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【セミナー開催レポート】環境配慮と商品価値向上をみんなで考えるオンラインCafe
2024年12月11日に「環境配慮と商品価値向上をみんなで考えるオンラインCafe」と題したセミナーを、三井化学株式会社・株式会社メンバーズ・ハーチ株式会社の3社で共催しました。
本セミナーは、同年9月に開催したオンラインセミナー「環境への取組みは商品の価値を向上させる〜先進企業と欧州事例に学ぶマーケティング〜」で寄せられた質問に登壇者がお答えするもので、カジュアル形式で行われました。以下、開催したオンラインカフェの内容を開催レポートとしてご紹介します。
サステナブルマーケティングにもマーケットインの発想が必要
はじめに前回のセミナーの開催内容をダイジェストで振り返った後、三井化学 グリーンケミカル事業推進室のビジネス・ディベロップメントグループのリーダーである松永より、サントリーホールディングスの新しい取り組みについて紹介がありました。
その取り組みとは、サントリーホールディングスが使用済み食用油(廃食油)由来のパラキシレン(以下、バイオパラキシレン)を用いて製造したペットボトルを、一部の商品に順次導入するというものです。ペットボトルの原料であるPET樹脂は、30%が「モノエチレングリコール」、残り70%は「テレフタル酸」(前駆体が「パラキシレン」)で構成されていますが、今回はこれまで実現できていなかったテレフタル酸のバイオマス化ができたことが特徴です。「バイオパラキシレン⇒バイオテレフタル酸」で製造されたペットボトルは、従来の化石由来原料から製造したペットボトルに比べてCO₂排出量削減が可能となります。三井化学もこのプロジェクトに携わったうちの1社であり、松永は「使用済みの食用油由来のバイオマスナフサを調達して最終的にペットボトルを製造するという、グローバルなサプライチェーンを構築できた。サントリーさんという大企業が、こうした動きに踏み切った影響は大きいと思う」と期待を語りました。
続いてディスカッションに移る前に、駒澤大学 経営学部 青木教授よりサステナビリティと企業の取り組みに関する最新事例の共有がありました。まず青木教授は、マーケティングが「プロダクトアウト」から「マーケットイン」へ、そして現代では「サステナブルマーケティング」へと変遷していると説明。そしてサステナブルマーケティングにおいても、環境問題や社会課題に対応したものや、サービスをただ製造・提供するのではなく「マーケットイン」的な発想が必要だと語ります。そして最近、米国で開催されたサステナブルブランドのコンベンションで印象的だったという、P&Gの事例を紹介しました。P&Gでは、自社の製品が環境に与える影響を深く分析する過程で、洗剤そのものよりも洗剤の使用に伴う温水消費、つまり、お湯の使用がCO₂排出量増加に繋がっていることを発見します。そして、家庭でお湯を使うシーンの8割ほどにP&Gの製品が関連しているからこそ、この課題解決に挑まねばと考え、食洗機用の洗剤のマーケティングにおいても「洗浄力」のような製品の機能面ではなく、「50%節水が可能」といったサステナブル価値にフォーカスしたキャッチコピーなどを打ち出して展開しているといいます。青木氏からは「その製品が、どのように地球環境や社会環境の課題を解決するのかというコンテクストでマーケティングを展開する必要がある」というP&Gのマーケティング担当者のコメントの紹介もありました。

リターンを計測しづらい、サステナブル活動への取り組みをどう捉えるか
次に、前回のセミナーで参加者からの興味を惹いた「サステナブルな活動は投資であるのか」というテーマにフォーカスが移ります。これは、サントリーホールディングス サステナビリティ経営推進本部の北村氏が、サントリーが取り組む森林や生物多様性の保全活動について、「良質な地下水を育むための取り組みは事業継続に必要であり、地域との共有財産を永続的に維持するための投資的な側面もある」とコメントしたことがきっかけでした。北村氏は補足として、「実際に投資や費用として計上するか否かという意味合いではなく、あくまで『企業がサステナビリティ活動とどのように向き合うか』というスタンスや価値基準の話」と説明。その上で、こうした投資的な意識がサントリーに強い理由として、パーパスに表れている通り「人と自然と響きあう」ことを大切にしている姿勢や、サントリーグループの売上の9割は水なしに成り立たないといった背景の紹介がありました。また、サステナビリティ活動のリターンが計測しづらい点にも触れ、「リターンが返ってくるのは、何十年も先になるかもしれない。かつ、必ずしも自分たち企業に返ってくるとは限らず、社会や自然といった外部経済にリターンをもたらすかもしれない。従来のキャッシュフローはじめ財務三表で計測しにくいものだが、そうしたリターンも含めて『投資』的な見方をすべきであり、一方で従来とは異なるリターンを何とか『見える化』するための方法も考え続ける必要がある」と見解を示しました。
次に「欧州と日本の生活者の環境意識の違い」がトークテーマとなりました。パリ在住のハーチ欧州 富山氏は、「欧州にも日本にも環境意識が高い人と低い人の両方がいる」と前提を話したうえで、「欧州では声をあげる生活者の数が多く、彼らがコミュニティを形成して草の根活動を行う動きが活発ゆえに、企業もプレッシャーを感じて環境意識が高まっているのではないか。
一方、欧州と比べると日本ではまだまだ『環境問題は国や企業が取り組むもの』と捉えている生活者が多く、市民活動が広がりにくいように思う」と考察しました。また、欧州では「パッケージフリー=量り売り」の店が増えていて、環境意識が高くない生活者も自然と“ゴミゼロ”の購買活動に関与しやすくなっていたり、エコデザイン規則によって「環境にやさしく、長寿命で、修理やリサイクルが可能な製品」をEU域内市場で流通する製品の標準としたことで、「持続可能性」を意識して購買を行う生活者が増えているというトピックの紹介がありました。
価格に見合うサステナブル価値を提供できるかが重要
続いて、多くの企業担当者が悩みとして抱えている「バイオマスプラスチックは環境にはやさしいが、導入コストがかかるため、製品の価格上昇に繋がって消費者に拒まれる懸念がある」という話題に。三井化学 松永は、消費者を対象に実施したアンケートにおいて、「価格が少し高くなっても、環境に配慮した素材を用いた製品を選びたい」という声が届いたことを紹介。ただ、「『そもそも、そうした製品がなかなか見つけられない』といった声も聞かれたため、生活者の方が選択できるように、まずは環境配慮型製品をお店の棚に並べる努力をしていかないといけない」と述べました。
このテーマに対して北村氏は「価値と価格のバランスが取れているかが大事」と続け、「生活者は、価格に対して機能的便益とサステナブル便益が従来品に比べて大きいと感じれば、製品を選んでくれる可能性がある。原料が高くなった分だけ製品に価格転嫁するというコスト目線だけで捉えるのではなく、『新しい価値としてどのように伝えられるか』という視点でも考えることが大切」と見解を述べました。
また、富山氏も帰国した際に日本の物価の安さに驚いたエピソードを挙げ「そもそもこれまでの価格が安すぎたのかもしれないし、いろんな犠牲の元に安価での製造や販売が成り立ってきた分野もあるはず。企業には『サステナブルでフェアな製品の価格とは、実際にいくらなのか』を生活者に伝えるようなコミュニケーションを実践してほしい」と語りました。
ディスカッションの最後で青木教授は、2024年2月に日本マーケティング協会が「マーケティングの定義」を34年ぶりに刷新したことに触れ、「ステークホルダーとの関係性を醸成」や「より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセス」といったキーワードが盛り込まれていることから、企業が実施すべきマーケティング活動の範囲が広がっていると説明。
そして、そのスタンスは企業のInstagram公式アカウントの使い方にも表れていると続けました。たとえば、ある企業のアカウントでは、製品そのものを撮影した投稿や、CMに起用している芸能人が映った投稿で埋まっています。一方、別企業のアカウントでは、研究者のこだわりを伝える投稿や、社員が社会貢献活動に参加している様子などを発信する投稿など、さまざまなステークホルダーを意識した投稿が見られるからです。また、世界有数の海運企業であるデンマークのMaerskも、Instagramで積極的にステークホルダーとコミュニケーションを取っており、「クリーンエナジーへの転換を目指し、社会的責任を負って事業をしている」というメッセージを一つひとつの投稿で伝えています。「こうしたコミュニケーション・デザインが、日本企業においてはまだまだ遅れているのではないか」と青木教授は問題提起を行いました。
加えて、自身が宿泊したSDGsを実践するビジネスホテルで見かけた言い回しを例に、サステナビリティを意識したコミュニケーションを行う上での日本語表現の難しさについても言及。たとえば、宿泊客に対してSDGsへの協力を感謝する「Tomorrows says thanks.」といった洒落た言い回しも、日本語訳では「明日に向けた取り組みを」と表現されていたといいます。
青木教授は「標語のような堅苦しい言い回しになってしまっては、小うるさい印象に伝わってしまう。メッセージ一つをとっても、生活者が自然とSDGsの活動に参加したくなるようなコミュニケーションを構築していかなければならない」と見解を示しました。
これからも未来のカーボンニュートラル社会、サーキュラーエコノミーの社会実装について、多様なゲストをお招きしながら、皆さんと一緒に考える機会を作っていきたいと考えています。私たちの取り組みにご期待ください。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm |