カガクのギモン

なぜポテトチップスは、開けるまでパリパリなの? 多層フィルムと単層フィルムの違い

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素材や化学にまつわる素朴な疑問をひも解く連載「カガクのふしぎ」。今回のテーマは、「なぜポテトチップスは開けるまでずっとパリパリなの?」です。

ポテトチップスの魅力はなんといっても、あの「パリッ」という食感。でも、袋を開けたまま放置すればあの食感は失われてしまいます。つまり、あのおいしさを生み出していたのは、ポテトチップスの素材や調理法だけではありません。私たちが何気なく捨てている「袋」にも、大切な役割があるのです。

最近話題になったポテトチップスの銀色の袋。あの色には、どんな意味があるのでしょうか。じつは同じような工夫が、かつお節のパックにもあります。ポテトチップスの「パリッ」。かつお節の「フワッ」。今回は食品包装のひみつを、カガクに詳しいモルおじさんが解説します。

イラスト:ヘロシナキャメラ 編集:川谷恭平(CINRA)

ポテトチップスをパリパリにしているのは、じつは袋だった?

ポテトチップスがおいしいのは、じゃがいもや味付けだけのおかげではありません。袋もまた、おいしさを守る大切な役割を担っています。

ポテトチップスの大敵と包装に求められる3つの機能

ポテトチップスの大敵は、湿気・酸素・光。湿気を吸うと柔らかくなって「パリッ」という食感が失われ、酸素や光にさらされると油が劣化して風味も落ちてしまいます。

そこで袋には、次の機能が求められます。

• 水蒸気を通しにくい
• 酸素を通しにくい
• 光を遮る

つまり、ポテトチップスの袋は単なる入れ物ではなく、「パリッ」を守るための装置でもあるのです。

1枚に見える袋は、本当に1枚?──多層フィルムの正体

私たちは食品の袋を1枚のフィルムとして見ています。しかし実際には、1種類の素材だけでできているとは限りません。

多層フィルムとは? 素材ごとに役割を分担する仕組み

多くの食品包装では、それぞれ得意な働きを持つ素材を何層も重ねてつくられています。これを多層フィルムといいます。言うなれば、素材たちのドリームチームです。

サッカーチームにゴールキーパーやディフェンダー、フォワードがいるように、食品包装にも役割分担があるのです。

たとえばポテトチップスの袋には、次のような素材が組み合わされています。

• 強度を支える素材
• 印刷をきれいに見せる素材
• 湿気、酸素、光を防ぐ素材
• 熱で袋を閉じる素材

ポテトチップスの袋の構造と層構成

では、実際にどんな順番で重なっているのでしょうか。代表的なのが、外側からOPP/裏刷インク/LDPE/VM-PET/LDPE/CPPの順に重なった構成です。

髪の毛より薄い層に、いくつもの素材が重なっている

この袋全体の厚みは、およそ数十μm(マイクロメートル。1μm=0.001mm)。髪の毛1本の太さが約60~100μmなので、それと同じか、より薄いくらいの厚みの中に、多くの層が重なり合っているのです。

その薄い世界の中で、それぞれの素材が役割分担をしながら、おいしさを守っています。

ポテトチップスの袋の構造。銀色の正体はVM-PET

なぜポテトチップスの袋は銀色なの?──アルミ蒸着フィルムの正体

2026年、ポテトチップスのパッケージが白黒になり、銀色の袋が話題になりました。じつはあの銀色、もともと袋の内側で働いていた層が表に出てきただけなのです。

では、その層の正体とは何なのでしょうか。

VM-PET(アルミ蒸着PET)とは?

その正体がVM-PET(アルミ蒸着PET)です。PETフィルムの表面にアルミニウムを極めて薄く蒸着(※)した素材で、アルミ箔を貼ったわけではありません。目に見えないほど薄い金属膜です。それでも、この極薄の膜には、次のような優れた性質があります。

• 光を通しにくい
• 酸素を通しにくい
• 水蒸気を通しにくい

※真空中で金属を蒸発させ、フィルム表面に極薄の金属膜を形成する技術。厚みは数nm(ナノメートル。1nm=100万分の1mm)。

銀色は見た目ではなく「機能の色」

ポテトチップスにとってとくに重要なのは、VM-PETが湿気を防いでパリパリ感を守ること。さらに、光や酸素による油の劣化も防いでくれます。

つまりあの銀色は、見た目ではなく、おいしさを守るための機能の色なのです。

VM-PETが湿気や酸素、光を防いでくれる

でも、かつお節の袋はなぜ透明なの?

ここまで見てきたのは、光も酸素も遮る「銀色の包装」でした。ところが中が透けて見える透明な袋なのに、香りや風味をしっかりと守れるものがあります。それが、かつお節のパックです。

かつお節の包装に求められる働き

かつお節の包装には、次の働きが求められます。

• 酸素を防ぐ
• 湿気を防ぐ
• 香りを逃がさない
• 中身が見える

このうち「中身が見える」を満たすには、銀色のアルミ蒸着は使えません。そこでかつお節パックには、透明性とバリア性を両立した構造が使われることがあります。

かつお節パックの構造と層構成

代表的なのが、外側から PET/印刷/接着剤/透明蒸着PET(または EVOH)/CPP
(EVOH:エチレン・ビニルアルコール共重合体)

「パリッ」を守る包装と「フワッ」を守る包装

かつお節パックが守っているのは、香り・風味・見た目です。ポテトチップスが「パリッ」を守る包装なら、かつお節は「フワッ」を守る包装。どちらも多層フィルムですが、目的は違います。

多層フィルムと単層フィルムの違い

では、どんな袋も複雑な多層構造なのでしょうか。じつは、すべてが多層フィルムではありません。

単層フィルムとは? レジ袋やパンの袋に使われる

たとえばレジ袋、青果袋やパンの袋。これらはポリエチレン、ポリプロピレンなど、1種類の素材だけでつくられた単層フィルムが使われることも多くあります。

これらの袋で重要なのは、次の3点です。

• 中身が見える
• 安価
• 加工しやすい

透明だからといって単層とは限らない

ただし、透明だからといって単層とは限りません。カット野菜などの袋には、鮮度を保つための機能を持たせた多層フィルムが使われていることもあります。

大切なのは「高機能かどうか」ではなく「目的に合っているか」

多層フィルムと単層フィルムは、どちらが優れているというものではありません。包装の世界では、「高機能だから良い」のではなく、「目的に合っているか」が大切なのです。

多層フィルムと単層フィルムの構成の違い

食品ごとに、専用の袋がある

ポテトチップスにはポテトチップスの袋。かつお節にはかつお節の袋。野菜には野菜の袋。食品包装は、中身に合わせて1つひとつ設計されています。

私たちは普段、中身ばかりを主役だと思っています。でもそのおいしさや香り、食感を守っているのは、パッケージのほうなのかもしれません。

今度、食品包装をゴミ箱に捨てるときは、この薄い袋の中で、たくさんの素材がチームになって働いていることを思い出してみてください。身近な袋には、じつはたくさんのカガクが隠れているのです。

モルおじさんのひとこと

今回は、真っ先に捨てられてしまう「食品包装」に目を向けてみました。説明が複雑になるので、本文には書かなかったのですが、素材と素材は、ただ重ねるだけではくっつきません。そこで活躍するのが、AC(アンカーコート)や接着樹脂といった縁の下の力持ちです。

三井化学では、ACにタケネート®、タケラック®、接着樹脂にアドマー®、紙とアルミニウムを重ねる構成には、ケミパール®といった素材をそろえています。ほかにも、接着に関わる素材がまだまだあるんですよ。層と層の"あいだ"にも、じつは主役級の働きがあるんです。

最後にプチネタ。ポテトチップスの袋と同じ性能を、もし合成樹脂のLDPEだけで出そうとすると、理論上は7cm以上の厚みが必要になると言われています(※)。そうなると、数十μmの袋が1,000倍以上の分厚さに。厚くなれば、そのぶん重さも増えます。持ち帰るのも、棚に並べるのもひと苦労。それはもはや袋ではなく、重たいブロックですね。薄くて軽いあの包装に、感謝しなければなりません。

※三井化学社内試算による参考値