カガクのギモン

雨の日に髪がうねるのはなぜ? 湿気と水素結合でわかる「くせ毛のカガク」

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素材や化学にまつわる素朴な疑問をひも解く連載「カガクのふしぎ」。今回のテーマは「雨の日に髪がうねる理由」。

梅雨の季節になると気になるあの悩み、じつは髪の分子レベルの話とつながっています。カガクに詳しい「モルおじさん」が解説します。

執筆:ジャスミン(三井化学) イラスト:ヘロシナキャメラ 編集:川谷恭平(CINRA)

雨の日に髪がうねるのはなぜ? 湿気と分子のカガクとは?

梅雨の朝、ドアを開けて一歩外に出た瞬間、髪が湿気でうねりボサボサに。あんなに時間をかけてセットしたのに……と、がっかりした経験がある人も多いのではないでしょうか。

そんな日常の憂鬱な「あるある」を、カガクに詳しい「モルおじさん」が紐解きます。

じつは雨の日に髪がうねるのは、空気中の湿気(水分子)が髪の内部に入り込み、髪のかたちをキープしている「結びつき」を勝手に組み替えてしまうためなのです。では、髪の内部では一体何が起きているのでしょうか? 早速、そのミクロな世界を覗いてみましょう。

髪の主成分「ケラチン」に含まれる3つの結合

髪の毛の主成分は「ケラチン」というタンパク質です。ケラチンは「ポリペプチド」という縦に伸びる長い鎖同士が様々な結合で「手をつなぐ」ことで、髪の形や強さを支えています。

その代表的なつなぎ方(結合)には、強さや性質の異なる次の3つがあります。

水素結合

水に弱く、空気中の水分子(湿気)が割り込んでくるだけであっさりと切れてしまう結合。

イオン結合

+(プラス)と−(マイナス)の電気がお互いに引き合う、「磁石みたいな仲良し関係」でがっちりつながっている結合。

ジスルフィド結合(S-S結合)

化学的にとても強く、しっかりつながっていて、めったなことでは切れない、髪の「骨組み」となる強固な結合。

3つの結合のうち、水分子に切られるのは水素結合だけ。イオン結合とジスルフィド結合は湿気が来ても離れない

湿気によるうねりの犯人は「水素結合」だった

3つの結合のうち、湿気に最も弱いのが「水素結合」です。

湿気が増えると、空気中の水分子が髪の内部に入り込み、この水素結合を勝手に切ったり、別の場所で勝手に「手をつなぎ直して」しまうのです。その結果、整っていた結合の並びが乱れ、髪のかたちがバラバラに崩れるので、うねりやボサボサな広がりとして現れるのです。

パーマをかけた髪は雨に濡れても取れないのはなぜ?

でも、ちょっと待ってください。湿気でこんなに簡単にうねるなら、どうしてパーマは雨に濡れても崩れないのでしょう?

ジスルフィド結合は、水素結合より強い

湿気によるうねりと違い、パーマはもっと深い「骨組み」を組み替えています。うねりは主に水素結合という弱い結合が変わるだけですが、パーマは薬剤を使うことで、強固なジスルフィド結合をいったん切り、髪の形を整えてから別の位置でガッチリ結び直します。

この結合の強さの違いが、「湿気でうまれるうねり」と「長持ちするパーマ」を分ける理由なのです。

くせ毛のうねり方に個人差がある理由

うねり方の個人差は、髪の内部の密度や傷み具合の違いによって生まれます。

髪の構造が、うねり方を決める

じつは、髪の毛には1人ひとり「素材としての個性」があるのです。その個性をつくっているのが、髪の太さ、形、傷み具合、そして髪のなかにあるケラチンの並び方や密度の違いなどです。

髪の内部には、ケラチンがぎゅっと詰まっている場所と、少しスカスカしている場所があります。このバランスが人によって異なるため、湿気を含んだときによく膨らんだり伸びたりする部分(オルトコルテックス)とあまり伸びない部分(パラコルテックス)が生まれ、結果としてうねりの出方が変わってくるのです。

さらに、髪の「すき間」の量も人によって違います。紫外線やカラーリングでキューティクル(髪の表面のうろこ層)が乱れると、そこから水分子が入り込みやすくなり、傷んだ部分だけが局所的にうねることもあります。

こうした違いを整理するとこうなります。

直毛(ストレートヘア)

内部の密度が均一なため、湿気を吸っても髪全体が均等に膨らみます。

くせ毛

内部の密度が不均一で偏りがあるため、湿気を含んだときに「よく伸びる部分」と「あまり伸びない部分」が同時に生まれてしまい、一本の髪のなかでひずみ(うねり)が発生します 。

髪の断面には水を含みやすい「オルトコルテックス」(緑)と含みにくい「パラコルテックス」(紫)の2種類がある。直毛は均一に分布し、くせ毛は偏りがあるためうねりが生まれやすい

このように、うねりやすさは髪の内側の構造によって決まっています。そして、その引き金になるのは外から入り込む水分子です。

オイルやワックスで髪の表面をコーティングして「水分子の入り口」をふさぐというのは、カガク的にもとても理にかなった対策のです。

毎朝、鏡の前で自分の髪の毛と向き合い、ヘアケアをすること。それは単なる身だしなみを超えて、自分だけの素材=髪の個性と向き合う、「一番身近なカガク」なのかもしれません。

髪の毛と天気予報の意外な関係

じつは昔、気象観測で「湿度」を測るのに髪の毛を使っていたんです。髪の毛が湿気によって水を含んで伸びたり、反対に縮んだりする性質を利用した湿度計を用いていました。特にフランス人の金髪女性の毛髪が湿度に敏感で適していると われていました(※)。

出典:名古屋地方気象台のウェブサイト

モルおじさんのひとこと

冬になると、今度は静電気で髪がまとまりにくくなるよね。あれは、ブラッシングや髪同士がこすれあったときなどに「電子」という小さな電気の粒が移動して、髪が電気をためてしまうからなんだ。

溜まった電気同士が「くっつきたくない!」って反発しあって髪の毛がふわっと広がる。とくに冬は空気がとても乾いていて、電気が逃げにくいからよく髪が広がるんだ。

……そういえば、昔の私も髪の悩みがあったような、なかったような。いや、この話はやめておこう。いまはうねりも静電気も気にならなくて、涼しくて快適だからね!