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インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?導入目的、メリットを徹底解説

価格を計算するビジネスマン

脱炭素経営の一つの手法として注目を集める「インターナルカーボンプライシング(ICP)」。日本語では「社内炭素価格」と訳されています。これは、自社の炭素排出量に対して、内部的に使用する独自の炭素価格を設定し、企業の低炭素投資・対策を推進する仕組みのことを指します。本記事では、インターナルカーボンプライシングの導入目的やそのメリットなどを解説します。

インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?定義と導入の背景

インターナルカーボンプライシング(ICP)の定義と導入の目的

インターナルカーボンプライシングとは、自社の炭素排出量に対して、内部的に使用する独自の炭素価格を設定し、企業の低炭素投資・対策を推進する仕組みのことを指します。その特徴として、外部の炭素税や排出量取引制度とは異なり、インターナルカーボンプライシングは企業が自主的に導入する点があげられます。

インターナルカーボンプライシング(ICP)とは

引用:環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン」p.6

インターナルカーボンプライシングの導入目的は、企業がCO₂排出量の削減を促進し、持続可能なビジネスモデルへの転換を促すことにあります。具体的には、CO₂排出に関連するコストを可視化することで、エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの導入といった脱炭素投資を促進できます。また、将来的には外部の炭素規制の強化に対応するための準備としての役割も期待されています。

インターナルカーボンプライシングは企業の持続可能な経営を促進させる手段のひとつです。企業の意思決定プロセスに環境負荷の視点を組み込むことで、より持続可能な経営を目指す重要なツールと言えるでしょう。環境省の資料によると、2020年時点で、世界中で2,000社以上がインターナルカーボンプライシングを導入しています。

ICP導入企業引用:環境省「【参考資料】インターナルカーボンプライシング(ICP)の概要」p.8

インターナルカーボンプライシング(ICP)が注目される背景と意義

近年、地球温暖化問題への関心が世界的に高まる中、企業には温室効果ガス排出量の削減に向けた具体的な行動が求められています。

このような状況において、企業は自社の事業活動における環境負荷を認識し、削減に向けた取り組みを加速させる必要があります。また、国際的な地球温暖化対策や炭素税の導入が進み、カーボンバジェットの考え方が浸透してきました。カーボンバジェットとは、地球が許容できる総炭素排出量を示す概念で、企業はこの枠内で排出を管理する必要があります。このような規制強化や社会的責任を果たすため、インターナルカーボンプライシングの導入は、単に環境負荷を減らすだけでなく、企業が将来的な気候変動リスクに対応するための戦略投資を検討する上でも活用することができます。

また、投資家や消費者も企業の環境への取り組みを重視する傾向が強まっており、インターナルカーボンプライシングの導入は、企業のブランドイメージや企業価値の向上にもつながると考えられています。

カーボンプライシングとの違い

カーボンプライシング
広義では排出されるCO₂(カーボン、炭素)に価格をつけることを意味します。また、一般的には、企業などの排出するCO₂に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法のことを指します。
具体的には、「炭素税」や「排出量取引」と呼ばれる制度がこれに該当します。
目的:(政府による)カーボンプライシングは、CO₂排出量に比例した課税を企業や生活者に対して行うことで、CO₂排出の抑制を促進させること

インターナルカーボンプライシング
自社の炭素(CO₂)排出量に対して、内部的に使用する独自の炭素価格を設定し、企業の低炭素投資・対策を推進する仕組み。
目的:企業が意思決定や投資判断を行う際に環境負荷を考慮し、CO₂排出量の削減を促進させることで、持続可能なビジネスモデルへの転換を促すこと

つまり、インターナルカーボンプライシングは、広義のカーボンプライシングの一種であり、企業が自発的に脱炭素化を進めるための投資判断などに活用する手法と言えるでしょう。

<カーボンプライシングの分類>カーボンプライシングの分類

引用:経済産業省 資源エネルギー庁『脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?』

インターナルカーボンプライシング(ICP)導入によるメリット

脱炭素投資の促進

インターナルカーボンプライシング導入の最大のメリットの一つは、脱炭素投資の促進につながることです。インターナルカーボンプライシングを設定することで、CO₂排出量が多い事業活動やプロジェクトにはコスト負担が生じ、企業内部で、排出量を削減する技術や設備への投資において経済合理性を把握しやすくなります。各事業部門でのCO₂排出コストが明確になることで、より効率的にCO₂削減策を推進することが可能になります。また、インターナルカーボンプライシングによって創出された内部資金を、脱炭素技術の研究開発に充てることで、さらなる技術革新にもつなげることができます。

このように、インターナルカーボンプライシングは企業の脱炭素経営の推進力を高める効果もあります。

リスク管理の強化

インターナルカーボンプライシング導入は、気候変動に関する企業のリスク管理を強化する上でも有効です。将来的に、炭素税や排出量取引制度が導入された場合、CO₂排出量の多い企業は大きなコスト負担を強いられる可能性があります。

しかし、インターナルカーボンプライシングを導入し、事前にCO₂排出量を削減する取り組みを進めることにより、CO₂排出量に対する各種規制リスクに対して、より柔軟に対応することができます。また、気候変動問題への取り組みを重視する投資家や生活者の信頼を得ることで、企業のレピュテーションリスクを低減する効果も期待できます。

このように、インターナルカーボンプライシングの導入は企業の将来的なリスクを低減し、持続可能な経営を支えるための重要な手法とも言えます。

企業価値の向上

インターナルカーボンプライシングの導入は、企業の長期的な成長と企業価値の向上にもつながります。近年、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資が拡大しており、環境問題に積極的に取り組む企業は、投資家からより高い評価を得られる傾向があります。また、インターナルカーボンプライシングを導入することで、温室効果ガス排出量の削減に向けた積極的な取り組みをアピールでき、企業のブランドイメージを向上させることができます。

インターナルカーボンプライシング(ICP)の価格設定と導入企業の事例

価格設定のポイント

価格設定の方法-1引用:環境省「【参考資料】インターナルカーボンプライシング(ICP)の概要」p.15

インターナルカーボンプライシングの価格設定は、それぞれの企業が経営状況や事業特性に合わせて柔軟に行う必要があります。インターナルカーボンプライシングの価格設定が高すぎると、事業部門に過度なコスト負担を強いることになり、事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。逆に低すぎる設定は、CO₂排出量削減のインセンティブが十分に機能しない可能性があります。つまり、各国政府のカーボンプライシングや競合企業の動向を考慮しながら、極端に高すぎたり低すぎたりしないよう調整する必要があります。

また、どのように価格設定されたのか、その背景や目的を明確にし、各部門の協力を得ることで、全社的な施策として有効に作用することになります。

インターナルカーボンプライシング(ICP)運用と見直し

インターナルカーボンプライシングの運用においては、価格設定を行うだけでなく、その効果を継続的に測定し、必要に応じて見直しを行うことが重要です。まず、運用状況を定期的にモニタリングし、企業内の目標達成に向けた進捗を把握する必要があります。また、CO₂排出量の削減に向けた取り組みの進捗状況を定量的に評価し、その結果を社内全体で共有することが大切です。これにより、価格設定が適切かどうかの確認や、状況変化に合わせた設定価格の調整を行うことが可能になります。さらに、運用結果を社内だけでなく、ステークホルダーにも開示することで、企業の環境への取り組みに対する透明性を高めることができます。

また、インターナルカーボンプライシングを効果的に運用するためには、社内全体の理解と協力が欠かせません。社内教育や啓発活動を通じて、導入の目的や意義を浸透させることが求められます。導入したら終わりではなく、継続的に設定価格を見直すことで、より精度の高い価格が設定され、脱炭素経営を実現することが可能となります。

インターナルカーボンプライシング(ICP)導入企業

※下記内容は2022年3月時点
(出典:環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン」)

事例1:ソニーグループ株式会社
  • 概要:全社統一価格は設定せず事業部門ごとに、環境負荷の大きさ、エネルギー価格、事業規模、予算等を勘案し、価格を決定
  • 価格(2020年):半導体部門 200,000円/t-CO₂
  • 活用方法:環境関連設備投資の決定に利用


事例2:キリンホールディングス株式会社

  • 概要:2040年時点での予想温室効果ガス排出量からインターナルカーボンプライスを算出
  • 価格(2021年):15,434円/t-CO₂
  • 活用方法:法規制リスクの評価


事例3:アステラス製薬株式会社

  • 概要:自社すべての事業部門(製薬技術、創薬研究、販売など)に適用
  • 価格(2021年):100,000円/t-CO₂
  • 活用方法:インターナルカーボンプライスを投資基準の一つとすることで、低炭素投資を推進


事例4:花王株式会社
  • 概要:投資判断(案件採用、商品選定)の比較基準
  • 価格(2021年):3,500円/t-CO₂
  • 活用方法:省エネ設備の導入によって削減されるCO2炭素価格の合計を算出


事例5:日本たばこ産業株式会社

  • 概要:海外たばこ事業の全製造工場で使用
  • 価格(2021年):3,500円/t-CO₂
  • 活用方法:年度計画策定や投資プロジェクト比較に利用

これらの5社のインターナルカーボンプライシングの導入事例を俯瞰すると、企業ごとに異なる目的や運用方法により活用していることが理解できます。価格設定や活用領域は多様で、投資判断やリスク評価、事業戦略において重要な役割を果たしています。このように、各企業が自社の環境課題や事業特性に応じて柔軟にインターナルカーボンプライシングを取り入れ、カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みを加速させている点が共通しています。

脱炭素経営促進のためのインターナルカーボンプライシング(ICP)

脱炭素社会を目指す取り組みが世界中で進む中、企業は環境面に配慮しながら、持続可能な経営戦略を確立する必要があります。そのための重要な手法の一つがインターナルカーボンプライシングです。

多くの企業がインターナルカーボンプライシングを導入し、環境負荷低減に向けた設備投資やリスク評価を推進しています。CO₂排出に価格をつけることで、過剰な排出を抑え、効率的に資源を活用することができます。また、環境規制の強化や生活者の環境意識の高まりにも対応できます。

脱炭素経営の実現に向けて、インターナルカーボンプライシングを活用することで、企業は環境への責任を果たしつつ、新たなビジネスチャンスを見出すことができます。地球温暖化問題という大きな社会課題に対し、企業がそれぞれの役割を果たし、持続可能な社会を実現していくことが重要です。インターナルカーボンプライシングは、その有効な手段の一つであると言えるでしょう。

三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、
バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

「BePLAYER®」「RePLAYER®」https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm

<公開資料:カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー関連>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/

 
参考資料
*1:環境省「【参考資料】インターナルカーボンプライシング(ICP)の概要」:
https://www.env.go.jp/content/000045085.pdf
*2:環境省「インターナル・カーボンプライシングについて」:
https://www.env.go.jp/council/06earth/900422845.pdf
*3:環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン」:
https://www.env.go.jp/earth/datsutansokeiei_mat04_20220418.pdf
*4:経済産業省 資源エネルギー庁『脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?』:
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_pricing.html

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