向けた重要な考え方
「マスバランス方式」とは?
原料から製品への加工・流通工程において、ある特性を持った原料(例:バイオマス由来原料やリサイクル原料)がそうでない原料(例:石油由来原料)と混合される場合に、その特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性の割り当てを行う手法。
出典:バイオプラスチック導入ロードマップ(環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省)(令和3年1月策定)
「マスバランス方式」とは、製品を作る際の一つの手法のことです。
たとえば、バイオマス由来の原料3トン、石油由来の原料7トンを混ぜ合わせた原料から生産したプラスチックが10トンあるとします。配合率の観点で見ると、このプラスチックはバイオマス由来成分が30%含まれた10トンのプラスチックです。
これに対し、マスバランス方式では、その名前の通り「入りと出」を量の単位でバランスさせることにより正確性を担保させるしくみ(物質収支方式)です。そのため、この10トンのプラスチックのうち「3トンを100%バイオマス由来のプラスチック」として割り当て、残りの「7トンは石油由来のプラスチック」と割り当てます。
このようにバイオマス由来の原料と石油由来の原料が製造工程において混合して作られた場合、マスバランス方式を活用すれば、投入したバイオマス由来の原料の量に応じて、できあがった製品の一部を「100%バイオマス由来」と見なすことができます。つまり、混合してできあがった製品の一部を「ある特性を100%持つと見なすことができる」とするのが、マスバランス方式のポイントです。そうした割り当てが正しく行われているかという信頼性を担保するためには、ISCC PLUSなどの外部の国際認証機関の監査と認証を取得することが望ましいです。
マスバランスとその類似の手法は、すでに多くの産業で活用されており、例えば紙パルプ産業で普及しつつあるFSC認証(国際的な森林認証制度)やカカオ豆のフェアトレード認証などがあげられます。
化学品以外では既にマスバランス方式は広く活用されています。
同様・類似の手法
なぜ今、マスバランス方式が重要なのか?
マスバランス方式はその名の通り、「入りと出」を量の単位でバランスさせることにより正確性を担保させるしくみです。ではなぜ今、このようなしくみが重要になっているのでしょうか。
それは現在のようなカーボンニュートラル社会への移行の過程では、個々の製品が実際に100%バイオマス由来であることよりも、スピード感を持って社会全体のバイオマス度を高めていくことが重要だからです。こうした観点から見ると、マスバランス方式では、これまでさまざまな課題から困難とされていた素材のバイオマス化も可能になるため、サステナブルな製品を活用できる領域が大きく広がります。特に、複雑な原料体系と誘導品、複雑なサプライチェーンを持つ化学業界がカーボンニュートラル社会の実現に貢献するためには、マスバランス方式は必要不可欠なアプローチとも言えます。なお、マスバランス方式で製造されたバイオマスプラスチックの活用は、以下のようなメリットがあり、環境負荷低減と経済性の両立につながることが期待されています。
1
化石資源の使用量削減
バイオマス由来の原料を使用することは、枯渇性資源である石油の使用量を抑えることになります。
2
CO2排出量の削減
バイオマスに含まれる炭素は、原料となるバイオマスがその成長過程において大気中のCO2を固定したものであるため、バイオマスを再生産する限りバイオマスを焼却しても大気中のCO2は増加しないという特性があります。たとえば代表的なプラスチック(PE/PP)のLCAで見ると、石油由来品と比べて、約60%*のCO2排出量削減になります。
*当社試算
参照)バイオプラスチックのメリット|プラスチック資源循環(環境省)https://plastic-circulation.env.go.jp/shien/bio/merit
3
再生可能資源だけでなく
廃棄物の活用にも適用可能
多くのプラスチックはナフサと呼ばれる石油由来の炭化水素を、クラッカーと呼ばれる巨大な設備に投入し、ナフサに含まれる炭素原子と水素原子から生 まれるさまざまな化学品から作られます。その石油由来ナフサの代わりに植物など再生可能資源であるバイオマス由来の炭化水素をクラッカーに投入することが可能です。同様にプラごみなどの廃棄物からの炭化水素も将来的に投入可能になることが期待されています。
4
既存のプロセスを活用でき、石油由来品と全く同じ物性・品質を実現
ナフサクラッカー以降のプロセスは既存品と全く同一であり、炭素や水素が石油由来かバイオマス由来かといった違いがあるだけで、その物性は従来品と同等です。
使用側のユーザーも既存の加工ラインで最終製品を製造でき、設備投資はもちろん代替検討など品質評価作業が必要ありません。
5
幅広いラインナップで提供可能
化学コンビナートの心臓部と言われるナフサクラッカーを活用できるため、そこから生み出されるさまざまな化学品やプラスチックを、一気にバイオマス化することができ、バイオマス製品のラインナップを大幅に拡大できます。これまで難しかった製品でもバイオマス化が可能になりました。
6
ニーズに合わせて増産が可能
需要に応じてバイオマス由来原料のクラッカーへの投入量を調整することにより、バイオマス製品の量を調整することが可能なため、設備投資による能力増強を実施しなくとも、スムーズな増産が可能です。
カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミー
その両方の実現に必要不可欠なマスバランス方式の考え方
マスバランス方式は、スピード感を持って社会全体のバイオマス度を高め、カーボンニュートラル社会の実現に貢献するだけでなく、リサイクル製品の活用領域をさらに広げ、サーキュラーエコノミー社会につなげていく上でも必要不可欠な考え方です。
プラスチックのリサイクルのうち、「ケミカルリサイクル(廃プラスチックを化学的に分解することで分解油や合成ガス、モノマーといった化学原料に戻して再利用する手法)」では、マスバランス方式でリサイクル素材としての特性を割り当てていくことが重要になります。
ケミカルリサイクルでは、廃プラスチックを化学原料にまで戻して再利用することができため、これまで品質や衛生面からリサイクル品を使用することが困難であった用途においてもリサイクル由来の素材を適用することが可能になります。
このケミカルリサイクルによる再生原料は、生産の上流工程でバージン原料と混ざり合い、区別がつかない状態になるため、ケミカルリサイクル製品であることを認証するには、「入りと出」を量の単位でバランスさせ正確性を担保するマスバランス方式の考え方が欠かせません。
こうした観点から、マスバランス方式はバイオマスプラスチックとケミカルリサイクルプラスチックの普及拡大において重要なアプローチであり、この考え方はカーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーが両立された持続可能な未来を創造するために必要不可欠な考え方だといえます。
以下の資料では、マスバランス方式の詳細な解説に加え、セグリゲーション方式(分離方式)との違いなども図解で分かりやすく解説しています。是非、これからの社会を考える際の資料のひとつとしてご活用ください。
サステナブルな未来に向けた重要な考え方として注目されるマスバランス方式(物質収支方式)。
聞き慣れない言葉でもあるので、少しわかりにくく感じるかもしれませんが、既にわたしたちの身近なところで活用されており、サステナブルな未来に向かって進み始めています。