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素材や化学にまつわる素朴な疑問をひも解く連載「カガクのギモン」。今回の疑問は、なぜ鉄の手すりと木の手すりの冷たさが違うのか? それぞれ同じ温度でも、鉄のほうが冷たく感じる理由について、カガクに詳しい「モルおじさん」が答えます。
※本記事は、2015年春号として発刊された三井化学の社内報『MCIねっと』内の記事を、ウェブ向けに再編集して掲載しています。
イラスト:ヘロシナキャメラ 編集:吉田真也(CINRA)
同じ温度の物でも、触ったときの体感温度が違うのはなぜ?
木の手すりに比べて、鉄の手すりのほうが握るときに手がひやっと冷たいですよね。それぞれが同じ温度でも、触ったときの温かさが違うのは、なぜでしょうか? 今回も、カガクに詳しい「モルおじさん」が詳しく解説します。
手すりに触れると、人の手の熱が手すりへと移動します。これを「熱伝導」といいます。同じ温度の手すりでも、触ってみると体感温度が異なるのは、素材によって「熱伝導率(熱が伝わる力)」が違うからです。
手すりに限らず、熱伝導率が高い物に触れると、手の熱が物に素早く移動します。鉄は熱伝導率が高い(*約80W/m・K)ので、すぐに人の熱を奪います。だから、鉄の手すりを触った瞬間は、冷たく感じるのです。
一方で、木は鉄よりも、熱伝導率が低い(*約0.2W/m・K)。熱がゆっくりと移動するため、冷たく感じにくい。このように、「熱が移動するスピード」によって、体感温度が変わるのです。
素材の「熱伝導率」を活かした、生活に役立つ製品とは?
素材が持つ熱伝導率は、生活のなかでもたくさん役立っています。そのひとつが、アルミ製のやかん。アルミの熱伝導率は高い(*約230W/m・K)ので、外部から受けた火の熱がすぐに内部の水に伝わります。お湯を沸かすのに最適な素材なのです。
一方、熱伝導率が低い素材の代表例は、発泡スチロール。内部の熱が外部に逃げにくいので、保冷剤などを入れて、飲み物や魚介類などを保冷する場面では重宝されています。
それぞれの素材が持つ熱伝導率の大きさを知ることで、製品づくりはもちろん、生活の知恵にも役立てることができます。
*熱伝導率の数値:室温付近のデータ。実際の数値にはばらつきがあります。
モルおじさんのひとこと
熱伝導率の違いを活かしたプロダクトは、お話しした例以外にも身の回りにもたくさんあります。たとえば、パソコンやスマートフォン、サーバーなどの電子機器や電気自動車のバッテリーなど。性能を維持するために、きちんと熱を逃がしてあげないといけないので、熱伝導率を利用して任意の方向に逃がしています。部品が熱を持つと性能が落ちるため、冷却させるための熱設計が重要です。一方、熱マネジメント面を考えると金属のほうが良いけど、プラスチック素材を使ってサーバーや車を軽くしたいというニーズからジレンマが生じます。そんな課題を解決するのが金属と樹脂が一体化したマルチマテリアル技術「ポリメタック🄬」です。リチウムイオンバッテリーやサーバーマシンも、軽量化させながら熱マネジメントを実現します。ちなみに、MOLpでは、熱伝導率ではなく、ポリメタックの金属と樹脂の密度の違いによる重心の変化を用いて、明らかに不安定なところで安定する照明「deposition 」を発表しています。MOLpのコンセプトである「MIXOLOGY」(※組み合わせの楽しさ)に基づいた異素材のコラボレーションですね。
- 関連リンク:
- 「deposition 」