そざいんたびゅー

プラスチックを「一生もの」に。ナガオカケンメイが語る、経年変化の楽しみ方

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日々の生活や仕事のなかで「素材」と向き合う人たちの考え方に触れる、連載「そざいんたびゅー」。第1回目となる今回は、経年変化したプラスチックを愛する、ナガオカケンメイさん(D&DEPARTMENT PROJECT代表取締役会長)にMOLpメンバーがお話をうかがいます。
さまざまな企業がSDGsやサスティナブルな取り組みに力を入れている昨今。脱プラスチックもそのひとつとして捉えられていますが、ナガオカさんは「プラスチックは、長く使うことで魅力が増す」と言います。末長くプラスチックとつき合うための工夫とは?

執筆:宇治田エリ 撮影:佐藤翔 編集:吉田真也(CINRA)

プラスチックも経年変化を楽しめる。愛着を持ち始めたきっかけ

MOLpチーム(以下、MOLp):ナガオカさんはプラスチックがお好きで、長年プラスチックを集めているとうかがいました。どこに魅力を感じるのでしょうか?

ナガオカケンメイ(以下、ナガオカ):正直、好きな理由を聞かれても、わからないんですよ(笑)。漆とか金属などの経年変化を味わう世界もわかるけれど、ぼくが何よりも惹かれたのはプラスチックでした。20年以上前にD&DEPARTMENTを始めた頃から、プラスチックにはなぜか惹かれるんですよね。

特に、普通だったら真っ先に捨てられそうな経年変化したプラスチックが好きで。ビーチに行っても、海を眺めるのではなく、下を見ながら打ち上げられたプラスチックを探して、良い感じに原型が残ったやつとかを集めてきました。この話を誰にしても、何とも言えない顔をされるんですけれどね(笑)。

D&DEPARTMENT PROJECT代表取締役会長のナガオカケンメイさん

MOLp:プラスチックを使ったプロダクトはたくさんありますが、特に惹かれるのはどんなものでしょうか?

ナガオカ:何かに使えるかもしれない形状をしたプラスチックに興味があります。じつは、最近お茶を習い始めまして。かつて千利休は、本来お茶の道具でなかった品々を茶の道具に見立てて取り入れていたという話があります。誰かが決めた使用方法や価値観だけではなく、形状によっていろんな使い方ができそうなものは惹かれますね。

たとえば、お茶を淹れるときに、急須の蓋を置くだけの台が、浜に打ち上げられたカスカスになった楕円形のプラスチックだったら面白いなって(笑)。そういった、いろんな「見立て」ができるものを集めています。

D&DEPARTMENTに置かれていたプラスチック製の雑貨類

MOLp:最近は、海洋ごみの問題の観点からプラスチックをなくそうという動きも強まっていますが、それについてはどう思いますか?

ナガオカ:あまり賛成できないです。誰もがプラスチックには日頃から本当にお世話になってきたはずなのに、いきなりなくすって、すごく極端ですよね。プラスチックだって、経年変化を楽しみながら長く使えば良いと思うんです。そういう選択肢に気づけたほうが、より便利で豊かな生活を送れるはず。

プラスチックも長く大切に使いながら、捨てるときはきちんと分別して捨てることこそが、ものとの向き合い方の本質であり、海洋ごみの問題を防ぐ方法なのではないでしょうか。タバコや自転車の運転と同じく、マナーを守ることが一人ひとりの生活の豊かさと地球環境を守るための第一歩かと。

「一生ものになる」と伝えたかった。経年変化したプラスチックの展覧会も開催

MOLp:2020年1月から2月まで金沢市で開催された、展覧会『nagaoka kenmei plastics』でも、プラスチックの経年変化の魅力を発信されていましたね。MOLpメンバーも何人も見に行きました。

ナガオカ:ありがとうございます。昔から経年変化したプラスチックをコレクションしていたので、その良さを伝えるための発表と販売も兼ねた展覧会を開催しました。

「factory zoomer/gallery」で開催された展覧会『nagaoka kenmei plastics』。現在はD&DEPARTMENT TOKYOの2階でも展示販売中

MOLp:どういった経緯で展覧会を開くことになったのでしょうか?

ナガオカ:渋谷ヒカリエで展示した『LONG LIFE DESIGN 1(47都道府県の健やかなデザイン)』展にも出展してくださった、金沢のガラス作家・辻和美さんに声をかけていただいたのがきっかけです。

辻さんは、ロックグラスなどをつくっている作家さんで、ガラスの表面にカットをいれる作品をたくさん生み出しています。辻さんご自身も、古いプラスチックがお好きな方。もともと切子細工のガラスを模したであろうプラスチックの製品を、もう一度ガラスに戻すシリーズなども手掛けていらっしゃいます。ぼくがプラスチックを好きなことは以前から知ってくださっていて、「いまの時代だからこそ、プラスチックをテーマにした展示がしたい」ということで、ご依頼いただきました。

でも、ただのプラスチック製品を集めた展覧会だと面白くないので、「プラスチックの経年変化の魅力を伝える展示とかどうでしょうか」と提案して、実現したかたちです。

実際、展覧会には多くの方にご来場いただきました。バケツやイス、タッパーのような経年変化したプラスチックの展示品を販売もしたのですが、いろんな人にお買い上げいただけました。これまでも百貨店の展示会などで経年変化したプラスチックを出してきたのですが、こんなに購入いただけたのは初めてで。何よりも今回のコンセプトをさまざまな方に共感いただけたことが、嬉しかったですね。

MOLp:新品ではなく、経年変化したプラスチックが売れた要因は何だと思いますか?

ナガオカ:ひとつは、明確な世界観をつくれたこと。コンセプトとして、経年変化したプラスチックを「plastics」と名づけ、「経年変化したプラスチックも、一生ものになりえる」と言い切ったんです。それだけで人の見方は変わるもので、「そっか、捨てなきゃ良いんだ」と思ってもらえたのかなと。SNSでも反響は大きかったです。

もうひとつの理由は、「時代」ですね。多くの人が経年変化したものに対して興味を持ち、一回誰かが使ったものに安心感や特別感を見出すようになってきた。実際、ここ最近は、ヴィンテージの洋服や雑貨好きな若者が増えていますよね。経年変化によって「一点もの」としての価値が生まれる。その価値観が、どんどん浸透してきているのは大きな要因だと思います。これからは、ますますそういう時代になっていくでしょうね。

20年も紫外線を浴び続けた植木鉢が1万円に。「味」は付加価値になる

MOLp:ナガオカさんのお気に入りのプラスチック製品を教えてください。

ナガオカ:沖縄の強い紫外線を浴び続けた、20年もののプラスチックの植木鉢ですね。いまでもホームセンターで買える定番の型ではあるんですが、沖縄のとある畑で経年変化したこの植木鉢が大量に余っているのを見つけて。60個くらい引き取って、自宅の高圧洗浄機で表面の汚れを削って展覧会で販売しました。約1万円で販売したのですが、けっこう売れましたよ。

実際にナガオカさんも愛用している、経年変化したプラスチックの植木鉢

MOLp:1万円と聞くと少しびっくりしますが、新品にはないザラザラした質感や色落ちの具合も、「沖縄育ち」ならではの風合いを感じます。とても魅力的ですね。

ナガオカ:全部同じクオリティーの新品とは違い、それぞれに「味」が出るのは、経年変化の醍醐味ですからね。一見、ごみに見えるようなものでも、少し手を加えたり、見方を変えたりすれば、唯一無二の魅力を引き出すことができる。ものに付加価値をつけるのが、ぼくらD&DEPARTMENTの仕事のひとつでもあります。

MOLp:展覧会で「プラスチックは長く使い続けられるもの」と提示したことで、何か得られたものはありますか?

ナガオカ:複数のプラスチックメーカーから、お問い合わせをいただきましたし、そこから、おつき合いにつながったケースもあります。そのうちの一社は、プラスチック製の家庭用品などを手がけている、大阪のサナダ精工という会社です。

出会いのきっかけは、ぼくがFM京都でやっているラジオで、番組の継続のためにクラウドファンディングを行った際のこと。おかげさまで、目標金額を達成して番組の継続が決まったのですが、サナダ精工さんが100万円を出してくれていたと、あとになってわかったんです。プラスチック製品を扱う会社として、展覧会のコンセプトに感銘を受けてくださっていたそうで。

その恩返しとして、ぼくの声でサナダ精工のスローガン「愛されるプラスチックをつくろう」を番組内のコマーシャルで伝えるというご縁がありました。まさに「プラスチック愛」がつないでくれた縁ですね(笑)。いまは、面白いことを一緒にできないかと話を進めていますので、近く何か発表できると思います。

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