カガクのギモン

交通渋滞はなぜ起きる?カガクの視点で原理と研究を解説

  • Social

outline

素材や化学にまつわる素朴な疑問をひも解く連載「カガクのギモン」。今回は、「障害物のない高速道路で渋滞が起こるのはなぜ?」という疑問にカガクに詳しい「モルおじさん」が答えます。

※ 本記事は、2021年夏号として発刊された三井化学の社内報『MCIねっと』内の記事を、ウェブ向けに再編集して掲載しています。

イラスト:ヘロシナキャメラ 編集:生駒奨(CINRA)

ドライバーの「気持ち」が原因!? 高速道路で渋滞が起きる理由

待ち遠しい春休みやゴールデンウィーク。もう旅行やレジャーの計画は立てていますか? 車で遠出するとき、心配になるのが交通渋滞。その多くは赤信号や道路上での事故が影響していますが、それ以外にも渋滞の原因はあるのでしょうか?

今回は、交通渋滞が起きる原理を、カガクに詳しい「モルおじさん」が解説します。

車を乗りこなす、カガクに詳しい「モルおじさん」
車を乗りこなす、カガクに詳しい「モルおじさん」

高速道路には、信号機や交差点がありません。カーブも少なく、みんなが決められた範囲の速度で走れば渋滞することはないように思えます。しかし実際には、高速道路上で渋滞に巻き込まれることも多々ありますよね。

その原因は、ずばり「無意識にブレーキを踏んでしまっていること」。その裏には、人間の心理や目の錯覚が関係しているのです。

例えば、運転していてトンネルに差しかかると、人は「狭くて暗い場所に入っていくこと」に心理的な圧力を感じます。すると、知らず知らずのうちにブレーキを踏んで速度を緩めてしまうのです。

トンネル減速

無意識のスピードダウンは、緩やかな上り坂などでも起こります。目の錯覚で道路が坂になっていることに気づかず、アクセルの踏み込みをそのままにしていると、少しずつ速度が低下。すると、その後ろにいる車も速度を落とさなければならず、その後ろも、そのまた後ろも……、と、「減速の波」が発生。車と車の距離が縮まり、「渋滞」の状態が生まれるのです。

坂道減速

カガクの力で渋滞を解消!? 樹脂研究との共通点も

カガクの世界では、渋滞に関する研究ももちろん行なわれています。その研究は、「車を粒子に例えてシミュレーションする」(*1)というもの。

渋滞シミュレーション

この研究で有名な手法は、格子状のセルと車に見立てた玉を用いたもの。玉(車)に「前のセルが空いていたらひとつ進む」という単純な規則を与え、どんなときに渋滞(セルが連続で埋まる状態)になるかをシミュレーションします。このようにして玉同士の距離をコントロールしながらより良い流れをつくる方法を模索しているのです。

樹脂の研究でも、同じようにシミュレーションを幾度も重ねることでより良い素材づくりを追求しています。冬が明けたら、車を走らせて研究のヒントを探す旅に出るのもいいかもしれません。

.空飛ぶスポーツカー

モルおじさんのひとこと

今回は道路における車の流れを効率化する話をしましたが、樹脂の成形でも「渋滞」は発生します。例えば射出成型では、樹脂の流動性が悪いとき、樹脂が流れにくくなるような構造があるときなど原因はさまざまです。樹脂の流動性を改善したり、できあがる製品の構造を見直したりする、あるいは金型で「バイパス構造」をつくり、「流路設計」で乗り越えるといった対応も行われています。

樹脂は自動車にとってはなくてはならないものになっており、車体重量の約10%を占めています。ガソリン車からEVなどの電気自動車が増えれば、電池により車体重量が重くなるため、樹脂化はますます求められます。樹脂を用いる理由はさまざまありますが、一番の理由は強度や耐熱性を持ちながらも軽量性に優れること、加工が容易のためコストを下げられることなどがあります。

軽量化すれば1回の給油や充電での走行距離が長くなります。そこでご紹介したいのが、見て触って比較検討ができる素材キット「MATERIUM™」。40mm角のキューブ状になっていますが、じつは素材によって成型方法や成形条件を変えています。同一形状だからこそ、手に持ってその重さ、表情、質感などを比べることができます。完全に同一形状にするためには、素材の個性を見極めながら製造することが大事になります。MATERIUM™には現在6シリーズあります。