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ネットゼロとは?カーボンニュートラル、カーボン・オフセットとの違いや取り組みを解説
地球温暖化による気候変動への対応は、全世界共通の社会課題です。こうした社会課題を解決し、持続可能な社会を実現するためには、どのような具体的なアクションをすべきなのか。温室効果ガスの排出量の削減など企業の責任が問われる中、“ネットゼロ”に注目が集まっています。ネットゼロとは何なのか、カーボンニュートラルやカーボン・オフセットとどう違うのか。日本の取り組みや海外の事例とともにご紹介します。
ネットゼロとは
最近よく耳にする「ネットゼロ」というワード。これは、人間の活動によって排出される温室効果ガスの量と、人間によって除去される温室効果ガスの量が正味ゼロにすることを表す言葉です。
最終氷期が終了した約1万年前以降、大気中の二酸化炭素濃度の変化は小さく、大気に放出される二酸化炭素(CO₂)と、植物や海洋に吸収されるCO₂は均衡を保ってきましたが、産業革命以降、CO₂をはじめとした温室効果ガスの排出量が急増しました。すると、植物や海洋が吸収しきれない温室効果ガスが大気中に残留し、その濃度が濃くなります。温室効果ガスには太陽からのエネルギーを受けて温められた地表の熱を閉じ込める役割があるため、大気中の温室効果ガスの濃度が高くなると、地表の温度が上昇します。これが地球温暖化のメカニズムです。
地球温暖化は、氷河の融解や海水面の上昇、干ばつや大雨などの極端な気象現象の発生につながり、気候や地球環境、生態系などにさまざまな影響をもたらします。そこで、2015年にフランス・パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)では、気候変動対策の国際枠組みである「パリ協定」が採択され、世界共通の長期目標として「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに(2℃目標)、1.5℃に抑える努力を追求すること(1.5℃目標)」、「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること」等に合意。その実現に向け、世界120以上の国と地域が温室効果ガス排出量の削減に取り組んでいます。
しかし、人間活動によって排出される世界の温室効果ガスの量は、2022年に過去最多の574億トン(CO₂換算)を記録しました。地球温暖化を食い止め、持続可能な社会を実現するためにも、人間の活動によって排出される温室効果ガスの量と、人間によって除去される温室効果ガスの量が正味ゼロにする「ネットゼロ」を達成させることが重要になっています。
カーボンニュートラル、カーボン・オフセットとの違い
ネットゼロと似た概念を持つ言葉として、カーボンニュートラルやカーボン・オフセットがあります。では、その違いとは何なのでしょうか。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC : Intergovernmental Panel on Climate Change)の第6次報告書では、ネットゼロとカーボンニュートラルの定義を以下のように示しています。
<ネットゼロ>
人為起源CO₂排出量と人為起源CO₂除去量が一定期間均衡している状態。
<カーボンニュートラル>
ある対象に関連する人為的CO₂排出量と、人為的CO₂除去量が均衡する状態。
対象は、国、組織、地域、商品などの主体、またはサービスやイベントなどの活動である。カーボンニュートラルは、しばしば温室効果ガスの間接(スコープ3)排出を含むライフサイクル全体で評価されるが、対象が直接管理する一定期間の排出と除去に限定することも可能で、これは関連する制度により決定される。
IPCCでは、ネットゼロとカーボンニュートラルは共に「温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量が均衡した状態」を示すほぼ同義の用語として定義しています。ただ、カーボンニュートラルでは、その達成に向けて補完的にカーボンクレジット(ある主体が温室効果ガス排出量を削減・除去した分を、第三者が取引可能なクレジットとして認証したもの)による埋め合わせを利用する場合があることを記述している点が、ネットゼロとの違いではあります。
このように専門的には多少の違いはありますが、社会一般においてはネットゼロとカーボンニュートラルは同じ意味として使用されているのが実情です。なお、環境省の「カーボン・オフセット ガイドラインVer.3.0」では、「国や組織等による温室効果ガス排出削減の取り組みにおいて、カーボンニュートラルとネットゼロを同義に使用している場合も、違う状態を指して使用している場合もあり、ネットゼロについては広く共通した定義が確立されていない状況」との指摘もあります。
また、カーボン・オフセットとは、「温室効果ガスの排出量が減るよう削減努力を行った上で、どうしても排出が避けられない温室効果ガスについて、その排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資することなどにより、排出される温室効果ガスを埋め合わせる取り組み」のことで、①知って(排出量の算定)、②減らして(削減努力の実施)、③オフセット(埋め合わせ)する、といった3ステップで実施されるものです。つまり、カーボン・オフセットは、カーボンニュートラルを実現するための1つの手段になります。
日本では、カーボン・オフセットに用いる温室効果ガスの排出削減量・吸収量を、信頼性のあるものとするため、国内の排出削減活動や森林整備によって生じた排出削減・吸収量を認証する「オフセット・クレジット(J-VER)制度」を2008年11月に創設。2013年度からはJ-VER制度及び国内クレジット制度が発展的に統合したJ-クレジット制度を開始しています。
ここまで見てきたように、カーボンニュートラルとネットゼロという用語は、一般的にほぼ同じ意味で使われています。日本ではこれまでカーボンニュートラルや脱炭素といった言葉の方がよく知られていましたが、SBTi(SBTイニシアティブ)の動きを受け、日本でもネットゼロという用語の認知度が高まりつつあります。
SBTiは、世界自然保護基金(WWF)、CDP、世界資源研究所(WRI)、国連グローバルコンパクト(UNGC)が2015年に設立した共同イニシアティブで、SBT(Science Based Targets : パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標)の設定支援と認定を行っています。国際的なデファクトスタンダードとして認識され、多くの日本企業も取得しているSBT認定では、「温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量が均衡した状態」を示す用語として、カーボンニュートラルではなくネットゼロを使用していることから、日本でもこの用語が知られるようになってきています。
SBTにつきましては、関連記事「SBTとは?認定を受けるメリットや基準、取得方法を解説」も併せてご覧ください。
ネットゼロ実現に向けた日本や海外の取り組み
海外の動向と取り組み
パリ協定に基づき、欧州連合(EU : European Union)やイギリス、アメリカ、カナダはすべての温室効果ガスを対象とした2050年ネットゼロを長期目標として設定し、ドイツでは5年早い2045年のネットゼロ達成を目標に掲げています。その中で、世界各国ではネットゼロと経済成長を両立するグリーントランスフォーメーション(GX)の動きを加速させようとしています。(日本時間2025年1月21日、アメリカのトランプ大統領がパリ協定から離脱する大統領令に署名したため、同国の動向については注視していく必要があります。)
こうした各国の目標に基づき、これまで企業や業界団体など、さまざまな主体がネットゼロを打ち出してきましたが、残念ながらその中にはグリーンウォッシュ(見せかけの環境対策)と見られるものも存在していました。そこで、2022年に行われたCOP27では、グリーンウォッシュにつながる安易なネットゼロ宣言を防ぐべく、国連のハイレベル専門家グループによる「ネットゼロの定義提案書」を公表しました。
この提案書では、「ネットゼロの5原則と10提言」が記されており、世界各国の企業や業界団体などが、信頼性と説明責任を備えたネットゼロ宣言を行えるようにするための定義や基準が設けられました。
<ネットゼロの5原則>- 世界全体で2050年までにネットゼロを達成するための野心的な短期・中期的な排出目標が必須
- コミットメントだけでは不十分。言行一致すべし
- 徹底的な透明性の追求。計画・進捗状況に関する非競争分野の比較可能なデータを共有すべし
- 計画を科学に基づき作成し、第三者認証を得ることで信頼性を確立すべし
- すべての行動において公平性と正義を示すべし
<5原則に基づく10項目の提言>
- ネットゼロ宣言の発表
- ネットゼロ目標の設定
- ボランタリークレジットの活用
- 移行計画の策定
- 化石燃料の段階的廃止と再生可能エネルギーの拡大
- ロビイングとアドボカシー
- 公正な移行における人々と自然
- 透明性と説明責任の向上
- 公正な移行への投資
- 規制導入に向けた加速
このように、各国政府だけでなく、企業や業界団体などのさまざまな主体を含め、「世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して1.5℃に抑える」というパリ協定の目標達成に向け、具体的な時間軸と行動が求められるようになっています。
日本の取り組み
日本政府は、2020年10月に2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。これは、2050年までに温室効果ガスの排出を全体で実質(正味)ゼロにすることを目指すというものです。これに伴い、2021年に地球温暖化対策推進法を一部改正し、同法に「2050年カーボンニュートラル実現」が明記されました。この長期目標を達成するためのマイルストーンとして、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%削減することが掲げられています。
これらの目標を実現すべく、日本では地域や自然と共生しながら再生可能エネルギーを導入する地域脱炭素促進事業や再エネ促進が進められているほか、GX製品・サービスの需要喚起といった取り組みが行われています。
また、日本は2022年にアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想を提唱しました。これは、アジア各国が脱炭素化を進める理念を共有し、エネルギートランジション(移行)を推進するために協力することを目的としたもの。AZECでは、アジア各国の実情を踏まえた多様な道筋という共通認識の下、パートナー国である10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、豪州)と、域内のカーボンニュートラルに向けた協力を進めています。その中で、2024年10月に行われた第2回AZEC首脳会議では、今後10年のためのアクションプランを含む首脳共同声明に合意するなど、アジアにおける脱炭素の取り組みに貢献しています。
こうした国の動きと並行して、民間での取り組みも進んでいます。世界自然保護基金(WWF)、CDP、世界資源研究所(WRI)、国連グローバルコンパクト(UNGC)が2015年に設立したScience Based Targetsイニシアティブ(SBTi)では、企業などに対し、科学的知見と整合した目標(SBT : Science Based Targets)の設定を支援・認定しています。このSBTiにコミットまたは認定取得を行なった参加企業は世界全体で10,022社ありますが、そのうちの1,506社が日本企業となっています。また、1.5℃基準で認定取得した企業は世界全体で6,718社ですが、日本企業は1,355社にものぼります。さらに、65社の日本企業がネットゼロ基準の認定を取得するなど、積極的に取り組みを進めています(2025年1月20日現在)。
ネットゼロを目指すためにできること
ネットゼロを実現するためには、個人の取り組みも重要です。2022年度の統計では、日本全体で1年間に10億3,700万トンのCO₂が排出されていますが、部門別で見ると、産業部門(工場等)のCO₂排出量が3億5,200万トン、運輸部門(自動車等)が1億9,200万トン、家庭部門は1億5,800万トンとなっています。2050年のネットゼロや2030年度目標(2013年度比46%削減)を実現するには、企業だけでなく、家庭からのCO₂排出量も2030年度までに2013年度比で66%削減することが求められます。
引用:環境省「『デコ活』~くらしの中のエコろがけ~脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」p.8
家庭で個人ができる取り組みとしては、①再生可能エネルギーに切り替える、②家電などは省エネ製品を選ぶ、③節水をする、④食べ残しを減らす、⑤ゴミを減らす、⑥公共交通や自転車、徒歩で移動する、⑦環境配慮型の次世代自動車を選ぶ、⑧地元産の食材を選び地産地消を楽しむ、などが挙げられます。
また、近年はネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH : net Zero Energy House)も注目されています。これは、再生可能エネルギーの導入と省エネルギーによって、快適な空間を保ちながら年間の1次エネルギーの収支ゼロを目指す住宅のことです。新築住宅だけでなく、既存の住宅をリフォームによってZEH化することもできます。
地球温暖化をはじめとした気候変動を抑制に向け、世界各国が取り組みを加速させている一方で、生活者一人ひとりにとっては、どのように取り組めばよいのか分かりにくい状況もあるかと思います。しかし、皆さんの日常生活の各シーンで、少し環境のことを考え、新たに踏み出した一歩が、ネットゼロ達成に向け大きく貢献することになります。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm |
- 参考資料
- *1:環境省 第3節 炭素中立(ネット・ゼロ):
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r06/html/hj24010203.html - *2:環境省 地球環境局 国内外の最近の動向について(報告):
https://www.env.go.jp/content/000198600.pdf - *3:国立研究開発法人 国立環境研究所 別添2 2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(詳細):
https://www.nies.go.jp/whatsnew/2024/20240412-attachment02.pdf