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素材や化学にまつわる素朴な疑問をひも解く連載「カガクのギモン」。今回の疑問は、雪の結晶はなぜ六角形になるのかというもの。その原理について、カガクに詳しい「モルおじさん」が解説します。
※本記事は、2020年冬号として発刊された三井化学の社内報『MCIねっと』内の記事を、ウェブ向けに再編集して掲載しています。
イラスト:ヘロシナキャメラ 編集:中川真、吉田真也(CINRA)
六角形の芸術をつくり出す水分子の構造とは?
手袋に舞い降りた一粒の雪。ふと目を向けると、そこに花のような雪の結晶を見つけることもある冬シーズン。神秘的で美しい雪片に思わず目が奪われます。ところで、なぜ雪の結晶は幾何学模様になるのか不思議に思ったことはありませんか?
今回も、そんな素朴なギモンに対して、カガクに詳しい「モルおじさん」が丁寧に解説します。
皆さんご存じの通り、雪は水が凝固したものです。水分子(H2O)は「やじろべえ(釣合人形)」のような形で結合しており、やじろべえの頭の部分が酸素原子(O)、2本の手の部分にそれぞれ1個ずつの水素原子(H)が配置されています。
この2本の手の間の角度(結合角)は104.5度となっており、これは幾何学的な正四面体の中心角109.5度に近い値です。
酸素と水素は相性が良く、たくさんの水分子があるとお互いに引きつけ合うため、水分子同士がつながっていきます。このつながりのことを「水素結合」といいます。
隣り合う4つの水分子が結合角104.5度をベースに水素結合することで、水分子の集まりは正四面体を形成していきます。
さらに、その正四面体が複数結合されることで平面では六角形を形成するため、雪の結晶はどれも六角形を中心に六方向に成長していきます。
幾何学的でとても美しい雪の結晶は、自然につくられた水分子の構造が描く六角形の芸術といえるかもしれません。
六角形、樹枝状、角板、針……。結晶の形を決める要素とは?
雪の結晶の美しさに魅せられ、世界で初めて人工雪をつくることに成功した物理学者の中谷宇吉郎先生は、「雪は天から送られた手紙である」という言葉を残しています。これは実際に地上に降ってきた雪の結晶の形を調べれば、その結晶ができた上空の気象条件を知ることができるという意味なんです。
雪の結晶はすべて六角形が基本になっていますが、実際に観察すると樹の枝のように美しく広がった結晶もあれば、針のように細長いものもあります。なぜなら、温度によって成長する結晶面が異なり、湿度(水蒸気)が形の複雑さを左右するからです。
中谷先生の実験により、樹枝状の結晶は気温が−15℃前後で水蒸気が多いときにできることや、同じ温度でも水蒸気が少ないと角板になり、針の結晶となるのは−6℃前後の比較的温かいときであることなどが分かっています。
今年の冬、皆さんのもとに天からの手紙が届いたときは、ふと今回のお話を思い出し、空の様子を思い浮かべてみてください。
モルおじさんのひとこと
今回はきれいな雪の結晶についてお話しました。じつは、プラスチックにも「結晶をつくるもの(結晶性)」と「結晶をつくらないもの(非晶性)」があるのをご存知でしょうか。プラスチックにも種類がたくさんあるので、必ずしもどちらかに当てはまるとは言い切れませんが、結晶をつくるプラスチックは硬くて強いイメージで、一方の非晶性のプラスチックは透明性が高いものが多いイメージです。たとえば、結晶性プラスチックであるPETを原料としたペットボトルは、溶けた樹脂を急速に固めて結晶化度(結晶化している度合い)を低くすることで透明性を高めています。結晶性プラスチックの硬さと強さを活かしながら、中身がくっきり見える透明性をバランスさせているんですね。非晶性プラスチックの代表例としては、スマートフォンなどのカメラレンズ素材の「アペル🄬」などがあります。非晶性の高い透明性を活かし、みんなの思い出をきれいに映すレンズ材料として、ほぼすべてのスマートフォンに搭載されています。どちらのプラスチックも特徴を活かしながら、みんなの身近に使われているんですね。
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- 「アペル🄬」