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素材や化学にまつわる素朴な疑問をひも解く連載「カガクのギモン」。今回は、海水を淡水にする仕組みについて。海水には約3.5%の塩分が含まれており、そのままでは飲用に適しません。どんな方法で淡水にするの? カガクに詳しい「モルおじさん」が答えます。
※本記事は、2015年冬号として発刊された三井化学の社内報『MCIねっと』内の記事を、ウェブ向けに再編集して掲載しています
イラスト:ヘロシナキャメラ 編集:吉田真也(CINRA)
海水を淡水にする「逆浸透」とは?
世界では、飲み水に恵まれない地域がたくさんあります。2017年のWHO/UNICEFのデータ*では22億人、つまり世界の10人に3人は安全な水を飲めない状況にあるという結果が出ています。もし、地球の70%以上を占める海水から、飲料水をつくり出すことができたら、安定した水の供給が可能になる。実際、世界中で海水を淡水化する技術が導入され、大きな課題解決に向かって進んでいます。どうやって海水を淡水にしているのでしょうか? カガクに詳しい「モルおじさん」が、その疑問に答えます。
*出典:WHO/UNICEF JMP (2019) Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000-2017. Special focus on inequalities.
海水を淡水化する方法は、大きく分けて2つ。ひとつは、海水を蒸発させて塩分を取り除く「蒸発法」です。しかし、この方法で効率化させていくと大量のエネルギーを消費してしまうので、温暖化の原因につながってしまいます。そこで今回紹介するのが、もうひとつの「逆浸透」という方法です。
「逆浸透」を説明する前に、まずは「浸透」を理解しよう
「逆浸透」を理解するには、通常の「浸透」のメカニズムを知る必要があります。下記の図をご覧ください。
このように、淡水と塩水(海水)を半透膜(※1)で仕切ると、塩の濃度を同じにしようと淡水は自然に濃度の高い塩水へと浸透する特性をもっています。これが、通常の「浸透」の原理です。
(※1) 半透膜:一定の大きさ以下の分子だけを透過させる膜。水の分子だけを透過し、塩分を通さない性質をもっている。動物や植物の細胞膜は半透膜といわれている。
浸透のあと、しばらくすると塩水側の水位が上がり、淡水の流れが止まります。このときの水位の差に相当する圧力のことを、塩水の「浸透圧」と呼びます。
塩水から水の分子だけを透過。淡水をつくる「逆浸透」の原理
浸透に対して、「逆浸透」は文字通り浸透と逆の動きを利用します。人工的に浸透圧以上の圧力を塩水側にかけると、塩水にある水の分子だけが半透膜を超えて、淡水側に押し出されます。これが逆浸透現象です。
この原理を活かすことで、海水を淡水化することが可能になるのです。多くの淡水化装置には、RO膜(※2)という特殊な膜が使われており、RO膜に多種の水を逆浸透させてきれいな淡水をつくっています。
(※ 2)RO膜:RO膜には0.0001ミクロンの孔があり、この超微細な孔を水の分子だけが透過するため、塩分や不純物を取り除いて淡水化することに利用されている。英語のReverse Osmosis(逆浸透膜)の頭文字を取ったもので、塩分を含んだ水に圧力をかけ、水を分子レベルで浄化する。
【豆知識】ナメクジに塩をかけると縮むのも、浸透圧が関係している
ちなみに、ナメクジに塩をかけると縮む現象にも、「浸透圧」が関係しています。ナメクジの体の表面は、虫や哺乳類の皮膚とは異なり、粘膜で覆われています。また、ナメクジの体は90%以上が水分でできているので、塩が付着すると、粘膜に塩が溶けて高濃度の塩水になります。つまり、濃度が低い水(体内)と高い塩水(塩が溶けた粘膜)の状態になるのです。
その結果、ナメクジの体の表面の膜は半透膜のように働くため、粘膜の塩濃度を薄めようと、体内から水が流れ出てしまいます。このように、ナメクジの表面も、塩によって「浸透圧」の原理が働き、体が縮むのです。
モルおじさんのひとこと
SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」でも掲げられているように、世界の水に関する問題は大きな社会課題のひとつです。現在、化学のRO膜でこうした課題への解決が図られています。しかし、その一方で、淡水化設備から出る濃縮水がそのまま廃棄されることにより、海水温の上昇、ミネラルバランスの変化によるサンゴの死滅など別の問題が起こっています。MOLpはそうした課題に対し、濃縮水から新たな素材を作り出す取り組みを開始しました。そこで出てきたアイデアが「NAGORI🄬樹脂」。濃縮水中のミネラルを有効活用し、陶器のような質感の新しいプラスチックを生み出しました。みなさんにも、ぜひその肌触りを体感してほしいです。
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- 「NAGORI🄬樹脂」