを追跡する「RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォーム」

三井化学は2022年、バイオマスでカーボンニュートラルの実現を目指す「BePLAYER®︎」とリサイクルによるサーキュラーエコノミー型社会の実現を目指す「RePLAYER®︎」という2つのソリューションブランドを立ち上げた。

「RePLAYER®︎」では、マテリアルリサイクル促進に向けた設計の提案や、ケミカルリサイクルの検討を行っている。そのなかで開発されたのが、今回の「RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォーム」である。

ブロックチェーンとは、情報を記録するデータベース技術の一つ。ブロックという単位でデータを管理し、それを鎖(チェーン)のようにつなげてデータ全体を保管する。データの改ざんや破壊の難しさや、障害によるシステム停止の可能性が低いことから、信頼性が高いとされている。

三井化学の「RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォーム」は、そんなブロックチェーン技術を活用し、リサイクル素材のトレーサビリティを担保、出自を可視化しており、リサイクルの由来や経緯、在庫量などがわかるようになっている。リサイクルの由来となった商品がいつ回収され、どのような経緯でマテリアルリサイクルされたのかが一目でわかる。

他にも、ブロックチェーンシステム上には、さまざまな情報を付与させることが可能。例えば環境貢献係数としてc-LCAのデータも見ることができる。

c-LCAとは「carbon-Life Cycle Analysis(カーボンライフサイクル分析)」の略で、原料の製造から利用、廃棄までの化学製品のライフサイクルにおけるCO2排出量を定量化し、評価したものだ。

日本では、2022年4月に「プラスチック資源循環促進法(プラスチック新法)」がスタート。プラスチック新法では、プラスチックのライフサイクル全般に関わる事業者や自治体に対して、3R(Reduce + Reuse + Recycle)にRenewable(再生可能な資材に置き換える)を意識した取り組みを求めている。このような社会の動きもあり、事業者はこれまで以上に、素材のトレーサビリティに注目している。

リサイクル素材に本気で取り組む大手企業は少なかった。だから三井化学の挑戦に賛同した

石塚化学産業は、1954年創業のプラスチックリサイクルメーカーだ。創業当初より、プラスチックのマテリアルリサイクルに携わり、日本国内で最も歴史ある会社とも言われている。着色・コンパウンド(※1)事業、商社事業、リサイクル事業の3つの柱で、プラスチック資源の有効活用に取り組んできた。

※1 添加剤などを混ぜることで新しい物性や機能をもつ樹脂に加工すること

そして2022年2月、三井化学のRePLAYER®ブロックチェーンプラットフォームを石塚化学産業が活用することを発表。株式会社ツルオカがリサイクル素材の原料となる使用済み製品の回収や解体を行い、石塚化学産業がトレーサビリティ情報が付与されたリサイクル素材の製造と販売を担う。

石塚さん「2020年ごろに、三井化学さんからRePLAYER®ブロックチェーンプラットフォームのお話がありました。今まで大企業がリサイクル素材に対して本気で取り組むケースは少なかったこともあって、『ぜひやりましょう』とお返事しました。ただ、お話をいただいた当初はDXという言葉の意味を理解できていなくて。まずはDXとは何か、というところから教えてもらいました」

Photo by Masato Sezawa / IDEAS FOR GOOD

2022年10月には、第二段として三井化学グループである株式会社プライムポリマーの樹脂袋リサイクルの実装に向け、三井化学とプライムポリマー、石塚化学産業の3社が連携した実証実験の取り組みを表明。2023年度からはプラットフォーム上で実験をスタートする計画であり、サーキュラーエコノミー型社会の実現に向けた具体的な第一歩として期待されている。

トレーサビリティが必要となる社会はすぐに来るかもしれない

RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォームを活用した取り組みを始めて、取引先や顧客からはどのような反応があったのだろうか。

石塚さん「RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォームには大手の企業ほど反応してくれている印象です。やはり必要性を感じているのでしょう。ただ、今はまだ関心を寄せている企業が多いという段階です。しかし、今後はトレーサビリティが確立された状態、RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォームが必要不可欠になる社会になるだろうと思っています」

ヨーロッパでは2019年5月の「特定プラスチック製品の環境負荷低減のための指令」において、製品の再生プラスチックの含有率を規定。例えば、PETが使われている飲料用ボトルは25%以上、その他のプラスチックボトルについては、2030年以降には30%以上の含有率が必須となった。

石塚さん「今後はペットボトルなどの容器以外にも家電や車なども、リサイクル素材の含有率が問われてくると予見しています。これは大手家電メーカーのホームページなどを見ても、行動目標として掲げていることから、そのような未来は予想できます。

今は、我々が活用している三井化学さんのRePLAYER®ブロックチェーンプラットフォームで対応しているリサイクル素材の種類は少ないですが、今後は取り扱いの素材の範囲を拡大していきたいと考えています。

日本はメーカーも消費者も、安全性や品質に非常にこだわっている。それは逆に言うと、リサイクル素材に対しては不安を持っている部分があるという解釈もできる。そのような不安に対しても、トレーサビリティを確立させることで、安心して選んでいただけるようになるのではと期待しております」

リサイクル素材の利用拡大に重要なのは「トレース情報の粒度」

左)三井化学 執行役員 デジタルトランスフォーメーション推進本部 副本部長 浦川さん
右)石塚化学産業 代表取締役社長 石塚さん
Photo by Masato Sezawa / IDEAS FOR GOOD

RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォームは、リサイクル素材の安全性や透明性を高める上で重要な役割を担うだろう。より多くの企業、我々消費者がリサイクル素材をより活用するためには、何が必要なのだろうか。

石塚さん「廃プラスチックは一般家庭や企業など、さまざまなところから出ています。そして廃棄物収集業者さんがそれらを引き取って処理します。トレーサビリティを確立するためには、発生から使用まで一貫して情報管理していく必要があり、その都度データを正確に入力する必要があるのですが、実際、データを一つずつ入れていくのは非常に困難です。

今後はどこまでの情報を入力すべきか、リサイクル素材の出し手・受け手における要求レベルを精査していくことも必要になりますね。入力する情報が増えればその分手間は増えるので、コストアップも課題の一つです。リサイクル素材を扱っていただける企業さんが、どこまで向き合ってくれるかも大切です」

プラスチック循環利用協会が発表しているプラスチックマテリアルフロー(※2)によると、2020年の国内樹脂生産消費量は822万トン。そのうち、リサイクルされているものは約200万トン(マテリアル&ケミカルリサイクル)なので、約24%のプラスチックがリサイクルされていることになる。

※2 プラスチック循環利用協会「プラスチックリサイクルの基礎知識 2022」より

左)三井化学 執行役員 デジタルトランスフォーメーション推進本部 副本部長 浦川さん
右)石塚化学産業 代表取締役社長 石塚さん
Photo by Masato Sezawa / IDEAS FOR GOOD

石塚さん「「ヨーロッパでは製品のリサイクル素材の利用率が30%以上です。もし、日本も同じ状態を目指そうとする場合、今のリサイクル率では全く足りません。

足りない分を補うためには、リサイクルされていないものをリサイクルする必要があります。石塚化学産業の場合だと、リサイクルしにくいものをいかに使用しやすいリサイクル素材にするのかという課題を解決しなければなりません。

そのために必要なのが、リサイクルを可能にする装置と技術。三井化学さんの総合化学メーカーとしての知見と弊社が長年積み重ねてきた実績を掛け合わせて、リサイクル出来るモノの範囲を広げていきたいです。

三井化学さんは石油化学業界の中では大きな存在です。そんな三井化学さんのサーキュラーエコノミー型社会の実現に対する動きというのは、石油化学業界に大きなインパクトを与えると思っています。今後も、安心安全なプラスチック素材を一緒に作り上げていきたいですね」

資源をなるべく捨てないようにしようと考えるとき、「リサイクルすればよいじゃないか」と考える人もいるかもしれない。しかし、リサイクルというのは使用後の回収、洗浄、再製造などさまざまな企業や人の力の協力により、初めて実現するもの。一言で片付けられるほど簡単ではない。

特にプラスチックは、私たちの身の回りのあらゆるものに使われており、種類もさまざまあるため、プラスチックのリサイクルは金属や布、紙などのリサイクルとは違う難しさがある。

三井化学や石塚化学産業の取り組みは、リサイクルプラスチックがより使いやすいエコシステムになるための第一歩だとも言える。RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォームを活用しながらリサイクルの幅を広げ、リサイクルが当たり前の社会にするため、より多くの方がこの活動の輪に加わってもらえるよう、今後も取り組みを強化していく方針だ。

左)三井化学 執行役員 デジタルトランスフォーメーション推進本部 副本部長 浦川さん
右)石塚化学産業 代表取締役社長 石塚さん
Photo by Masato Sezawa / IDEAS FOR GOOD
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