事例紹介

人肌や人眼を模した樹脂素材を開発

Bionic-EyE™(自社開発品)

近年、医学教育の効率化や難手術の効果的訓練が求められています。一般的に、眼科手術練習には豚眼が使用されていますが、豚眼の組織構造は人眼とは異なるため、十分な練習とはならず、衛生上も倫理上も問題がありました。そのため、豚眼に代わる、精工な眼科手術練習シミュレーターが求められていました。

東京大学と共同研究を行い、三井化学にて精巧な眼球手術シミュレーターと眼球モデル、「Bionic-EyE™(バイオニックアイ™)」を開発しました。本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション 会議が主導する ImPACT プログラム「バイオニックヒューマノイドが拓く新産業革命」の一環として実施され、プログラム終了後も、眼球モデルの開発を継続しています。

開瞼器の取り付け練習ができるフェイス、眼内組織を模した眼球モデルの開発

バイオニックアイ™のフェイスは、これまでの眼科手術シミュレーターと異なり、人の肌を模した柔らかい素材で作られているため、開瞼器を取り付ける練習ができます。
三井化学では、大学との共同開発、眼科医のフィードバックに基づく改良など、教育機関、医療機関とのシナジーで開発を推進しました。製造面では、ウレタン、シリコン、繊維などを自在に組み合わせて人間の繊細な眼内組織を模倣する材料開発を行うとともに、ミクロン単位の眼内組織を再現する製造技術を提供しています。

人肌に近い素材として使われる樹脂素材の代表例

近年、医療・福祉・エンターテイメント業界などで、人と接触するロボットが開発される中、人肌そっくりの柔らかさや、伸縮性が良くちぎれない素材が求められています。ポリウレタンやシリコーンは、このようなニーズに合った素材であり、バイオニックアイ™にも採用されています。

ポリウレタン

ポリウレタンはウレタン結合を含む高分子化合物の総称です。非常に幅広い密度と硬さを網羅しており自動車・航空機や人工心臓、人工皮膚、カテーテルなどの医療用材料など幅広い分野で使用されています。
水を含んだ柔らかいゲルや高倍率で発泡させたフォームのような形態から硬い無機材料で複合化させた形態でも使用されています。

シリコーン

人間と見間違えるような精巧なアンドロイドの表層にはシリコーンが多く使用されています。シリコーンは柔軟で変色や粘着性が少ない利点がある一方、引き裂かれやすいのが特徴です。
三井化学では独自の材料開発で引き裂かれに強く、変形しても回復する柔軟で変色しない人肌ゲルの開発を進めています。

手術練習用眼球モデルの開発

緑内障手術用の眼球モデル(アブエクステルノモデル)

眼内は房水と呼ばれる液で満たされ眼圧の調整をしています。房水を眼外へ排出するシュレム管が詰まると、眼圧が上昇し緑内障を生じます。シュレム管内の詰まりを除去し眼圧を下げる手術として、眼球の白目部分にあたる強膜を薄切・縫合する方法(眼外法)があります。
一般的に、眼科手術練習には豚眼が用いられることが多いですが、豚眼と人眼では強膜の組織構造が異なっているため、豚眼ではこの薄切・縫合練習はできず、眼科医の手技習得が課題となっていました。
弊社では、ヒトのコラーゲン繊維の層状構造を模した模擬強膜を開発。模擬強膜は柔軟でちぎれにくく、手術用ナイフでめくり、フラップを作成した後、縫合糸で縫い合わせることができます。

内境界膜剥離練習用の眼球モデル(ILMモデル)

「黄斑(おうはん)」とは網膜の中心部であり、物を見る細胞(視細胞)がたくさん集まっています。その黄斑の中央に穴が開いてしまう病気が「黄斑円孔」です。直径0.5ミリメートルにも満たない完全な穴が形成されてしまうと、視力が0.1前後になってしまいます。 高齢者に多い病気ですが、強度近視の方、眼球を強く打撲した後などでは若い人に起こることもあります。
黄斑円孔の手術では、網膜の表面にある内境界膜(ILM)剥離を行うケースが多くあります。黄斑円孔の穴が外側へ引っ張られなくなり、塞がりやすくなるためです。 内境界膜(ILM)は豚眼にはない組織のため、これまで臨床手術以外で剥離する機会がなく、眼科医の手技習得が課題となっていました。
弊社では、内境界膜を独自素材で模倣した眼球モデルを開発。内境界膜は眼球モデル眼底部に設置されており、手術用のトロカールカニューラや鉗子を用いてリアルな剥離練習ができます。

三井化学のロボット開発ソリューション

三井化学では、材料開発・選定、設計開発、部品加工、評価/分析といったロボット開発に必要なソリューションをワンストップで提供しております。
ロボット開発において抱えている技術課題に対し、これまでに培った樹脂素材の豊富な知見を活かし解決します。