カガクのギモン

ピッチャーの変化球はなぜ曲がる? 野球観戦が楽しくなる原理を紹介

  • Social

outline

ストレート、カーブ、シュート、スライダー、フォーク、ナックルなど野球のピッチャーが投げるボールは、さまざまな軌道を描きます。カーブは曲がり、フォークは落ち、ナックルは予測不可能……。なぜこのような変化が起きるのでしょうか? 今回は、ピッチャーが投げるボールの軌道について、カガクに詳しい「モルおじさん」が解説します。

※ 本記事は、2017年冬号として発刊された三井化学の社内報『MCIねっと』内の記事を、ウェブ向けに再編集して掲載しています。

イラスト:ヘロシナキャメラ 編集:川谷恭平(CINRA)

ボールの変化は飛行機が飛ぶ理由と同じ?

ピッチャーの繰り出す多彩な変化球に注目して野球を観戦する人も多いのでは。ピッチャーにとって球種は武器で、ホップするように感じたり、曲がったり、落ちたりするボールはバッターへの脅威となります。ところで、なぜこうした変化をするのかご存知ですか? 今回も、カガクに詳しい「モルおじさん」が詳しく解説します。

カガクに詳しい「モルおじさん」。マウンドに立って振りかぶった

変化球の話をする前に、まずはストレートの原理について解説します。ピッチャーから放たれたストレートは進行方向に対して逆回転し、空気抵抗を受けながら前へ進みます。このとき、ボールの上側の空気の流れがボールの回転する方向と同じになるため、ボールの上側の空気の流れが速くなります。

反対にボールの下側は、空気の流れがボールの回転方向と逆になるため、空気の流れは遅くなります。ボールの上側と下側で空気の流れるスピードが異なるため、そこに圧力の差が生まれます。ピッチャーのストレートの場合は、ボール上側の圧力が小さく、下側の圧力が高くなるため、ボールには浮き上がる方向の揚力が働きます。これを「マグヌス効果」と言います。

ピッチャーが投げたストレートを横から見た図。ストレートはバックスピンがかかって進んでいくので、ボールの上側と下側に圧力差が生じて揚力が発生する(マグヌス効果)

ボールの回転数が多くなるにつれて、この力も強くなります。すばらしいピッチャーのストレートが手元で浮き上がって見えるのはマグヌス効果によるものです。

じつは、この原理は飛行機が飛ぶ理由と同じです。飛行機の翼にあたった空気は、翼の上面と下面に分かれます。上面では空気の流れが早くて低圧に、下面では空気の流れが遅く高圧になります。この圧力差によって、機体が浮き上がるのです。

飛行機も翼に揚力が発生して空を飛ぶことができるんですね

浮き上がる仕組みは「ベルヌーイの定理式」というエネルギー保存則によって証明されています。ケンブリッジ大の風洞実験が分かりやすいので、ご覧になってください。

マグヌス効果と縫い目の空気抵抗により変化

つぎに、変化球がなぜ曲がるのかを説明します。カーブやスライダー、シュートといった曲がる球種の場合、ピッチャーは投げる際に手首をひねるなどして、ボールの回転軸を地面に対して横や斜めにしています。

このときもマグヌス効果が働きます。ストレートの場合は上に向かった力が働きましたが、たとえばスライダーの場合、回転軸が地面に対して横向きに回転しているので、圧力差が生じて回転している側に力が働き、ボールが横に動いていくのです。ストレートの図を上から見た図として見ていただくとわかりやすいかと思います。また、重力も働くので、軸の傾きに応じて斜めに曲がりながら落ちる変化が起きます。これが変化球の正体です。

ボールの回転が横方向になると、マグヌス効果でボールにかかる力も横方向に働きます

また、フォークやナックルなど、ピッチャーが意図的にボールを回転させないようにして投げる球種があります。回転数が少なければマグヌス効果の働きは小さくなりますが、そこにはまた別の現象が起こっています。

ナックルボールを横から見たイメージ。いわゆる「ブレ球」を生むには無回転である必要がある

回転しないボールの背後には、上下に時計回りの渦と反時計回りの渦が交互に発生しています。これを「カルマン渦」といいます。カルマン渦が列をなして交互に発生することでボールは上下方向に力を受けるため、不規則な変化をします。

これはボールの上下だけでなく左右でも起こっているうえ、ボールの縫い目で空気抵抗も変わります。そのため、ナックルはピッチャー自身も投げてみるまでどのような軌道を描くかわからないといわれます。

このように、変化球には目に見えない空気の流れや力が働き、独特な動きが生まれているのです。ボールの軌道が変化する原理がわかると野球観戦がもっと楽しくなるはず。ピッチャーの手元やボールの軌道にも、ぜひ注目してみては?

バッターに打ち返されるモルおじさん

モルおじさんのひとこと

今回はモルおじさんも大好きな野球のカガクでした。マグヌス効果はピッチャーだけでなく、バッティングでも効果を発揮します。バッターが遠くに飛ばすためにはボールの下側を打って逆回転を掛けることで、マグヌス効果でボールは高く上がります。美しいアーチを描くホームランにもそうした「カガクのチカラ」が働いているんですね。

ちなみに三井グループでは、毎年守備のスペシャリストを表彰する三井ゴールデン・グラブ賞を提供しています。2021年の今年で50回目を数えるまでに長く愛される賞になっています。モルおじさんも三井ゴールデン・グラブ賞のように長く愛される存在としてカガクの楽しさを伝えていきたいと思います。