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プラスチックごみの削減に向けた世界と日本の取り組みを解説
プラスチックは私たちの生活に欠かせない素材のひとつとして、世界中で活用されており、今後も新興国を中心に消費量は増加することが見込まれています。プラスチックを使用することにより、私たちはより快適に暮らせていることは事実ですが、その一方で、消費量に比例して増加するプラスチックごみの問題は、私たちが解決すべき世界共通の社会課題です。本記事ではこうしたプラスチック廃棄物(プラスチックごみ)の現状や、その削減に向けた取り組みなど、さまざまな角度から解説します。
プラスチックごみ問題は、なぜ世界共通の社会課題なのか?
生活水準の向上に伴いプラスチックの消費量も増加傾向に
OECD(経済協力開発機構)によると、世界のプラスチック廃棄物は2019年の3億5300万トンに対し、2060年には約3倍の10億1400万トンにまで拡大することが予想されています。(出典:OECD報告書)
その一方で、食料品の衛生的な長期保存、衣類の機能性や耐久性の向上、医療の安全性向上や感染リスク低減、モビリティの燃費性能や安全性の向上など、私たちが暮らしていく上で重要になるこうした機能を実現するには、プラスチックが必要不可欠です。また、プラスチックは同一品質ものを大量に生産することができ、比較的安価で調達できるため、例えばまだ食品や医療などの分野で安全・衛生を確保することが難しい国や地域では、プラスチックを上手く活用していくことが生活水準の向上につながります。
こうした側面を踏まえると、すでに衛生的かつ快適に暮らせている国や地域では、適材適所でプラスチックの使用量を削減する余地はありますが、そうではない国や地域でのプラスチックの使用量は増加することが見込まれます。それに伴い、世界全体で廃棄されるプラスチックごみの排出量も増加傾向を強めることが予想されます。
以下のグラフは、縦軸に「1人当たりのプラスチック消費量」、横軸に「各国の人口」を示したもの(2019年実績)ですが、インドの1人当たりのプラスチック消費量は米国の10分の1以下の水準にあり、中国も日米欧との比較では低水準にあります。今後の生活様式の変化や生活水準の向上に伴い、インドや中国の1人当たりのプラスチック消費量は少なくとも欧州や日本の水準まで増加する可能性があります。さらに、他のアジアやアフリカの新興国でも同様のことが言えるため、プラスチックごみの処理の問題は、全世界で取り組む必要のある社会課題だと言えます。
2019年の1人当たりのプラスチック消費量と人口
※上記のグラフを含めたプラスチックのリサイクルに関連する各種データを「プラスチック・リサイクル データ集」に掲載しています。併せてご覧ください。
プラスチックは人類にとってまだ新しい素材
プラスチックの歴史は、1907年に米国の化学者であるベークランド博士がフェノール樹脂『ベークライト』の工業化に成功したことから始まりました。人類は様々な素材を駆使しながら、社会を発展させてきましたが、各種素材と人との付き合いの歴史を見ると、(諸説ありますが)石器が約62,000年、金属が約7,500年、ガラスが約4,500年と非常に長い歴史を有しているのに対し、プラスチックは117年の歴史しかなく、人類にとってまだ新しい素材だと言えます。
1,000年以上の歴史を有する他の素材は、その長きにわたる時間の中で、貴重な資源として使用後の処理に関する知見や手法も蓄積されてきていますが、プラスチックに関してはまだそこまで成熟しておらず、最適な付き合い方を模索している段階にあります。
世界全体で見るとプラスチックの消費量は今後も増加することが見込まれることや、人類にとって新しい素材であるプラスチックの使用後の最適な処理の仕組みがまだ構築中であることを踏まえると、プラスチックごみ問題の解決に向けた取り組みを、一段と加速させていくことが重要になっています。
プラスチック廃棄物の課題については「廃プラとは?廃プラスチックが抱える課題と課題解決のための取り組みをわかりやすく解説」で詳しく解説しています。
プラスチックごみ削減に関する欧州の取り組み
ここでは世界共通の社会課題であるプラスチックごみ問題に対し、環境先進国と称される欧州がどのような取り組みを進めているのか見てみましょう。
欧州では使い捨てプラスチック製品の規制を強化
EU(欧州連合)では、2019年5月、使い捨てプラスチック製品の流通を2021年までに禁止する法案(特定プラスチック製品の環境負荷低減に関わる指令)を採択し、同年7月に発効。これに伴い、EU加盟各国には、同法案の発効から2年(2021年7月)をメドに、同法案に対応した国内法の整備を求めました。このようにEU加盟国では、1度だけ使用されてすぐに廃棄される使い捨てプラスチック製品を減らすための施策を積極的に講じています。
こうした中で、フランスでは、すでに2016年7月から他国に先駆けて使い捨てプラスチック製レジ袋(厚さ50ミクロン未満)の使用を禁止するなど、プラスチックごみへの取り組みを進めていましたが、2020年2月に施行された「循環経済法」でその取り組みをさらに強化。加えて、2022年4月には、使い捨てプラスチック包装のリデュース(削減)、リユース(再使用)、リサイクル(再生利用)の3Rに関する国家戦略を採択する政令を公布しました。これは「2040年の使い捨てプラスチック包装の市場投入(上市)禁止に向け、2021年から2025年までに2018年比で20%削減する5カ年の中間目標」を定めた2021年4月30日公布(同年5月1日発効)の政令を達成するためのものです。2025年の目標達成のためにはリサイクル(回収から再生材の使用までのバリューチェーン全体)の改善や、包装ラインの適合などに約30億~50億ユーロの投資が必要と試算しています。(出典:JETROビジネス短信)
また、他のEU加盟国も取り組みを進めており、ドイツでは2020年9月、使い捨てプラスチック容器等の利用を禁止する政令案を可決。綿棒の軸、カトラリー(フォーク・ナイフ・スプーン・箸など)、皿、ストロー、マドラー、風船用の棒、持ち帰り用飲料カップ、ファストフードの包装、発泡ポリスチレン製の食品容器などの使用禁止に乗り出しました。さらに2022年1月から厚さ15~50マイクロメートルのプラスチック製レジ袋の配布、販売を禁止しています。
このように使い捨てプラスチックの使用量を減らすことは、プラスチックごみ削減に寄与しますが、用途によってはプラスチックからの素材代替で環境負荷を高めてしまうケースもあるため、科学的なデータに基づき、適材適所で最も環境負荷の低い素材を選定していくことも重要です。
素材代替に関しては、「ストローのLCA比較でみたプラスチックとその代替」でも考察しておりますので、併せてご覧ください。
欧州ではケミカルリサイクルの取り組みも加速
欧州では、使い捨てプラスチック製品のリデュース(削減)の取り組みに加え、リサイクル(再生利用)の展開も強化しており、あらゆるリサイクル手法を駆使し、資源循環の輪をより太くしようとしています。
こうした中で、2023年2月には、欧州委員会の共同研究センターが「プラスチック廃棄物のリサイクルに関する環境面や経済性の観点からの評価報告書」を公表。この報告書では、廃プラスチックのメカニカルリサイクル(マテリアルリサイクル)、ケミカルリサイクル、エネルギーリカバリー(サーマルリサイクル)といった廃プラスチックのリサイクル手法について、ライフサイクル評価(LCA)と標準的なライフサイクルコストに関する方法論などに基づいた評価が行われました。その結果、現時点ではメカニカルリサイクルされていない混合ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンといったオレフィン系の高分子化合物)などに関しては、エネルギーリカバリーよりもケミカルリサイクルの方が環境面での利点が大きく、今後、クリーン・エネルギーの普及に伴い、その利点は大きくなるとの見方を示しました。
これを受け、欧州化学評議会(Cefic)も、「同報告書はメカニカルリサイクルを補完する手段として、ケミカルリサイクルの重要性を示した」との声明を発表しました。欧州では世界最大手の化学メーカーであるBASFが2018年末から「ChemCyclingプロジェクト」を通してケミカルリサイクルの取り組みを本格化していることに加え、他の化学メーカーでも展開を強化。直近では、2023年11月、世界最大のポリオレフィンメーカーであるライオンデルバセル社がドイツで年産5万トン規模のケミカルリサイクルプラントを建設する最終投資決定を下したことを発表しました。これは120万人以上のドイツ国民が1年間に排出するプラスチック包装廃棄物をリサイクルすることが可能なキャパシティになり、廃プラスチックが資源としてさらに有効利用されるようになることが期待されます。
プラスチックの資源循環に向けた日本の取り組みーー「バイオマス」と「リサイクル」
世界共通の社会課題であるプラスチックごみ問題の解決に向け、使い捨てプラスチック製品のリデュースや、廃プラスチックのリサイクルによる再生利用の動きが活発化する中で、日本でも2022年4月にプラスチック資源循環促進法を施行。プラスチック使用製品の製造・販売を行う事業者をはじめ、消費者、自治体、国など、プラスチックのライフサイクル全体において関わりのある全ての主体が参画し、プラスチックの資源循環に向けた取り組みを積極的に進めようとしています。
※日本の状況については、関連記事「プラスチック資源の循環戦略」を併せてご覧ください。
具体的には、日本でもまずは回避可能なプラスチックの使用は合理化(リデュース・リユース)を検討した上で、必要不可欠な使用については、より持続可能性が高まることを前提に再生素材や再生可能資源に適切に切り替え(リニューアブル)、徹底したリサイクルを実施する方針を掲げています。さらに、それらが難しい場合には熱回収によるエネルギー利用を図ることで、プラスチックのライフサイクル全体を通じた資源循環を促進しようとしています。
食品衛生や医療・医薬、電気・電子やモビリティなど、日常生活のあらゆる分野でプラスチックの機能は欠かせないため、合理化(リデュース・リユース)による対応にも限界があります。そこで重要になるのが、従来の石油由来のプラスチックからバイオマス由来などのリニューアブルな素材に代替し、それをしっかり回収してリサイクルすることにより、資源循環を促進していくことです。
プラスチックのリサイクルの手法は、主にメカニカルリサイクル(マテリアルリサイクル)、ケミカルリサイクル、エネルギーリカバリー(サーマルリサイクル)の3つがあります。廃棄されたプラスチックの状態によって、これらのリサイクル手法を上手く組み合わせて活用していくことが資源循環の面でも効果的ですが、いずれもリサイクルの工程でエネルギーが必要となり、そのエネルギーを使用する際に二酸化炭素が発生すること、そしてリサイクル段階での収率が100%ではないことから廃棄による二酸化炭素の排出も起こります。
こうしたリサイクルの際の環境負荷を最小限にとどめながら資源を循環させるためには、最初の製品製造で温室効果ガス排出量の削減効果が高いバイオマスプラスチックを採用し、その製品が寿命を迎えた際はしっかり回収してリサイクルすることが効果的です。「バイオマス」ではじまり「リサイクル」で回す。そんなバイオ&サーキュラーな仕組みの中で、プラスチックの資源循環を促進することは、プラスチックごみ問題だけでなく、地球温暖化問題を含めた複数の社会課題の解決につながるアプローチだと言えます。
三井化学はバイオ&サーキュラーの推進により、リジェネラティブな世界の実現を目指しています
三井化学グループでは、サステナブル(持続可能性)を超えたリジェネラティブ(再生的)な社会の実現に向け、「素材の素材まで考える」をキーワードに掲げた取り組みを進めています。これは、原子の由来を見直し、プラスチックの素(原料)である炭化水素そのものを、従来の石油由来から転換を図り、カーボンニュートラルに貢献するバイオマス由来の炭化水素や、サーキュラーエコノミー社会につながるリサイクル由来の炭化水素に変えていくことで、そこから造られるプラスチックをバイオ&サーキュラーにしていくアプローチです。
リサイクルソリューションの導入や、製品のバイオマス化を検討される際は、ぜひお気軽にご相談ください。
リジェネラティブな社会に向けて行動する「RePLAYER®」「BePLAYER®」はこちら。
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- 参考資料
- *1:OECDニュースリリース:
https://www.oecd.org/tokyo/newsroom/global-plastic-waste-set-to-almost-triple-by-2060-japanese-version.htm - *2:ビジネス短信|JETRO:
https://www.jetro.go.jp/biznews/