- カーボンニュートラル
DAC(二酸化炭素直接空気回収技術)とは?その仕組みから今後の展望までを解説

カーボンニュートラル社会の実現に向けた議論の中で注目されている「DAC(Direct Air Capture:直接空気回収)」。まだこれからの技術でもあるため、この用語を耳にしたことがある方も、具体的な内容まで掴めていないところがあるのではないでしょうか。
そこで、今回の記事では、カーボンニュートラル社会の実現に向け、特に二酸化炭素(CO2)除去の分野で注目されるDACについて、その仕組みやメリット、市場動向などをわかりやすく解説します。
DAC(Direct Air Capture)とは?
DAC(ダック)とは、Direct Air Capture(ダイレクト・エア・キャプチャー)の略称で、日本語では「直接空気回収」と呼ばれ、大気中のCO₂を直接回収する技術のことを指します。
工場や発電所などの排ガスからCO₂を回収する技術とは異なり、特定の排出源に依存せず、大気中に含まれる低濃度CO₂を直接、分離・回収する点に最大の特徴があります。
DACが注目される背景:地球温暖化とカーボンニュートラルの必要性
近年、DACが注目を集めている背景には、地球温暖化の進行があります。世界気象機関(WMO)によると、最近3年間(2023年〜2025年)の世界平均気温が観測史上でトップ3を占めており、いま地球温暖化に歯止めをかけなければ、気候変動問題がより深刻化するリスクが高まるため、その解決策のひとつとして、大気中のCO₂を直接回収するDACの展開が注目されています。
また、2015年に採択された気候変動に関する国際的枠組みである「パリ協定」では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃以下に抑える努力目標が掲げられています。この目標を達成するためには、2050年までにCO₂など温室効果ガス(GHG)の排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現が不可欠とされています。そのため、世界各国がカーボンニュートラル実現を目標に掲げ、GHG排出量削減に向けた様々な施策を講じています。
※カーボンニュートラルについては「カーボンニュートラルとは?意味や目標をわかりやすく解説」にて詳しく解説しています。
CCUSとの違いと、DACの位置づけ
ネガティブエミッション技術としては、DACの他に、CCSやCCU、CCUSがあります。これらの技術は、あらゆる排出削減策を講じた上で、それでも排出されるCO₂に対応するもので、それぞれの概要は以下の通りです。
DAC(Direct Air Capture)
大気中のCO₂を直接回収する技術。回収技術には、化学吸収法や膜分離法、電気化学法、物理吸着法などが存在する。

出典:経済産業省「DACロードマップの策定に向けた検討/DACの役割(p.3)」
CCS(Carbon Capture and Storage)
「CO₂の回収・貯留」を意味し、地下にCO₂を埋め、大気に再放出させないことにより、地球温暖化に作用させないようにするもので、化石燃料などに由来する炭素を地中にもどす技術。
CCU(Carbon Capture and Utilization)
「CO₂の回収・利用」を意味し、CO₂を燃料やプラスチックなどに変換して利用したり(カーボンリサイクル)、そのまま直接利用したり、様々な方法で資源としてCO₂を有効利用する技術。CCUにより、GHG排出量削減という環境価値と、CO₂を有価物に変換する経済的な価値を、同時に生み出すことが期待されている。
CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)
CCSとCCUを組み合わせたもので、下図のようなフローが想定されています。
DACの仕組み:大気中の二酸化炭素を回収するプロセス
DACが大気中のCO₂を回収する基本的な仕組みは、以下の3ステップで行われます。
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吸気:ファンなどを使い、大気中の空気を装置内に取り込みます
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吸着・吸収:取り込んだ空気を特殊な薬剤(吸収液)やフィルター(吸着材)に接触させ、
CO₂だけを吸着・吸収させます -
分離・回収:熱や圧力、真空などを加えることで、吸着・吸収したCO₂から不純物を取り除き、
高純度のCO₂として回収します
大気中のCO₂濃度は約0.04%と非常に低いため、効率的に回収するためにさまざまな化学的・物理的アプローチが研究されています。
DACの種類
DACについては、さまざまな手法の研究が進んでいますが、その中でも代表的な7つの方式を紹介します。
・化学吸収(液体吸収)法:
空気を吸収液に通すことで、CO₂を吸収・分離し、加熱などによってCO₂を回収する方法。
・化学吸着(固体吸着)法:
空気を吸着材に通すことで、CO₂を吸着・分離し、加熱・減圧・加湿操作により、
CO₂を回収する方法。
・膜分離法:
空気を分離膜に通すことで、大気中のCO₂を分離・回収する方法。
・電気化学法:
電極に電気を流してCO₂を吸着し、電圧を変えることで回収する方法。
・物理吸着法:
高圧・低温下で吸着剤に接触させ、物理的にCO₂を吸着し、減圧または加熱により、
CO₂を回収する方法。
・物理吸収法:
高圧・低温下で吸収液に接触させ、物理的にCO₂を吸収し、減圧または大気圧に開放し、
加熱することでCO₂を回収する方法。
・深冷分離法:
CO₂の凝固点まで空気を冷却し、CO₂をドライアイスにして分離する方法。
<DAC技術比較>
※各種企業HP等をもとにみずほリサーチ&テクノロジーズ作成
出典:経済産業省「令和5年度地球温暖化・資源循環対策等に資する調査委託 / Direct Air Capture の産業化に向けた環境整備に関する調査分析報告書(p.4)」
日本国内では、2025年11月に、川崎重工が神戸工場内でDAC実証設備を完成させたことを発表。同DAC設備は、将来の大型化に対応可能なモジュール型設計を採用した、国内最大級の実証設備(回収量:100~200 ton-CO₂/年/モジュール)で、独自の固体吸着材を用いた省エネルギー型の回収方式を採用しています。
また、国内他社でも化学吸着法や深冷分離法に加え、CO₂を分離する際のエネルギーが比較的少なくて済むとされる膜分離法などの研究開発が進められています。
DAC技術のメリット
このようなDAC技術を導入することで、カーボンニュートラル社会に向けた以下のようなメリットが生まれます。
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「ネガティブエミッション」の実現:
あらゆる排出削減策を講じても、どうしても避けられないCO₂排出をDACで吸収することができ、2050年カーボンニュートラル実現に寄与する。 -
カーボンリサイクルによる原料確保:
CCUとセットで進めることにより、回収したCO₂を合成燃料(e-fuel)、化学品、コンクリートなどで必要となる炭素資源として活用できる。 -
除去クレジットとしての価値:
カーボンニュートラルを達成した後も、CO₂排出を行う主体と炭素除去を行う主体との間で、残余排出量と除去量を均衡させるためのクレジット取引等で活用されることが想定される。 -
設置場所の柔軟性が高い:
特定の排出源(工場など)に依存しないため、設備立地の自由度が高く、再生可能エネルギーが豊富な土地や、貯留地に近い場所、カーボンリサイクルプラントの近くなど、条件の良い場所を選んで設置することができる。
DAC実用化に向けた課題
このように大きな可能性を秘めるDACですが、本格的に普及させるためには、いくつかのハードルがあります。
・高額なコスト
現在、DACによるCO₂回収コストは、適用技術や実施条件により大きく異なるものの、1tあたり400ドル〜1,000ドル程度と想定されており、収益性が低いことが課題となっています。そのため、低コスト化技術の研究開発やインセンティブの導入が求められています。日本においては、J-クレジット化によるDACへのインセンティブ付与が検討されています。
・膨大なエネルギー消費
ファンを回したり、CO₂を分離するために熱を加えたりと、手法によっては多大なエネルギーが必要となります。そのため、省エネルギー技術や高効率化の研究開発が進められています。
DACの市場動向
ただ、世界中でDACへの投資と期待は着実に高まっています。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界全体で2030年には約9,000万t/年、2050年には約9億8,000万t/年のDACによるCO₂回収が必要とされています(貯留・利用を含む)。
また、IEAでは、2050年にカーボンニュートラル(ネットゼロ)を達成するために、2030年に約400億ドル/年、2050年には約1,200億ドル/年の規模でDACに投資する必要があると推測しています。こうした中で、欧米企業や日本企業をはじめ、世界各国でDACによる環境負荷低減と新たなビジネスチャンスの獲得に向けた動きが活発化しつつあります。
<DAC市場規模(世界)>
出典:経済産業省「DACロードマップの策定に向けた検討/DAC市場規模予測(p.7)」
DACが切り拓くカーボンニュートラルの未来と展望
DACは、2050年カーボンニュートラル達成に向けて、既存技術における排出量削減だけでは残ってしまう排出量を回収・除去する「ネガティブエミッション技術」です。現状ではコストやエネルギー効率といった課題は残るものの、IEAのロードマップが示す通り、2050年ネットゼロの目標達成には欠かせない技術として、世界的な投資と技術開発が加速しています。
今後は、CO₂を削減するだけではなく、CO₂を回収し、新たな炭素資源として利用する「カーボンリサイクル」の視点がより重要になってくるでしょう。
カーボンニュートラル社会の実現に向け、DACのような最新技術の動向を注視しつつ、自社のバリューチェーン全体でどのような貢献ができるか、多角的に検討していくことが求められます。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
- 参考資料
- *1:経済産業省「DACワーキンググループ」:
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/negative_emission/dac_wg/index.html - *2:国立研究開発法人産業技術総合研究所 産総研マガジン「DAC(直接空気回収技術)とは?」:
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20230830.html#tid-1 - *3:環境省「CCUSについて」:
https://www.env.go.jp/earth/ccs/about-ccus.html - *4:経済産業省 資源エネルギー庁「エネこれ/知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」:
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html - *5:The International Energy Agency (IEA)「Direct Air Capture」:
https://www.iea.org/energy-system/carbon-capture-utilisation-and-storage/direct-air-capture - *6:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「ネガティブエミッション技術について(DACCS/BECC)」:
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/negative_emission/pdf/002_02_00.pdf
