そざいんたびゅー

プラスチックを悪者にしない。
アッシュコンセプトの名児耶秀美が語る素材愛

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取材・執筆:村上広大 写真:澤田詩園 編集:吉田真也(CINRA)

楽しみながらペットボトルを再利用できる。ハート型ボトルキャップの開発経緯

MOLp:その例でいうと、+dから2009年に発売された「Heart(ハート)」というペットボトルキャップを、MOLpで開発した素材「NAGORI®」を利用して2022年12月に再発売しましたね。

名児耶:「はい。もともと初期につくった「Heart」は、日産のデザイナーだったSugiX(杉江 理)さんという方が持ってきた「お年寄りや子どももにぎりやすく、開けやすいペットボトルキャップをつくりたい」というアイデアを具体化したものでした。かわいいハート型のキャップであれば、にぎりやすく楽しみながらペットボトルを再利用できるかもと思って商品化したんです。

初期につくった「Heart」。素材はハイミラン®(三井・ダウ ポリケミカル)で、材質は少し柔らかく、肌馴染みの良い加工に仕上げている ©アッシュコンセプト

その後、初期の「Heart」から10年以上が経ち、そろそろ進化させたいなと考えていたときに、とある展示会でMOLpの海のミネラルから生まれた新素材「NAGORI®」と巡り合いました。ただ、第一印象では扱いにくそうな素材だなと思ったんです。

MOLp:あ、扱いにくいと思ったんですね(笑)。

名児耶:当時は、風合いに均一性がないところが気になったんですよね。あとコストも決して安くはないですし……(笑)。でも同時に、この素材を使ったら素敵な商品がつくれそうだという直感も働きました。

それに時代的にマッチしている気もしたんです。かつて日本人は「世界でいちばん品質にうるさい」と言われ、風合いが異なるとB級品のように見られるケースも多かった。しかし、いまは価値観も多様化し、ひとつずつ異なる物に魅力を感じる方も増えていますからね。イノベーティブな素材であるNAGORI®特有の風合いも、受け入れられる時代が来たと思って採用したんです。

MOLpのNAGORI®でつくられた最新の「Heart」。NAGORI®は、海水淡水化設備から廃棄されることでサンゴの死滅などの課題となっている「濃縮水」を利用しようというコンセプトから生まれた新素材。プラスチック同等の成形性を持つので、さまざまな用途での展開が可能 ©アッシュコンセプト

名児耶:結果として「Heart」はいままでにない質感で、新たな表情を見せてくれるペットボトルキャップになりました。わざわざペットボトルのキャップを買うと考えると高いものかもしれませんが、ペットボトルを何度も使おうと考えたら、キャップは自分らしいものが嬉しいはず。ずっと使いたくなるような商品になったと思うので、その価値や魅力を感じていただける方に、大事に使ってもらえたらいいですね。

MOLp:+dとMOLpのコラボとしては、カーボンニュートラルに貢献する廃食用油からつくられたバイオマスのポリプロピレンを用いて、平和を願うゴム鉄砲 「Peace Gun(ピースガン)」も同時期に再発売しましたね。

名児耶:そうですね。鉄砲の形状だけど、「PEACE」という文字がかたどられているとおり、これで遊んでいさかいのない平和な世の中になってほしいというデザイナーの浅野泰弘さんの思いがこもったピースフルなアイテムです。だからこそ、人にも地球環境にも優しいプロダクトにしたかったんです。温暖化問題の解決を目的につくられたバイオマスのポリプロピレンで製品開発できたからこそ、より意義のあるリニューアルになりました。

平和を願うゴム鉄砲「Peace Gun」。素材として採用されたバイオマスのポリプロピレンは、本来だと石油由来であるプラスチックの原料を、植物油などの廃食用油に置き換え、カーボンニュートラルの実現を目指している。詳しくは、BePLAYER®のWEBサイトにて ©アッシュコンセプト

100年後の世界はどうなっていると思う? プラスチックは本当に悪者なのか考える

MOLp:先ほど価値観が多様化していることに言及されていましたが、時代を経るなかで「素材」に対する人々の価値観も大きく変わってきていると感じますか?

名児耶:そうですね。最近はSDGsが盛んに言われるようになっていますし。でも、いまになって騒ぎ出すのはおかしなことじゃないですか。環境のことを考えないままものづくりをしてはいけないっていうのは、昔から前提条件だと思うんですよね。

なかでもプラスチックが悪者扱いされることは許せないんです。プラスチックは素晴らしい素材で、これまでさまざまな課題を解決してきました。でも、私たちの捨て方も含めて使い方が悪いから問題になってしまった。つまり、原因は人間にある。

これは極端な話だけれど、地球にとって最もエコなのは、人間がいなくなることですよ。だって、人間の日々の生活によって地球環境が破壊されているんだから。でも、人間が地球で暮らしていく以上、それを言っても仕方ありませんよね。だから、少しでも地球環境が良くなることを私たちは考えなければいけません。

MOLp:たしかにそうですね。そういう意味でも「プラスチックを悪者にしない」は、デザインが解決できる課題のひとつのような気がします。

名児耶:ぼくね、学生にデザインを教える機会があるんですけど、そこでは「100年後、200年後の世界はどうなっているんだろう?」と投げかけています。

そのときに確実に言えることは「自分は生きていない」ということ。だとしたら、自分だけが得をすればいいというわけにはいきませんよね。次の世代のことを考えて、知恵を絞ってより良い方向に導くためのいろんなことをやっていかないといけないと思うんです。

北欧デザインの源流にもあるジャポニズム。日本人としての誇りを持ってものづくりしたい

MOLp:それこそ、デザインが良くて長く使えるものは、100年後も200年後も残っている可能性がありますよね。

名児耶:そう思います。たとえば、祖父母から譲り受けたものを大事に大事に使うのってすごく素敵じゃないですか。良いものを長く大切に使うって、シンプルだけどすごく大事なことですよ。

他人と過去は変えられないといわれますが、逆をいえば自分と未来は変えることができるわけです。一人ひとりが良い行ないをしていけば、悪い方向に進むことはないんじゃないかなと思います。

左は取材に同席したMOLpの松永

MOLp:時代の流れや人々の価値観が変化してきているなかで、今後のビジョンを教えてください。

名児耶:やはり日本のものづくり企業として、引き続きデザイン性にこだわったものづくりをしていきたいですね。日本は資源が乏しいからこそ、工夫しながらものづくりをしてきた歴史があります。そんな国は世界でも稀ですよ。

日本では北欧デザインが人気ですが、じつは北欧デザインの源流を辿るとジャポニズムの影響があるんです。つまり、北欧のシンプルで余白のあるデザインは、もともと日本的な価値感だったわけです。

私はデンマーク人の師匠からデザインを学びましたが、そのことを知ってから、ますます日本人としての誇りを持ってものづくりに取り組みたいと思いましたし、その気持ちはいまも変わりません。

もちろん、なかには「安さ重視」で物をつくる人や企業もいますが、それを反面教師に私たちはきちんとものづくりに励まないといけないと思うんです。当たり前のことを当たり前にやっていい時代が来ているわけですから。

PROFILE

名児耶 秀美Hideyoshi Nagoya

アッシュコンセプトの代表取締役、デザインプロデューサー。武蔵野美術大造形学部在学中にデンマーク人デザイナーのペア・シュメルシュア氏に師事。高島屋、マーナを経て2002年にアッシュコンセプトを設立。デザイナーとのコラボレートブランド「+d」をはじめ、さまざまな企業や産地とのものづくりにも取り組む。2012年には地元・蔵前に直営店のプロダクトショップ「KONCENT(コンセント)」1号店をオープン。国内外に店舗を構える。