人だけでなく、地球も健康に。グローバルコンシューマーヘルスケア企業が「ハミガキチューブ」の素材転換を語る
グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン株式会社
ノースアジア テクニカルパッケージング&アートワーク マネージャー/ノースアジア サステナビリティ リード
山本輝樹(やまもと・てるき)

オーラルヘルスケア製品やOTC医薬品(ドラッグストアなどで自分で選んで購入できる薬)などの製造・販売を行うグラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン株式会社(以下、GSKコンシューマー・ヘルスケア)。
GSKコンシューマー・ヘルスケアは、コンシューマーヘルスケア分野における世界的企業「Haleon(ヘイリオン)」の日本法人で、イギリスに本社を有している。「Deliver better everyday health with humanity.(もっと健康に、ずっと寄りそって)」というパーパスを掲げ、日本国内では「シュミテクト」「カムテクト」「ポリデント」などのオーラルヘルスケア製品や「コンタック」「フルナーゼ」などのOTC医薬品を展開している。

POINT
  • マスバランス方式のバイオマスプラスチックは環境負荷低減と安全性・品質の両立が可能
  • 循環型社会の実現には、企業の垣根を超えた協力が必要
  • 環境に配慮した製品の開発は、我々の世代がやらなければいけない

GSKコンシューマー・ヘルスケアのハミガキチューブのキャップにマスバランス方式のバイオマスPP採用

GSKコンシューマー・ヘルスケアは、2023年3月にサステナブルなハミガキチューブの導入を発表。オーラルヘルスケアブランドの「シュミテクト」「カムテクト」「アクアフレッシュ」において、これまでのプラスチックとアルミの組合せといった複合素材ではなく、世界で最もリサイクル可能なプラスチックの一つであるポリエチレンを主成分としたラミネートチューブへと切り替え、その他のブランドでも順次変更を進めている。

さらに2024年3月出荷分以降、GSKコンシューマー・ヘルスケアのハミガキチューブのキャップにマスバランス方式のバイオマスPP(ポリプロピレン)「Prasus®」を順次使用開始している。「Prasus®」は、三井化学と出光興産の合弁会社であるプライムポリマーが製造・販売を行うバイオマスナフサを原料としたマスバランス方式のバイオマス素材だ。

※ バイオマスナフサ:再生可能なバイオマス(植物など生物由来の有機性資源)から生成された炭化水素混合物。バイオディーゼルやSAF(バイオジェット燃料)をつくるときの副産物として得られ、そこからつくられるバイオマスプラスチックの物性は石油ナフサ由来のプラスチックと同等。

GSKコンシューマー・ヘルスケアのハミガキチューブのキャップ

今回はGSKコンシューマー・ヘルスケアの山本輝樹さんに、バイオマスPP「Prasus®」の採用に至った背景や、環境負荷低減に向けた取り組みについて伺った。

「Prasus®」に感じた可能性
~環境負荷低減と安全性・品質の両立~

GSKコンシューマー・ヘルスケア
Photo by Masato Sezawa / IDEAS FOR GOOD

山本さん「一般的なハミガキ剤には、石油由来のプラスチックが使われることがほとんどです。しかし環境負荷の低減に貢献するためには、やはり何かしらのアクションを起こさなきゃいけないと思ったんです。

そこで考えたのが、ハミガキチューブのサステナブルパッケージ化でした。他社がやっていない、市場がやっていないという理由で何も対策をしないということは選択肢にありませんでした」

そこで新たに目をつけたのがハミガキチューブに使用されるキャップだった。

これまでもハミガキチューブを軽量化したり外箱に再生紙を利用したりするなどの工夫をしてきたが、それだけでは限界があった。そこで取り組んだのが、素材のバイオマス化だ。

山本さん「実はハミガキ剤のキャップはパッケージ全体のうち大きな重量割合を占めるのですが、これまでは石油由来のプラスチックを多く使っていました。ここも何とかしたい、という会社の思いがあったんです。

そんな時に出会ったのが、プライムポリマーさんの『Prasus®』でした。ある展示会に、プライムポリマーさんのブースがあり、そこで環境負荷低減への熱心な思いや素材の特徴を伺いました」

プライムポリマーの新素材「Prasus®」に可能性を感じた山本さんは、ハミガキチューブのキャップに利用できないか、検討を始めたという。開発開始から製品として使われるようになるまで、1年ほど試行錯誤を繰り返した。

山本さん「ヘルスケアの企業なので、生活者の方の健康に貢献することが一番の目的です。そのため、安全性と品質が担保されていることが大前提です。

落下などで割れてしまってはいけませんし、そもそも成形時にクラックが発生したり成形不良率が高くなってしまってもいけません。キャップを開ける堅さ・柔らかさや力の入れ具合もテストが必要で、さまざまなサンプルを社内で60人くらいに使ってもらい検証しました。毎日使うものだからこそ、細かな配慮が必要です。

特に、機能性や使い勝手は、日本の方が大切にしている部分かもしれないですね。例えば、ヨーロッパの場合はハミガキ剤の容量も大きいですし、キャップも日本のように様々なキャップが使われるわけではなく、スクリュータイプがほとんどです」

人と地球が健康であるための「マスバランス方式」

GSKコンシューマー・ヘルスケアが今回キャップに使用した「Prasus®」は、マスバランス方式のバイオマスPPだ。

マスバランス方式とは物質収支方式のことで、原料を加工して製造する過程で、ある特性をもつ原料が混合される場合に、その原料の投入量に応じて、製造されたものの一部にその特性を割り当てる方法のこと。(バイオプラスチック導入ロードマップ:環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省:令和3年1月策定)

例えば、バイオマス原料を7kg、石油由来の原料を3kg混ぜて、10kgの製品ができた場合、完成した製品のうち7kg分をバイオマス100%とみなすことができる。Inputのバイオマス量とOutputのバイオマス量が等量(※1)になるよう割当を行うことができるスキームだ。

※1 実際には生産時のロスなどもあるため、Output量はInput量よりも少ない割当量となる。

マスバランス方式の特徴として、素材の物性、品質や耐久性などは従来のものと同等にすることができる。また、新設備を用意する必要がなく追加の設備投資をかけずに製品をバイオマス化できる。このような理由から、プラスチック業界を中心に、マスバランス方式への注目が集まっている。

しかし、多くのメリットがある一方、課題もあると山本さんは語る。

山本さん「生活者にとって、マスバランス方式はイメージしにくいでしょう。認知度が低い中で、マスバランス方式が環境に貢献できることを知ってもらう必要があります。我々の製品を使うことで、どのように地球に貢献できるのかを知ってもらうことが、一番の課題です。

社内に対してもマスバランス方式に対する理解を得ることは課題だと思います。ただ、いきなりマスバランス方式について説明しても混乱させてしまうので、まずは共通の目標を持ち、ベクトルを合わせることを大切にしています。その上で、マスバランス方式のコンセプトを直接説明したり、外部の方に説明に来ていただくこともあります。まずはこのように率先して、社員一人ひとりを巻き込んでいきたいです」

GSKコンシューマー・ヘルスケアのパーパスは「もっと健康に、ずっと寄りそって」。人や地球の健康のためにも、マスバランス方式の採用は、必要不可欠だという。

山本さん「『もっと健康に、ずっと寄りそって』には、人だけでなく地球も同じように健康でなければならない、という思いも込められています。地球が健康でないと、人も健康になれません」

目指すのは「石油由来のバージンプラスチックを使わない世界」

GSKコンシューマー・ヘルスケアは、環境負荷低減への取り組みとして「炭素排出への取り組み」「パッケージをより持続可能なものに」「信頼できる原材料を持続可能な方法で調達する」という3分野を掲げている。

さらにパッケージ分野では「2030年までに石油系バージンプラスチックの使用を2020年基準値の3分の1に削減する」「安全性、品質、規制が許す限り、2030年までにすべての製品パッケージをリサイクル可能または再利用可能にする」「パートナーと協力して、2030年までにパッケージを収集、分類、リサイクルするためのグローバルおよびローカルのイニシアチブを推進する」という具体的な目標を掲げている。

山本さん「環境負荷削減における3分野の取り組みは、我々の世代が取り組まなければいけない必須事項だと思っています。

グローバル企業としては、自社工場でのカーボンニュートラルなど様々な取り組みは行っていますが、日本法人では日本においては一番環境に貢献できる部分はパッケージだと考えて取り組んでいます」

具体的には「石油由来のバージンプラスチックを削減し、リサイクル可能な包装資材に変えていく」という方向性のもと、石油由来のバージンプラスチックを2025年までに10%、2030年までに33%を削減するという数値目標を設定しているという。

山本さん「最終的には、石油由来のバージンプラスチックを使わない世界が理想です。そのような世界の実現に向けて、グローバル企業でもある弊社が日本の中でも率先して努力していきたいです」

循環型社会の実現には、垣根を超えた協力が必要

石油資源を使い続けることは、炭素を排出し続け、気候変動につながる。また資源は有限で、いずれ枯渇する。より良い状態で地球環境を保つためには、循環型社会の実現が必要不可欠だと山本さんは語る。

山本さん「石油由来のバージンプラスチックを使わない社会、循環型社会が当たり前になるのが理想です。他の企業さんとお話していく中でも、実際に業界の変化は感じます。石油由来のバージンプラスチックの削減やリサイクル素材に置き換えていくなどの目標を掲げる会社は増えたと思います。あとはそれらを実践していくだけです。

ただ、我々の企業だけでは循環型社会の実現は絶対に成し遂げられません。三井化学グループ様をはじめ、他社との協業、垣根を超えた取り組みがとても重要になってきます。技術を自社だけに留まらず横展開することで、日本全体、世界全体で取り組んでいきたいです」

これまでは環境負荷低減の取り組みがそれほど進んでいなかったハミガキ剤のパッケージにサステナブルな素材を用いるなど、リーディングカンパニーとして積極的に取り組むGSKコンシューマー・ヘルスケア。その背景には、人々の健康を願う強い思いがある。人々が健康であるためには、地球も健康でなければならない。それが環境負荷低減に取り組み続ける理由だ。

GSKコンシューマー・ヘルスケア 山本さん
Photo by Masato Sezawa / IDEAS FOR GOOD

山本さん「我々が取り組んでいる環境に配慮したパッケージの開発は、次世代のためにも、我々の世代がやらなければいけない。我々自身も含めて、生活者一人一人が未来をより良いものに変えていくという意思と責任を持つことが重要だと思います。

そのためにも、我々の製品を使っていただくことで、環境負荷低減に貢献しているということを実感していただけるよう頑張りたいと思います」

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