そざいんたびゅー

もし「ゲロ」が生きていたら。
risa taokaが粘土と樹脂で作る、弱さを愛でるためのアート作品

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思わず目を引く、鮮やかな色彩と有機的なフォルム。risa taokaさんの作品には、かわいらしさと不穏さが同居しています。じつは彼女の立体作品、「嘔吐」や「下痢」といった、ままならない身体反応をモチーフにしているんです。

紙粘土を手でこね、樹脂でコーティングすることで生まれるのは、彫刻でもアクセサリーでもあるような、一種のキャラクター。自身の経験や身体感覚から出発した制作は、内面と身体、そして素材の関係を問い直します。

risaさんに、作品が生まれた背景と、制作を支える素材へのまなざしについてうかがいました。

取材・執筆:中島晴矢 写真:浅野杏子 編集:川谷恭平(CINRA)

写真提供:risa taoka/撮影:Narumi Aoki/モデル:Yu Ishizuka

口から「ゲーッ」と出るアクセサリー? ポップで軽い、嘔吐アート

MOLpチーム(以下、MOLp):アトリエに並ぶ作品を拝見しました。「嘔吐」がモチーフとうかがって聞いていますが、鮮やかな色彩や質感が印象的ですね!

risa taokaさん(以下、risa):ありがとうございます。いくつかのメディアで紹介されたのですが、「ゲロ」というモチーフとカラフルなビジュアルのギャップが、多くの人の目に留まったようです。

もちろん「ゲロ」には自分なりの思い入れがあるんですけどね。

アーティストのrisa taokaさん。1990年、神奈川県生まれ。多摩美術大学から武蔵野美術大学基礎デザイン学科に編入。卒業後は広告会社にてアートディレクターとして働く一方、2020年よりアート制作を開始。現在はアート制作に専念。

MOLp:そんな「ゲロへの思い」も深掘りしていきたいです。まずは、現在どのような作品をメインに制作しているのか教えてください。

risa:いまメインでつくっているのは、直接口に装着するタイプの作品です。アクセサリーとしての側面もあり、口からゲロがあふれ出ている状態を表現しています。

MOLp:マウスピースのように装着するわけですよね。

risa:そうですね。歯医者さんでよく使われる、プラスチック製のマウスオープナーをくわえるんです。作品の素材は主に紙粘土なので、めちゃくちゃ軽い。その軽さにもかかわらず、口から「ゲーッ」と出ているように見えますよ。

写真提供:risa taoka/撮影:Narumi Aoki/モデル:Emari Hosoya

悪夢をポジティブに変える。喉元の「詰まり」を解き放つ造形

MOLp:そもそもrisaさんは、どういう経緯でアート作品をつくるようになったんですか?

risa:もともとは美大を卒業後、広告業界でアートディレクターとして働いていたんです。でも、だんだん「自分の名前で自分の作品をつくりたい」という気持ちが強くなっていって。そんなとき、きっかけとなったのが「カッパ」でした。

MOLp:カッパ、ですか?

risa:雨具ですね! 私は野外の音楽フェスが大好きなんですけど、雨が降ると、皆のオシャレなファッションが、真っ黒なカッパで覆われて、会場の雰囲気が一変してしまうのが、すごく嫌だったんです。

そこで何かできないかなと考え、撥水性と通気性に優れた建築部材「タイベック®」を使って、ロゴが入った白いカッパをつくったんですよ。実家が工務店だったので、なじみのある素材でした。

MOLp:カッパを自作するところから作品制作がスタートしたんですね。

risa:そのとき「ファッションって面白いな」と思って。デザイナーの坂部三樹郎さんが学長の「me」や、同じくデザイナーの山縣良和さんが代表を務める「coconogacco」といったファッションの学校に仕事をしながら通うようになったんです。

MOLp:そこからどうやって「ゲロ」というモチーフに出会うんですか?

risa:通っていた学校は「自分自身の経験や考え方を掘り下げてものをつくろう」という教育方針でした。そこで自分の過去をどんどん振り返っていくなかで、思春期に見たある夢にぶつかったんです。

ベッドの上で制服姿の自分が起き上がると、ゲロがとめどなくドバドバと流れ出てきて、それが氷柱のように固まって息ができなくなり、「どうしよう……」と焦って眼が覚める。自分のなかで強く印象に残ったその夢が、インスピレーションの源になりましたね。

その夢を描いた絵がこれです。

MOLp:色味も全体的に暗く、孤独感を感じる絵ですね。

risa:ただ、それをパッと立体作品にしてみたら、自分の喉元に詰まっていたものを取ってあげたような、ホッとした気持ちになって。悪夢を作品化することで、すごくポジティブになれたんですよ。

ファッションの学校で「身にまとうもの」を考えていたこともあり、そのあふれ出たものを身につけられる形にしてみようと考えました。それから取り憑かれたようにゲロをつくり続けました(笑)。

MOLp:ある意味、ゲロの立体は、ご自身の過去のトラウマを昇華したものなんでしょうね。

risa:もっというと、私は昔から夢のなかにドロっとしたものがよく出てくるんです。

緑と赤と黄色みたいに、カラフルな原色がグチャっと混ざっているものが多くて。そういうイメージ全体を作品にしているので、じつは私が表現しているのは「実物のゲロ」とは全然別ものなんですよね。

MOLp:なるほど。ゲロはあくまで象徴の1つであって、risaさんの作品は夢のなかのビジョンを具現化したものなんですね。

risa:そうですね。生きていくなかで何かを受け止めようとしたときに、精神的に苦しくなって、受け止めきれずにあふれ出てしまうもの……そういうものを表現しています。

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